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2026.03.23
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韓国、次期中銀総裁に申鉉松氏指名、金融政策の方向性は?
~過剰レバレッジの規制強化の観測も、昨年末以降に急上昇した株式市場の行方はどうなる~
西濵 徹
- 要旨
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李在明大統領は、4月20日に任期満了を迎える韓国銀行(中銀)の李昌鏞総裁の後任として、BIS通貨経済局長の申鉉松氏を指名した。申氏は、オックスフォード大で博士号を取得するとともに、大学で教鞭を執った後に、欧米の主要中銀でのアドバイザー経験など、国際金融において豊富なキャリアを持っている。
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2025年の韓国の経済成長率は1.0%にとどまったが、株式市場は好調であった。コーポレートガバナンス改革、李政権による株主重視の政策公約、ねじれ国会の解消、改正商法による少数株主保護、さらに、AI関連投資への期待を背景にKOSPIは上昇した。個人投資家によるレバレッジ投資も株価上昇を加速させた。
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しかし、2月末のイランへの軍事行動を機に状況は一転している。エネルギー輸入依存度が高い韓国は、原油高の影響を受けやすく、3月4日には株式市場が急落してサーキットブレーカーが発動する事態に発展した。その後も、中東情勢を巡る不透明感がくすぶるなかでKOSPIは上値を抑えられる展開が続いている。
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過剰レバレッジの危険性を研究してきた申氏の下、中銀がタカ派姿勢を強めれば、個人投資家のレバレッジ投資に規制が入り、株式市場の不透明要因となりうる。また、ウォン相場は17年ぶりの安値圏にあり、中東情勢の長期化や「有事のドル買い」も重なり、先行きも厳しい環境が続くと見込まれる。
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韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は、4月20日に任期満了を迎える韓国銀行(中銀)の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁の後任に、国際決済銀行(BIS)通貨経済局長を務める申鉉松(シン・ヒョンソン)氏を指名したことを明らかにした。今後、国会において開催される人事聴聞会を経て正式に任命される見通しである。申氏はオックスフォード大を卒業し、同大で博士号を取得した後、同大のほか、LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)、プリンストン大などで教鞭を執った。その後、イングランド銀行やニューヨーク連邦準備銀行のアドバイザーを務めるとともに、李明博(イ・ミョンバク)元大統領の国際金融担当首席顧問を歴任したほか、2014年からBISの経済顧問となり、通貨経済局長を務めるなど、金融行政や中銀業務に精通している。こうした経歴が、韓国政府が申氏を次期中銀総裁に起用する一因になったと考えられる。
一方、2025年の韓国の経済成長率は+1.0%にとどまるなど伸び悩んでいる。こうした状況にもかかわらず、2025年以降の韓国金融市場は活況を呈してきた。背景には、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権が実施したコーポレートガバナンス(企業統治)改革の取り組みに加え、李大統領は公約に、株式市場における韓国企業の相対的低評価(コリアディスカウント)の解消、主要株式指数(KOSPI)の倍増、任期中に毎月100万ウォンを国内株に投資するといった内容を盛り込んだことも影響している。さらに、李政権の誕生で政府と国会のねじれ状態が解消し、政策運営が円滑に進むとの期待が高まった。また、2025年7月に成立した改正商法では、取締役に企業のみならず、すべての株主への説明責任を負わせる内容が盛り込まれ、財閥企業での大株主優遇による不合理な合併やスピンオフを抑制するなど、少数株主の利益を守ることにつながっている。改正商法では、アクティビスト(物言う株主)や個人投資家が企業の意思決定に関与しやすい環境整備なども進められている。こうした中で、世界的なAI(人工知能)関連投資の拡大期待を追い風に、KOSPIの時価総額上位の半導体関連株を中心に株価は上昇の動きを強めた。一方、若年層を中心とする個人投資家は海外資産の購入を活発化させており、ウォン安圧力が強まる一因となってきた。これを受けて、政府は2025年末に、個人投資家を対象に保有する海外株式を売却して国内株に1年間投資した場合の譲渡所得税を時限的に免除した。さらに、株価上昇を受けて個人投資家の間でレバレッジ投資が活発化したことも、その後の株価上昇を後押ししたとみられる。
しかし、2月末のイスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけに、中東情勢が緊迫化していることを受けて、金融市場を取り巻く環境は一変している。韓国は、原油や天然ガスなどエネルギー収支(輸出と輸入の差し引き)の赤字幅がGDP比で5%を上回る水準に達するなど、中東情勢の緊迫化を受けた原油価格の上昇による悪影響を受けやすい。韓国政府によれば、2025年12月時点で約200日分の原油備蓄があると公表しているものの、これは輸出分を含めており、輸出分を除けば70日分に満たないとされる。さらに、1次エネルギーに占める原油や天然ガスの割合を合わせると55%に達するため、仮に供給が滞れば幅広い経済活動に悪影響が出ることは避けられない。こうした事情も影響して、3月4日には株式市場が「投げ売り」の様相をみせ、証券取引所がサーキットブレーカーを発動する事態に発展した(注1)。その後も中東情勢に終わりがみえない展開が続いてKOSPIは上値が抑えられている背景には、2025年末以降の上昇ペースが急激だったことも影響している可能性がある。なお、申氏を巡っては、2008年の世界金融危機の発端となったリーマン・ブラザーズの破綻を予測したことで知られるほか、その論文の多くが過剰なレバレッジの危険性に焦点を当ててきた経緯がある。韓国は、家計部門が抱える債務がGDP比で9割弱とアジア太平洋地域のなかでも高い国のひとつであり、その大部分を住宅ローンが占めるほか、住宅価格高騰の一因となってきた。この問題について、申氏は過去のインタビューにおいて、レバレッジ解消に向けて政策を通じた大規模な取り組みが必要との認識を示してきた。金融市場では、申氏の下で中銀がタカ派姿勢を強めることで、株価上昇を後押しした個人投資家によるレバレッジ投資の動きに対する規制が強化されるとの見方も浮上しており、先行きの株式市場を巡る不透明要因となる可能性も考えられる。


また、前述したように、若年層を中心とする個人投資家による海外資産の購入活発化の動きはウォン安圧力を招いてきたが、2025年末に国民年金公団が「新たな戦略的為替ヘッジ」の導入を発表し、一時的にウォン相場は下げ止まる動きがみられた。しかし、その後も個人投資家を中心に海外資産に対する需要は根強く、ウォン相場は上値の重い展開をみせてきたほか、足元においては中東情勢の緊迫化を理由にウォン相場は調整の動きを強めており、17年ぶりの安値を更新する事態となっている。先行きについては、申氏のもとで中銀がタカ派姿勢を強めることは、ウォン相場にとって下支えとなる可能性はあるものの、中東情勢の先行きが見通せない展開が見込まれるなか、「有事のドル買い」の動きも追い風にウォン相場を取り巻く環境は厳しい状況が予想される。中銀は、2月の定例会合で政策金利を据え置くとともに、少なくとも8月までは金利を据え置く可能性が高いとの見通しを示していたものの(注2)、申氏の下でタカ派姿勢が強まる可能性を注視する必要性は高まっている。

注1 3月4日付レポート「韓国証取、イラン情勢を巡る市場混乱でサーキットブレーカー発動」
注2 2月26日付レポート「韓国中銀、政策委員は当面据え置き示唆も、新たなリスクの懸念」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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