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2026.03.23
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ロシア中銀は7連続利下げの一方、戦時経済の限界も露呈
~原油高は追い風も、継戦能力向上でウクライナ戦争やイラン情勢の行方にも不透明感が続くか~
西濵 徹
- 要旨
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ロシア中銀は、3月20日の金融政策委員会で政策金利を50bp引き下げ15.00%とした。利下げは7会合連続となるうえ、2025年6月以降の累計利下げ幅は600bpに達するなど着実に金融緩和が進んでいる。
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中銀が利下げに動く主因は経済失速である。ウクライナ侵攻から4年が経過し、当初経済は制裁迂回や軍需景気で底堅さをみせがたが、物資や労働力不足が深刻化しており、2025年の成長率は+1.0%にとどまった。財政面でも、軍事費膨張と歳入不足を理由に急速に悪化しており、1月からVAT引き上げ(20→22%)が実施された。もっとも、インフレ率は2025年3月を境に鈍化しており、中銀に利下げの余地が生まれた。
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会合後に公表した声明では、景気の上振れリスク後退を認めつつ、中長期的な物価上振れリスクを警戒する向きをみせた。ナビウリナ総裁は、不確実性の高まりを理由に利下げ幅を50bpにとどめたと説明した。先行きは、金融緩和を求める政府、経済界と物価安定を重視する中銀との間で綱引きが続くであろう。
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金融市場では、中東情勢緊迫化による有事のドル買いでルーブルが急落している。しかし、米国がロシア産原油の輸入を時限的に容認し、で輸出環境の改善が期待される。一方、原油収入の増加はロシアの継戦能力を高め、ウクライナやイランなどの地政学リスクが長期化すれば、金融市場への影響も避けられない。
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ロシア銀行(中銀)は、3月20日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利(キーレート)を50bp引き下げて15.00%とすることを決定した。中銀による利下げ実施は7会合連続であり、政策金利の水準も2023年11月以来の水準となるなど、金融緩和が進んでいる。ロシア経済は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて戦時経済に突入し、先月で丸4年を迎えている。その一方、インフレ率は2023年半ば以降に加速して中銀目標(4%)を大きく上回ったため、中銀は戦時下にもかかわらず、物価安定を目的とする累計850bpもの利上げを余儀なくされた。インフレ率は2025年3月を境に鈍化したため、中銀は2025年6月に約3年ぶりの利下げに動くとともに、その後もインフレ鈍化を受けて断続的な利下げを実施している。今回の利下げにより、2025年6月以降の利下げ幅は累計600bpとなっている。

中銀が断続的な利下げに動く背景には、戦時経済状態が丸4年を経てロシア経済が勢いを失っていることがある。開戦当初のロシア経済は、欧米などの経済制裁に対して、中国など友好国との経済協力の深化を迂回路とする形で耐性の高さを示した。さらに、原油をはじめとする商品市況の上昇が交易条件の改善を促すとともに、軍事費の増大が幅広く経済活動を下支えした。しかし、こう着状態が続くとともに戦争は長期化、物資不足や労働力不足などが経済活動の制約要因となった。結果、2025年の経済成長率は+1.0%にとどまっている。こうしたなか、インフレ鈍化を受けて、プーチン大統領のみならず、政権内部や経済界からも、中銀の政策運営に対して公然と注文が相次ぐなど、『圧力』がかかる動きもみられた。戦争長期化による軍事費増大が歳出を大幅に膨張させる一方、欧米などの経済制裁強化に加え、原油や天然ガスなどの市況低迷が長期化して歳入が下振れするなど、財政状況は急速に悪化した。これを受けて、政府は財政の持続可能性を高めるべく、1月からVAT(付加価値税)を20%から22%に引き上げており、物価を押し上げることが懸念された。1月のインフレ率は前年比+6.01%に加速したものの、2月は同+5.92%と再び鈍化しているうえ、コアインフレ率も2月は同+5.17%と2023年9月以来の低い伸びとなっており、中銀にとっては利下げの道が拓かれた。なお、イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけとした中東情勢の緊迫化を理由に、原油価格は急騰している。こうした状況にもかかわらず、中銀は一段の利下げに動いており、ロシア経済が苦境に直面している様子がうかがえる。ロシア国内では、戦争長期化を受けてプーチン政権への批判が強まり、これを封じ込めるべく通信規制が強化されている模様である。にもかかわらず、政権寄りとされるブロガーが公然とプーチン氏の辞任を主張し、ウクライナ侵攻を非難するなど混乱も表面化している。

会合後に公表した声明文では、足元の経済状況について引き続き「バランスの取れた成長軌道からの上振れ度合いは後退している」とする一方、「2026年初の景気はVATと輸入車に対するリサイクル税引き上げの影響で弱含んでいる」との見方を示している。そのうえで、物価動向について「中長期的にみれば、上振れリスクが下振れリスクよりも依然優勢」との認識を示すとともに、「世界経済の見通し悪化と地政学リスクの高まりによる物価上昇圧力の高まり、長期的にロシア経済がバランスの取れた成長路線から上振れすることによるインフレ予想の高止まりが上振れ要因となる」とした。そして、先行きの政策運営について「インフレ動向やインフレ期待の行方、国内・外のリスクの分析に基づいて利下げの必要性を評価する」とした。前述したように、米国はすべての国に対して、海上輸送中のロシア産原油の輸入を時限的に認めており、低迷が続いた輸出を取り巻く環境の改善が期待できる。こうした状況ながら、中銀が一段の利下げに動いたのは、政府や経済界などから金融緩和への要求が広がりをみせていることも影響したと考えられる。会合後に記者会見に臨んだ中銀のナビウリナ総裁は、今回の決定について「外部環境や将来の財政運営を巡る不確実性が著しく高まっている」としたうえで、「不確実性が高まっていなければ最大で100bpの利下げを視野に、より積極的な議論を行う可能性があった」と述べた。そのうえで、「中東情勢は商品市況に影響を与えており、ロシア経済への影響は地政学リスクの期間と規模に左右される」とする一方、「複合的な影響に関する結論を出すのは時期尚早」とした。これは、原油価格の上昇は輸出増を通じて財政面で余裕が生まれるものの、将来的なロシア産原油の需要が低下する悪影響を警戒しているためとみられる。先行きの金融政策を巡っては、物価や景気動向を警戒する中銀と、景気下支えに注力したいプーチン大統領などとの間で板挟み状態が続くと見込まれる。

金融市場においては、中東情勢の緊迫化を受けた「有事のドル買い」の動きが広がるなか、原油価格が上振れしているにもかかわらず、ルーブル相場は大幅に調整する事態に直面している。中東情勢の緊迫した状態化は長期化する可能性が高まっており、原油価格の高止まりも続くと見込まれ、米国による時限的な制裁緩和も重なり、ロシア経済にとって追い風となるほか、ルーブル相場の下支えにつながることが期待される。しかし、原油価格の上昇により財政面で余裕が生じることは、ロシアにとってウクライナ戦争を継続する能力が高まることを意味しており、自ら戦争を止める誘因が低下することが予想される。いずれにせよ、世界にとっては、ウクライナ戦争にイラン情勢の混迷という地政学リスクを抱える状況が長期化する可能性があるとともに、金融市場はその動向に揺さぶられる展開が続くことは避けられないであろう。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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