やはり、エルドアン大統領の堪忍袋の緒は切れた...

~「敢然たる大幅利上げ」後に中銀総裁は3代連続で更迭、中銀への信任は再び大きく揺らぐ懸念~

西濵 徹

要旨
  • ここ数年のトルコは、経済のファンダメンタルズの脆弱さを理由に国際金融市場の動揺に際して資金流出が強まる動きが続いた。ただし、昨秋に中銀総裁がアーバル氏に交代した後は通貨リラ相場と物価安定に向けて大幅利上げを実施するなど金融引き締めに舵が切られた。先週18日の定例会合でも敢然たる大幅利上げに踏み切り、リラ相場は底入れの動きを強めるなど中銀の信認向上に向けた取り組みを強化させてきた。
  • 他方、足下では新型コロナの感染再拡大に直面しており、中銀による大幅利上げ実施は経済活動を優先するエルドアン大統領との対立が再燃することが懸念された。こうしたなか、大統領は20日付で中銀のアーバル総裁の更迭を突如発表した。同行総裁は3代連続で更迭されることとなり、アーバル氏の下で信認回復が進んだ流れが一変するリスクが懸念され、リラ相場や外貨準備を巡る状況は厳しさを増す可能性がある。

ここ数年のトルコを巡っては、経常赤字と財政赤字という『双子の赤字』に加え、インフレも状態化するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さを理由に国際金融市場の動揺局面では資金流出圧力が強まる動きがみられた。特に、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標を大きく上回ってきたものの、エルドアン大統領が低金利を求めるべく中銀に対して圧力を強める展開をみせた結果、中銀は景気下支えを目的に金融緩和に動いたことで金融市場からの信任低下を招く事態に繋がってきた。また、昨年は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)による景気の下振れを受けて中銀は利下げ実施による景気下支えに動いたものの、結果的に通貨リラ相場に対する調整圧力が一段と強まった。こうしたことから、中銀のウイサル総裁(当時)はリラ安阻止に向けて『裏口』からの利上げ実施に動くとともに(詳細は昨年8月21日付レポート「トルコ中銀は「2年前の悪夢」を忘れてしまったのか...」をご参照下さい)、『正攻法』による利上げ実施に追い込まれた(詳細は昨年9月25日付レポート「トルコ中銀。リラ相場の最安値更新で堪らず2年ぶりの利上げ実施」をご参照下さい)。他方、利上げ実施に強硬に反対するエルドアン大統領の反発を招き、昨年11月にウイサル氏が中銀総裁を更迭されたことで中銀及び通貨リラに対する信認が大きく損なわれることが懸念された(詳細は昨年11月9日付レポート「トルコ中銀、2代連続の更迭で独立性への疑念再燃、リラ相場に悪影響」をご参照下さい)。しかし、後任総裁に就任したアーバル氏の下で中銀は国際金融市場からの信任回復に向けて大幅利上げを実施したほか(詳細は昨年11月20日付レポート「トルコ中銀、アーバル新体制の初会合で市場期待に「満額回答」」をご参照下さい」)、その後もリラ相場及び物価安定に向けて断固とした金融引き締めを維持する姿勢をみせた。さらに、先週18日に開催した定例会合においても中銀は追加利上げを実施するとともに、さらなる利上げに含みを持たせる姿勢をみせるなど物価安定に向けて敢然と金融引き締めを維持する考えを国内外に示した(詳細は19日付レポート「トルコ中銀、インフレリスクとリラ安懸念に対し敢然たる大幅利上げ」をご参照下さい)。アーバル氏が大幅利上げを志向した背景には、このところの国際金融市場では米長期金利の上昇をきっかけに新興国で資金流出圧力が強まっており、トルコでは経済のファンダメンタルズの脆弱さを理由にそうした動きが強まりリラ相場への調整圧力が強まり、物価への悪影響が懸念されたことが挙げられる。なお、直後のリラ相場は中銀による大幅利上げに加え、その敢然たる金融引き締めを好感してリラ相場は上昇圧力を強めるなど大きく評価する動きがみられた。

図1 リラ相場(対ドル)の推移
図1 リラ相場(対ドル)の推移

一方、トルコ国内では昨年末にかけて新型コロナウイルスの感染者を巡る定義変更も重なり新規感染者数が急拡大したため、平日の夜間及び週末の外出を原則禁止とする行動制限を再強化する対応をみせた。こうした対応が奏功して新規感染者数は昨年末を境にピークアウトしてきたほか、年明け以降は中国製ワクチンの接種が開始されており、ロシア製ワクチンの国内生産に加え、独自の国産ワクチンの開発も進められるなどの取り組みが進められてきた。こうしたことから、政府は今月初めに行動制限を再び緩和するなど経済活動の再開が図られてきたものの、足下では新規感染者数が再び拡大傾向を強めるなど状況は急速に悪化している。足下における累計の感染者数は300万人弱に上る一方で死亡者数は3万人弱に留まるなど、感染者数に対して死亡者数は比較的少数であるため、エルドアン大統領は医療体制に余裕があることを理由に行動制限の再強化に否定的な姿勢をみせる。こうした背景には、エルドアン大統領が経済活動の優先を通じて早期の景気回復を図りたいとの思惑が影響しているとみられる一方、上述の中銀による敢然たる金融引き締めは景気回復の足を引っ張る要因となる上、大統領自身が元々高金利を忌避する姿勢を示してきたこともあり早晩『堪忍袋の緒』が切れるリスクが懸念された。こうしたなか、エルドアン大統領は20日付でアーバル氏を中銀総裁から解任するとともに、後任総裁に与党AKP(公正発展党)所属の元国会議員で元銀行員(会計専門家)のカブジュオール(Kavcıoğlu)氏が就任することが明らかになった。同行総裁を巡っては、一昨年7月に当時のチェティンカヤ氏が更迭され(詳細は一昨年7月8日付レポート「トルコ・エルドアン大統領、中銀総裁更迭で独立性への懸念が再燃」をご参照下さい)、上述のように昨秋に後任のウイサル氏も更迭された経緯がある。よって、今回のアーバル氏の更迭に伴い中銀総裁は3代連続でエルドアン大統領との折り合いが悪く更迭されるという『憂き目』に合う事態となったが、今回の決定は回復が進んだ中銀に対する信認を大きく毀損するリスクを高めることが懸念される。足下の国際金融市場では新興国を取り巻く状況が厳しさを増す兆候がうかがえるなか、リラ相場や外貨準備を巡る状況は再び大きな混乱に直面する可能性に注意が必要と言えよう。

図2 新型コロナの新規感染者・死亡者(累計)の推移
図2 新型コロナの新規感染者・死亡者(累計)の推移

以上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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