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2024.06.10
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トルコリラの追い風となるか、憲法裁が大統領令(中銀人事権限)に無効の判断
~人事を盾にした中銀への圧力は後退する可能性、リラ相場を巡る環境は着実に変化している~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコでは長らく「金利の敵」を自任するエルドアン大統領の下、中銀はインフレにも拘らず利下げを迫られてリラ安が進んでインフレが昂進する状況が続いた。これは2018年に公布した大統領令で中銀人事を巡る権限が大統領に付与され、人事を盾に圧力が掛かったことが影響したとみられる。しかし、昨年の大統領選後の内閣改造後の中銀と政府は正統的な政策運営に舵を切り、調整が続いたリラ相場は下げ止まるなど潮目が変わる動きがみられる。こうしたなか、憲法裁判所は中銀人事を巡る権限を定めた大統領令を無効とする判断を下し、カラハン現総裁の追い風となることが期待される。インフレや景気を勘案すればリラ相場が底入れするかは依然見通しが立ちにくいが、リラ相場を巡る環境は着実に変化していると言える。
トルコでは、長らく『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の下で同氏が主張する「高金利がインフレを招く」とする因果が倒錯した理論に基づき、インフレにも拘らず中銀が低金利政策を迫られたことで通貨リラの信認が失墜するとともに、インフレが昂進して幅広く国民生活に悪影響を与える事態に直面してきた。なお、中銀が低金利政策を迫られた背景には、2018年の大統領選後にエルドアン氏が公布した大統領令において中銀の総裁と副総裁の任命と解任権を大統領に付与することが規定されたため、人事権を盾にした『圧力』が強まったことが影響したと考えられた。事実、中銀総裁の任期は5年とされているものの、2019年以降に政策運営を巡る方針の違いを理由にチェティンカヤ氏(注1)、ウイサル氏(注2)、アーバル氏(注3)と3代連続で更迭されたほか、昨年の大統領選後の内閣改造ではカブジュオール氏が任期満了前にも拘らず交代するとともに、今年2月にもエルカン前総裁が突然辞任するなど(注4)5度も大統領権限が行使された。他方、昨年の大統領選後の内閣改造では正統的な政策運営を志向する陣容で経済チームを固めた上で、中銀は大幅利上げに動くとともに、政府も財政緊縮策に動くなど「経済学の上で正しい」政策運営に舵が切られた。こうした動きも追い風に、主要格付機関が相次いで同国に付与している外貨建長期信用格付の格上げに動くなど国際金融市場における評価が改善するも、その後も国民の間では長期に亘るリラ安やインフレにより通貨保蔵手段としての信認が失墜したことを受けてリラ安に歯止めが掛からない展開が続いてきた。しかし、その後も政府や中銀は辛抱強く引き締め姿勢を維持するとともに、先月にも中銀はあらためてタカ派姿勢を堅持する考えを示したほか、政府も包括的な財政緊縮策を公表するなど物価と為替の安定を目的とする政策に動いた。さらに、上述のようにエルドアン大統領が主導する形で中銀は長らく低金利政策を余儀なくされたため、金融市場には再びエルドアン大統領の堪忍袋の緒が切れるとともに中銀が利下げを迫られるとの懸念がくすぶってきたものの、政府や中銀など経済チームによる忍耐を受けて調整が続いたリラ相場は下げ止まるなど潮目が変わる動きがみられる(注5)。こうしたなか、今月4日付で公表された官報において憲法裁判所が上述の大統領に中銀の総裁と副総裁の任命と解任の権限を付与する大統領令を無効とする判断を下した旨が示されており、リラ相場の追い風となり得る動きがみられる。憲法裁による判断は野党CHP(共和人民党)が憲法裁判所に対して大統領令を巡る異議申し立てを行っていたことに対するものであるが、今回の判断に当たって憲法裁は法律に基づく形で規制すべき問題であるとの見解を示しており、議会に法制化に向けた時間を与えるべく判決は12ヶ月後に適用するとしている。これを受けて大統領府は、憲法裁判所の判断が中銀の総裁と副総裁の任命や解任を巡る権限が法令ではなく、法律に基づく形で規制されるべきとの判断を下したものとした上で、現行の大統領令の無効を判断したものではないとの見解を示しているが、今年2月に中銀総裁に就任して前エルカン総裁同様に金融引き締めを継続するカラハン氏には追い風となることが期待される。足下のインフレ率は加速の動きが続いている上、景気の堅調さを勘案すれば、実質金利(政策金利-インフレ率)が依然としてマイナスで推移していることも重なり、リラ相場が底入れに転じるかは見通しが立ちにくい状況にあるものの、少なくとも一段と調整する可能性は大きく後退していると捉えられるほか、今回の憲法裁による判断もリラ相場を下支えすることが期待される。トルコリラ相場を取り巻く環境は着実に変わりつつあると判断できる。


注1 2019年7月8日付レポート「トルコ・エルドアン大統領、中銀総裁更迭で独立性への懸念が再燃」
注2 2020年11月9日付レポート「トルコ中銀、2代連続の更迭で独立性への疑念再燃、リラ相場に悪材料」
注3 2021年3月22日付レポート「やはり、エルドアン大統領の堪忍袋の緒は切れた...」
注4 2月5日付レポート「トルコ中銀・エルカン前総裁、メディアからの批判が高まるなかで突然の辞任」
注5 6月4日付レポート「潮目が変わったトルコリラ、今後の行方も経済チームの腕に掛かる」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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