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2025.03.26
米国経済
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トランプ政権
DOGEの連邦職員カットによる雇用市場への影響
~直接的な影響は限定的だが、民間雇用への波及に警戒が必要~
前田 和馬
- 要旨
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- 政府効率化省(DOGE)の主導により米連邦政府職員の削減が進んでいる。現時点で公表された解雇を含む離職数は20万人弱に留まる一方、試用期間職員の更なる削減や新規採用の凍結を通じて、連邦政府職員は2025年中に最大で37万人削減される可能性がある。
- 同削減は直接的な影響に限れば、雇用市場の大幅な悪化を招くものではない。離職した政府職員が民間に一切再就職できないという極端な前提に立っても、失業率への影響は0.2%ptに留まる。
- とはいえ、政府と関連する請負業者などの民間雇用は連邦職員の2倍以上と見込まれる。実現性には不透明感が残るものの、トランプ政権が財政改善を重視し政府発注や補助金の大幅な削減へと踏み切る場合、失業率は最大で0.7%pt程度上昇するリスクがある。
起業家のイーロン・マスク氏が率いる政府効率化省(DOGE)が米連邦政府職員の削減を進めている。具体的には連邦政府職員の早期退職募集や試用期間職員の解雇のほか、各政府機関に対して9月までに更なる組織合理化を要求している。米国におけるこうした政府職員の大幅削減の取り組みは90年代のクリントン政権以来となるものの、当時は半年かけて削減計画を策定したことと比べると、そのスピード感が際立つ。また、試用期間職員の解雇を巡ってはその適法性が法廷闘争へと発展している。本稿ではこうした政府職員削減による雇用市場への影響を概観する。
1.連邦政府職員の実像
2024年2月時点における政府部門の雇用者数は2,362万人に達し、これは米国の非農業部門就業者数1.6億人の14.8%に達する。このうち2,061万人は教師を中心とした州・地方政府、60万人は独立した権限を持つ米国郵政公社(USPS)による雇用である。このため、DOGEによる職員削減の対象である連邦政府職員は241万人、全体に占める割合は1.5%に留まる(図表1)。
軍人を除く職員数(civilian employment;注1)を機関別にみると(図表2)、退役軍人省が48万人と最大であり、国土安全保障省の23万人、その後は国防関連の陸軍省や海軍省が続く(2024年9月時点)。州・地域別ではワシントンDC地区が16万人(2024年3月時点)と最も多く、隣接するバージニア州とメリーランド州にもそれぞれ14万人とDC周辺に雇用が集中している。これ例外では人口規模の多いカリフォルニア州(15万人)やテキサス州(13万人)にも多くの雇用がみられる。
属性別にみた場合の連邦政府職員の特徴は次の通りである(図表3)。まず、在籍者の年齢分布は40代から50代に集中しており、米国全体の労働者分布よりも年齢層が高い。特に20代を中心とした若者が民間よりも少ない背景として学歴の高さが考えられる。学部卒の割合31.5%(雇用全体:27.5%)、修士や博士を持つ割合は22.0%(17.4%)にそれぞれ達しており、学術的な専門性や知見を持つ人材が多く在籍しているとみられる。人種別では黒人の割合が相対的に高い一方、白人やヒスパニックの比率が低い。
待遇面を巡っては、大卒以下の報酬(賃金や退職金など)は民間よりも良い一方、博士号を持つ人材の報酬は民間部門と比べると20%強低い(図表4)。2011~2013年にかけて連邦議会の意向で賃金改定がほぼ凍結されたこと等を背景に、CBO(2024)は2011年以降の政府職員の賃金上昇率が民間部門よりも抑制されていたと指摘する。しかし、雇用の安定性は民間よりも高く、2022年における解雇等による平均失業期間は年間0.6%と民間部門(1.3%)と比べると半減する。

2.連邦職員削減の取り組み
現時点において、DOGEによる連邦政府職員の削減に向けた主な取り組みは以下の3つである。
まず、①早期退職プログラムの募集だ。トランプ政権発足間もない1月28日に軍人や保安職員以外で募集を行い、約7.5万人(全体の3.2%)が応募したものの、政権が見込んでいた全職員の5~10%の削減を下回った。また、2023年度における離職率(自発的離職及び定年退職)は5.9%であり(Teel and Cohen[2024])、同プログラムがなくても定年退職などの予定があった職員が一定数含まれていることを踏まえると、実質的な人員削減効果は不透明である。なお、同プログラムに応募した職員は給与が9月30日まで支払われる一方、同期間に政府機関で働く必要はなく転職活動も可能である。
次に、②勤続年数が主に1年未満の試用期間職員の解雇だ。24年9月時点で19.9万人が対象であり、CNNは公表済みの解雇数が3月19日時点で10.6万人に達すると集計している。トランプ政権は解雇が比較的容易である試用期間職員を対象とした一方、民主党系のカリフォルニア州地裁は同決定を一時的に差し止め、解雇された職員を復職させるように命じている。なお、トランプ政権はこれらの判決に対して控訴しており、今後も同解雇を巡る法廷闘争が続く可能性が高い。
最後に、③2月26日に通達された人員削減等の実施方針だ。行政管理予算局(OMB)と人事管理局が発行した資料によると、各連邦機関は非義務的な職務を担う部門と職員のリスト等を3月13日まで、効率的な機関運営に向けた展望を4月14日までにそれぞれ提出し、9月30日までに同取り組みを実施する必要がある。詳細な取り組みは依然不明であるものの、同資料では具体的な方法の一つとして「(移民や保安関連を除いた)新規採用は凍結し、1人の新規採用に際しては4人の離職者」が必要と指摘している(就任日に署名した大統領令においても採用凍結に言及)。2023年度における離職率5.9%が維持され、このうち4分の3が人員補充されないと仮定すると年間10万人の人員削減へと繋がる。なお、①の早期退職募集を背景に当面の自発的離職が限定的に留まる場合、同人員削減規模は大幅に縮小する。
3.雇用関連指標への影響
上記3つの取り組みに関する非農業部門雇用者数、失業率、新規失業保険給付件数への影響は次の通りである。離職する職員が民間部門へ再就職をしないという極端な前提に立つ場合においても、失業率への影響は0.22%ptに留まるなど、現時点における連邦政府職員削減の取り組みが直接的に労働市場を大幅に悪化させるわけではない。
- 非農業部門雇用者数(月次雇用統計・事業所調査)
雇用統計における事業所調査を基にしており、毎月12日を含む給与支払期間に賃金を受け取った就業者がカウントされる。①早期退職プログラムは9月末まで給料を受け取れるため、同期間までは雇用者とした計上される。一方、②試用期間職員は給与の支払が終わった時点で雇用者ではなくなる。また、③原則的に新規採用が凍結され離職者の補充がなされない場合、政府職員の水準は減少が続くと見込まれる。
① 早期退職プログラム:2025年10月以降に最大で7.5万人
② 試用期間職員の削減:2025年2月以降に最大で累計19.9万人
③ 新規採用の凍結:2025年2月以降に最大で年間10万人(月次で約0.9万人)
- 失業率(月次雇用統計・家計調査)
雇用統計における家計調査を基にしており、「失業率=失業者÷(就業者+失業者)」と定義される。毎月12日を含む週に「働いた」と申告した人が就業者、「働いておらず、職探しをしている」人は失業者、それ以外の人は非労働力人口に計上される。①早期退職プログラムの応募者の多くが「仕事がない」と回答した場合、求職活動を始めれば失業者、給料を受け取れる9月頃まで求職活動をしない、或いはそのまま定年退職するのであれば非労働力人口とカウントされる。一方、②の大半は一時的に失業者となる可能性が高い。他方、③は新規採用が凍結されようとも、一部の失業者が連邦政府での雇用を志向し続けて求職活動を続ける、或いは政府雇用を代替する民間の仕事が存在しないなどの場合に限り、失業率へ影響を与える。
① 早期退職プログラム: 2025年後半にかけて最大で+0.04%pt
② 試用期間職員の削減:2025年2月以降に累計で+0.12%pt
③ 新規採用の凍結:2025年2月以降に最大で+0.06%pt(採用凍結分と同等の失業者を仮定)
- 新規失業保険申請(週次統計)
毎週木曜に先週分の一般プログラムの集計値が公表される一方、連邦政府職員の失業補償(UCFE)は異なる集計値として1週間遅れで公表される。米国の失業保険は州によって受給条件や受給額が異なっているものの、「一般的には事業主都合で解雇され、求職中の就業可能な失業者」(労働政策研究・研修機構[2024])が受給資格を満たす。①早期退職プログラムの応募者は9月末までの給与受取期間には就業者とみなされる、或いは自発的な離職者と認定されることで、少なくとも当面は受給資格を満たさない可能性がある(注1)。一方、②試用期間職員に関しては一定の収入があれば受給資格を満たすとみられ、失業保険の申請が可能だ。他方、③は現時点でUCFEの受給資格を有しないと考えられるため、影響はほぼゼロとみられる。
① 早期退職プログラム:2025年10月以降に最大で7.5万人
② 試用期間職員の削減:2025年2月以降に累計で19.9万人
③ 新規採用の凍結:ほぼ影響なし
4.民間への波及
以上を踏まえると、DOGEによる連邦政府職員削減の直接的な影響は限定的に留まる見通しだ。一方、連邦政府職員や政府予算の削減が関連する民間雇用にも影響を及ぼす場合、政府と民間部門の合計で最大122万人の雇用が減少する懸念がある。
ブルッキングス研究所は2023年度における政府業務の請負業者(contract)による民間雇用が522万人、政府補助金(Grant)を受け取る公的団体や非営利組織の雇用が231万人と試算している(図表5)。なお、トランプ一次政権開始時の2017年と比較すると、同期間の軍人を除く政府職員が4万人の増加に留まる一方、これら政府関連の民間雇用は221万人増加している。なお、政府による請負契約額の上位は軍需関連企業が多くを占めており(発注元の60%は国防総省)、それ以外では医療保険企業やIT・コンサルティング企業などが目立つ。
仮に連邦政府職員が15.4%(37万人)削減され、民間関連雇用も同等の割合で減少する場合(-15.4%:85万人)、雇用への影響は122万人に達し、失業率は最大0.7%pt程度上昇するリスクがある。とはいえ、本試算に関しては「外注費の6割を占める国防関連予算を大幅に削減できるのか」、「非国防予算に関しても大幅な請負業者の削減が公的業務に重大な支障を及ぼさないか」など実現に向けたハードルが多く残る。また、前述した通り、失業率への影響は離職した政府職員や民間就業者の再就職を前提としていないため、過大である可能性が高い点に留意が必要だ。

5.米国内の世論
こうした政府職員削減を含むDOGEの活動を巡って、無駄を削減するという方向性を支持する米国民は多い。NBC Newsが3月7~11日に実施した世論調査によると、「DOGEは良い考え」の回答が46%と、「悪い考え」の40%を上回っている(図表6)。とはいえ、その進め方には懸念の声もあり、DOGEの取り組みを「まだやるべきことがあるので、続けるべき」との回答は33%に留まり、「必要であるが、影響を評価するためにペースを落とすべき」との意見が28%に達する(「無謀であり、これ以上の被害が出る前に止めるべき」が33%)。なお、連邦政府職員に好感を持つ人の割合は49%と、好感を持たない人の21%を大幅に上回る。
米国の財政収支(利払い費を除くプライマリーバランス)はコロナ禍の2020年度にGDP比で13.1%まで悪化し、直近2024年度では3.6%と依然コロナ以前の赤字水準を上回るなど(2019年度:2.9%)、財政収支の改善ペースは緩慢に留まっている。こうしたなか、DOGEによる急進的なやり方が維持されるかは不透明である一方、政府職員の削減を中心とした財政赤字削減への取り組みは中期的に維持される可能性がある。

【注釈】
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雇用統計の事業所調査における非農業部門雇用者数、及び家計調査における文民人口(Civilian noninstitutional population)に軍人は含まれない。
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例えばカリフォルニア州は「同プログラムの応募者は9月30日まで雇用されており、その後失業保険の申請ができる可能性がある」「早期退職は自発的な離職であり、失業手当の受給には退職の正当性などを示す必要がある」と述べられている(CAEDD “Unemployment Benefits for Federal Workers”, 2025-3-25参照)。
【参考文献】
※ 全てのURLは2025-3-25参照。
労働政策研究・研修機構(2024)“データブック国際労働比較2024.”
CBO (2024) “Comparing the Compensation of Federal and Private-Sector Employees in 2022.”
CBS News (2025) “How Clinton's "reinventing government" compares to DOGE's approach: "We cut fat and they cut muscle".”
CNN (2025) “Tracking Trump’s overhaul of the federal workforce,”.
Kamarck, Elaine (2025) “Is government too big? Reflections on the size and composition of today’s federal government,” The Brookings Institution: Research.
Light, Paul C. (2020) “The True size of government is nearing a record high,” The Brookings Institution: Commentary.
NBC News (2025),“White House says about 75K federal workers accepted 'deferred resignation' offer.”
NBC News (2025),“Poll: Voters like the idea of DOGE, but Elon Musk and his early results raise red flags,”.
Teel, Kennedy and Will Cohen (2024) “Recent trends in quits and retirements in the federal workforce,” Partnership for Public Service: Blog.
前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

