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2024.06.14
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アルゼンチン・ミレイ政権に大きな一歩、上院が経済改革・緊縮財政法案を承認
~大きな一歩の一方で事実上の骨抜き懸念も、頭打ちの兆しがでるインフレに不透明要因もくすぶる~
西濵 徹
- 要旨
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- アルゼンチンでは昨年12月に誕生したミレイ政権の下でショック療法的な経済改革の動きが進んでいる。IMFや金融市場は政権の取り組みを評価する一方、急進的な内容を巡って国内には反発が多く、政権与党が議会上下院で少数派に留まることも足かせとなってきた。経済改革・緊縮財政法案は度々議会で否決されたが、修正協議を経て内容は当初案から大幅に後退するも13日に議会上院が承認した。この動きはミレイ政権にとって大きな一歩となる一方、事実上の骨抜きの動きもみられる。足下ではようやくインフレに頭打ちの兆しが出ているが、ペソ相場には再び調整圧力が強まるなどインフレに悪影響を与える懸念がくすぶる。壮大な社会実験とみられるミレイ政権の構造改革だが、その成否は未だ見通せない状況にある。
アルゼンチンでは、昨年12月に発足したリバタリアン(自由至上主義)を標ぼうするミレイ政権が矢継ぎ早に『ショック療法』的な経済改革を打ち出す動きをみせてきた。ミレイ政権は財政健全化を目的に公共支出の大幅削減のほか、公営企業の民営化による公的部門のスリム化を図るとして、具体的な方策として、①連邦政府による締結後1年未満の有期雇用契約の未更新(前政権関係者による既得権益の破棄)、②政府広告の1年間停止、③省庁削減(管理職や政治任用ポストの削減)、④連邦政府による州政府への自由裁量交付金の縮小、⑤連邦政府による公共事業の新規入札中止、⑥エネルギー・公共交通機関関連の補助金削減、⑦職業訓練と補助金給付による雇用支援を維持しつつ、貧困世帯向け支援を直接給付に限定、⑧公定レートの大幅切り下げ(1ドル=800ペソ)、⑨輸入手続きの透明性向上、⑩貧困世帯向け支援の強化(支給額の5割増)、といった政策を打ち出した。さらに、ミレイ政権は経済改革を目的に300項目を超える法改正を定めた大統領令を公布するなど、不動産関連やサプライチェーン、国有企業、労働法制、関税、農業・鉱業・エネルギー関連、航空関連、商慣習、通信、観光関連など幅広い分野の規制緩和に取り組む方針を明らかにしてきた(注1)。こうした動きを巡っては、IMF(国際通貨基金)がミレイ政権による改革姿勢を評価する姿勢をみせているほか、金融市場においても主要株価指数(メルバル指数)が上昇の動きを強めるなど評価している様子がうかがえる一方、経済改革の内容が歴代政権による政権運営と比較して野心的かつ大胆に過ぎることを理由にハードルが高いとの認識をみせてきた(注2)。こうした背景には、ミレイ政権を支える右派ポピュリスト政党である与党・自由の前進が議会上下院双方で少数与党に留まるなか、ミレイ政権は大統領とは別に600項目以上から成る経済改革・緊縮財政法案を議会に提出したものの、野党を中心とする多数派が反発を強めるなど議論のこう着状態が続いてきたことに現れている。なお、経済改革・緊縮財政法案を巡っては議会が否決する展開が続いたものの、ミレイ政権は幾つかの重要項目を修正、削減した上で議会下院において承認されるとともに、議会上院に提出されて修正協議が行われてきた。こうしたなか、今月13日に当初案に比べて項目が大幅に削減(328項目)されるなど改革色が後退したものの、議会上院が経済改革・緊縮財政法案を承認したことが明らかになっている。修正法案の正式な成立には議会下院での再可決が必要となるものの、これまでミレイ政権による構造改革を巡っては議会手続きを経ず大統領令を駆使する形で進められてきたことに対して国内外で疑問が呈されることが少なくなかったなか、改革実現に向けて議会との共同歩調を取ることができたことは大きな一歩と捉えられる。なお、修正協議では投資インセンティブ計画の見直しのほか、国営企業の民営化対象から国営航空会社や郵便公社などを除外するなど大幅な譲歩を迫られており、ミレイ氏が掲げた構造改革は議会との協議を経て事実上の『骨抜き状態』が進んでいる模様である。とはいえ、政権与党が議会上下院ともに少数派に留まるにも拘らず、中道派や保守派などを取り込みつつ重要な分野で実現力を発揮できたことは、今後もミレイ政権が一進一退の様相をみせつつも経済改革の方向性を示すことの可能性の高さを示していると捉えられる。他方、昨年以降はペソ安による輸入インフレも影響する形で大きく上振れしてきたものの、中銀は3月以降に一転して利下げに舵を切るとともに、その後も物価の前月比の上昇ペースが鈍化していることを理由に断続利下げに動くなど、政策運営の方針を転換させている。事実、昨年以降に大幅に昂進してきたインフレ率は5月に前年比+276%と依然高水準ながら頭打ちに転じており、ミレイ政権が主導する経済改革がようやく結実しつつある兆しもみられる。ただし、急激な財政緊縮策により社会保障が事実上切り捨てられたことに伴い貧困層が急拡大しているほか、ミレイ政権による経済改革案には労働組合や社会団体などが強硬に反対しており、議会での協議に際して抗議デモが激化する動きもみられた。他方、ミレイ政権によるペソ相場の切り下げにより公定レートと非公式レートの乖離が縮小する動きがみられたものの、足下では再び乖離が広がる兆しがでており、輸入インフレ圧力の再燃がようやく頭打ちの兆しをみせるインフレ動向に悪影響を与える懸念もくすぶる。壮大な社会実験の行方は依然として見通せない状況が続いている。



注1 2023年12月28日付レポート「アルゼンチン・ミレイ政権が始動、「初手」はショック療法から」
注2 2月16日付レポート「アルゼンチン、金融市場やIMFは改革姿勢を評価も現状は困難が続く」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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