インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

南ア・25年成長率は+1.1%どまり、ランド相場の行方は?

~金価格やトランプ関税の実質引き下げは追い風も、中東情勢に翻弄される展開は不可避か~

西濵 徹

要旨
  • 2025年の南ア・ランド相場は、米ドル安や金価格の急騰を背景に大幅に上昇した。2000年頃の南アフリカは世界最大の金産出国であったものの、足元では世界9位に低迷している。こうした状況ながら、主要株価指数に多数の鉱業企業が含まれており、金価格の上昇が株高やランド高につながってきた。
  • 一方、実体経済には好悪材料が混在する。マイナス面では、インフラ不足や対米関税(30%)による輸出への下押し圧力、欧州向け輸出の低迷が重しとなっている。プラス面では、インフレ鈍化と中銀の断続的な利下げを受けた個人消費の拡大、対中輸出の増加、電力供給の改善傾向が挙げられる。2025年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+1.5%とわずかに加速したが、依然として力強さを欠く推移をみせる
  • なお、2025年の経済成長率は+1.1%と3年ぶりに1%を上回ったが、他の新興国と比べると低水準にとどまる。洪水や干ばつによる農業生産の低迷や製造業、建設業の不振も重なった。米最高裁の違憲判断により対米関税が実質的に引き下げられ、先行きは輸出環境の改善が期待される。一方、中東情勢の不透明感やエネルギー価格の高止まりはリスク要因であり、ランド相場も引き続き不安定な展開が見込まれる。

2025年の金融市場においては、南アフリカの通貨ランド相場が大幅に上昇した。背景には、トランプ米政権の政策運営に対する不透明感に加え、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ実施も追い風に、米ドル安が意識されやすい局面が続いたことがある。さらに、世界的な分断の動きが米ドル離れを招いているうえ、世界経済を巡る不確実性への警戒から金需要が高まり、価格が急上昇したことも相場を押し上げる要因となった(注1)。南アフリカを巡っては、2000年頃までは世界最大の金産出国であったため、金融市場においては、長らく金価格とランド相場の連動性が意識されてきた。しかし、その後は表層の鉱脈が枯渇し生産コストが上昇、長期化する電力不足も重なる形で産出量は低下している。この結果、2025年の同国の金産出量は9位にとどまっている。なお、同国の金埋蔵量は依然として世界有数の水準ではあるものの、前述した要因が生産拡大の足かせとなり、産出量が増えにくい状況にある。一方、同国の主要株式指数(南アフリカトップ40指数)は、時価総額上位に金鉱関連をはじめ鉱業企業が含まれており、金価格の動向が業績に連動しやすく、株価に影響を与えやすい特徴がある。2025年の主要株式指数は金価格の上昇に連動して上昇するとともに、ランド相場を押し上げる一助になったと考えられる。

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一方、南アフリカの実体経済は勢いを欠く展開が続いてきた。南アフリカでは、慢性的な電力不足が幅広い経済活動の足かせとなってきたものの、2024年後半以降は計画停電が回避されるなど、電力供給を取り巻く環境には改善の兆しがうかがえる。とはいえ、発電量の水準はピークを大幅に下回る推移が続いているほか、電力以外のインフラを巡る状況には不確実性が高く、経済活動の足かせとなる懸念は残る。なお、トランプ米政権は同国に対する相互関税を30%とアフリカ諸国のなかで最高水準としたため、対米輸出に下押し圧力がかかる一方、中国は同国をはじめとするアフリカ諸国に対する関税をゼロに引き下げており、対中輸出は大きく押し上げられている。さらに、高止まりが続いたインフレは2023年後半以降鈍化の動きを強め、中銀目標の域内で推移しており、中銀は2024年9月にコロナ禍一巡後初の利下げに動き、その後も一時休止を挟みつつ断続的な利下げを実施するなど金融緩和を進めている。このように、実体経済には好悪双方の材料が混在するなか、2025年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+1.50%と前期(同+1.20%)からわずかに加速したものの、2四半期連続で1%台にとどまるなど勢いを欠いている。前述したように対中輸出は堅調な一方、対米輸出の下振れに加え、輸出の半分以上を占める欧州向けが力強さを欠いて輸出全体の重しとなっている。一方、インフレ鈍化や中銀による断続的な利下げも追い風に個人消費は拡大、鉱業関連を中心とする設備投資の活発化が固定資本投資を押し上げるなど、内需は総じて堅調に推移しているとみられる。内需の堅調さを反映して輸入は拡大しており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度がマイナスで推移していることが成長率の足を引っ張っている。また、在庫投資の成長率寄与度も▲2.00ptと大幅マイナスになったと試算されるなど、在庫調整が進む動きがみられる。したがって、足元の景気実態は数字に比べて堅調な動きをみせていると捉えられる。

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2025年通年の経済成長率は+1.1%と前年(+0.5%)から加速して3年ぶりに1%を上回る伸びとなったものの、他の多くの新興国が比較的高い経済成長率を記録した状況に比べると物足りなさは否めない。分野ごとの生産動向は、個人消費など内需の堅調さを反映してサービス業の生産は大きく上振れしている。ただし、6月に東ケープ州やケープタウン周辺で記録的豪雨による洪水が発生し、年末にも北部で大洪水が発生する一方、高温による干ばつ被害も相次いだことで農林漁業関連の生産は低迷している。さらに、外需を巡る不透明感が製造業や鉱業の生産の足かせとなるとともに、建設業も力強さを欠くなど、幅広い分野で生産が下振れした。なお、米連邦最高裁判所は2月、トランプ米政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に連邦議会の承認を経ず関税措置を発動したことを、大統領権限を逸脱しているとした下級審判決を支持して違憲とする判断を下した。これを受けて、米国はIEEPAを根拠とした相互関税を終了させる一方、通商法122条を根拠にすべての国からの輸入品に150日間限定で10%の関税を課す大統領令を発動している。この結果、米国が南アフリカに課す関税の税率は実質的に引き下げられており、先行きは対米輸出を取り巻く環境が改善すると期待される。同国は過去10年の平均成長率が1%未満にとどまり、政府はこの引き上げを目指しているものの、固定資本投資が力強さを欠くなかでそのハードルは依然として高い。さらに、2月末以降における中東情勢の不透明感の高まりにより原油や天然ガスなどエネルギー資源価格は高止まりしており、これらを輸入に依存する南アフリカにとっては対外収支の悪化や物価上昇を招くことが懸念される。なお、足元の金融市場においては「有事のドル買い」の動きが広がるなか、堅調な推移をみせてきたランド相場に変化の兆しがみられる一方、「有事の金」の動きを反映して金価格も高止まりしており、ランド相場は他の新興国通貨と比較して底堅く推移している。とはいえ、先行きのランド相場も市場環境に揺さぶられる展開が続くと見込まれる。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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