中国経済は需要低迷も生産拡大が続く「非合理」な様相を強める

~需給ギャップによるデフレやデフレの輸出による世界経済の混乱などリスク要因は山積している~

西濵 徹

要旨
  • 年明け以降の中国経済は供給サイドをけん引役に景気の底入れが進む一方、需要サイドは外需に底堅さがうかがえるも内需は力強さを欠く推移が続く。需給ギャップの拡大はデフレ圧力を招くことが懸念されるが、当局は人民元安を警戒して需要喚起に向けた金融緩和に動けない状況が続く。当局は実態として政策運営の手足を縛られる展開が続いており、中国経済は八方塞がりの状態にはまりつつあると捉えられる。
  • 4月の企業マインドを巡っては、政府統計である製造業PMI、非製造業PMIともに50を上回る水準を維持するもともに頭打ちしている。生産拡大にも拘らず受注動向は内・外需双方で頭打ちするなど需要の弱さに直面している。結果、商品市況の底入れによる物価上昇にも拘らず商品価格に転嫁できないなど業績圧迫要因に直面している。さらに、雇用調整圧力が強まる動きがみられるなど内需を取り巻く環境は厳しい。
  • 世界経済との連動性が高い財新製造業PMIは政府統計と対照的に堅調な動きをみせており、生産拡大に加えて受注も内・外需双方で改善している。しかし、価格転嫁の厳しさは国有企業同様の上、生産拡大にも拘らず雇用調整圧力が強まるなど家計消費の重石となる動きもみられる。中国経済の構造問題が需給ギャップの拡大やデフレの輸出を招くなど、世界経済にとっての悩みの種は尽きない展開が続くであろう。

年明け以降の中国経済を巡っては、供給サイドをけん引役にした景気底入れの動きが続いており、1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+5.3%と前期(同+5.2%)からわずかに伸びが加速するとともに、季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も+6.6%と前期(同+4.9%)から拡大ペースが加速して底入れの動きを強めている様子がうかがえる(注1)。しかし、需要サイドについては、ここ数年の米中摩擦に加え、デリスキング(リスク低減)を目指した世界的なサプライチェーン見直しの動きのほか、コロナ禍からの世界経済の回復をけん引してきた欧米など主要国景気の勢いに陰りがみられるものの、中国が割安な価格で輸出を拡大させるなど『デフレの輸出』とも呼べる動きが外需を下支えする動きがみられる。他方、外需の底堅さを受けて企業部門による設備投資需要は比較的堅調な推移をみせているものの、若年層を中心とする雇用の不透明さが続くなかで家計消費は力強さを欠いて頭打ちの動きをみせているほか、不動産需要の弱さを反映して関連投資は下振れするなど、内需は幅広く力強さを欠く動きをみせている。結果、上述のように1-3月の経済成長率は実質ベースでは前年同期比+5.3%と底入れしている一方、名目ベースでは同+4.2%と前期(同+4.2%)から横這いで推移している上、過去1年以上に亘って名目ベースの伸びが実質ベースの伸びを下回る名実逆転状態が続くなど、デフレ圧力が強まっている様子がうかがえる。なお、政府は先月開催した全人代(第14期全国人民代表大会第2回全体会議)において今年の経済成長率目標を前年と同じ「5%前後」と設定しており、足下の景気底入れの動きは中国当局のなかで目標実現が『至上命題』となっている様子がうかがえる。しかし、需要が勢いを欠くなかで供給サイドを中心とする景気底入れを目指す動きが強まれば、結果的に需給ギャップが一段と拡大してデフレ圧力が一段と増幅されるリスクを孕んでいる。他方、金融市場においては景気下支えを図るべく当局が金融緩和による景気下支えに追い込まれるとの見方が強まるとともに、人民元相場に調整圧力が掛かる動きがみられるものの、昨年は人民元安に伴い米ドル建で算出したGDPが29年ぶりの減少に転じるなど世界経済における同国経済のプレゼンス低下を招いたため、当局は政策の手足を事実上縛られる格好に陥っていると捉えられる。その意味では、足下の中国経済は『八方塞がり』の状態にあると捉えることもできる。

図 1 人民元相場(対ドル)の推移
図 1 人民元相場(対ドル)の推移

なお、上述のように年明け以降の景気は供給サイドをけん引役に底入れの動きを強めているものの、30日に国家統計局が公表した4月の製造業PMI(購買担当者景況感)は50.4と2ヶ月連続で好不況の分かれ目となる水準を上回っているものの、前月(50.8)から▲0.4pt低下するなどそうした流れに早くも一服感が出ている様子がうかがえる。足下の生産動向を示す「生産(52.9)」は前月比+0.7pt上昇して13ヶ月ぶりの水準となるなど生産拡大の動きを強めている一方、先行きの生産動向に影響を与える「新規受注(51.1)」は同▲1.9pt、「輸出向け新規受注(50.6)」も同▲0.7ptとともに50を上回る水準を維持するも頭打ちの動きを強めている。さらに、内・外需双方に受注動向の頭打ちの動きが顕在化していることを反映して「受注残(45.6)」は前月比▲2.0pt低下するなど先行きの動向に不透明感が強まっているにも拘らず、生産拡大の動きが続いていると捉えられる。なお、国際金融市場においては中国景気の底入れの動きに加え、中東情勢を巡る不透明感の高まりなど供給不安も重なり商品市況が底入れの動きを強めており、こうした動きを反映して「購買価格(54.0)」は前月比+3.5pt上昇して7ヶ月ぶりの水準に上昇しているものの、企業部門は先行きの減産を警戒して「購入量(50.5)」は同▲1.2pt、「輸入(48.1)」も同▲2.3pt低下して2ヶ月ぶりに50を下回るなど、中国経済への依存度が高い資源国経済の足かせとなり得る動きも顕在化している。また、原材料価格に大幅な押し上げ圧力が掛かるなかで「出荷価格(49.1)」は前月比+1.7pt上昇する動きがみられるものの、原材料価格の上昇分の半分しか転嫁できていない様子がうかがえるなど、業績の圧迫要因となる懸念はくすぶる。さらに、生産拡大の動きを強めているにも拘らず「雇用(48.0)」は前月比▲0.1pt低下して調整圧力が強まる動きがみられるなど、家計部門を取り巻く環境は依然として厳しい状況にあると捉えられる。企業規模別では「大企業(50.3)」が前月比▲0.8pt、「中堅企業(50.7)」は同+0.1pt、「中小企業(50.3)」は同±0.0ptとまちまちの動きをみせるも、いずれも50を上回る水準を維持するなど一見すると好調さがうかがえるものの、先行きに対する不透明感は山積している。

図 2 製造業 PMI の推移
図 2 製造業 PMI の推移

また、製造業に対して比較的堅調な動きをみせてきた非製造業PMIも4月は51.2と引き続き50を上回る水準を維持しているものの、前月(53.0)から▲1.8pt低下しており、製造業と同様に底入れの動きに一服感が出ている様子がうかがえる。業種別では「建設業(56.3)」は前月比+0.1pt上昇する一方で「サービス業(50.3)」は同▲2.1pt低下するなど対照的な動きをみせている上、サービス業のなかでは鉄道輸送関連や道路輸送関連、電気通信関連、放送関連などは堅調な動きをみせる一方、飲食関連や資本市場サービス関連、不動産関連の悪化が全体の足を引っ張っている様子がうかがえる。足下の生産活動に下押し圧力が掛かる動きがみられるほか、先行きの生産動向に影響を与える「新規受注(46.3)」は前月比▲0.9pt低下する一方、「輸出向け新規受注(48.4)」は同+0.9pt上昇するもともに50を下回っている上、「受注残(44.5)」も同▲0.3pt低下しており、先行きの生産を取り巻く環境は厳しさを増している。さらに、国際商品市況の底入れの動きを反映して価格上昇圧力が強まっていることを受けて「投入価格(51.1)」は前月比+1.6pt上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準となっているほか、こうした動きを受けて「出荷価格(49.4)」も同+0.8pt上昇するも依然として50を下回る水準で推移しており、原材料価格の上昇を製品価格に転嫁できていない様子がうかがえる。こうした状況を反映して「事業活動期待(57.2)」は前月比▲0.8pt低下するも依然として50を大きく上回る水準を維持するなど一見好調な推移をみせているものの、水準は過去1年で最も低いなど先行きに対する期待に陰りが出ていると捉えられる。なお、このように不透明感がくすぶる状況にも拘らず「雇用(47.2)」は前月比+0.6pt上昇するなど底入れしているものの、依然として50を大きく下回る水準に留まるなど調整圧力がくすぶっており、家計部門を取り巻く環境の好転は期待しにくい状況にある。

図 3 非製造業 PMI の推移
図 3 非製造業 PMI の推移

一方、政府統計に比べて調査対象企業に占める沿海部の民間企業の割合が高いことから、世界経済との連動性が相対的に高いとされるS&Pグローバルが公表した4月の財新製造業PMIは51.4と6ヶ月連続で50を上回る水準を維持するとともに、前月(51.1)から+0.3pt上昇して水準そのものも14ヶ月ぶりの水準となるなど底入れの動きを強めている様子がうかがえる。足下の生産動向を示す「生産(53.1)」は前月比+0.3pt上昇して14ヶ月ぶりの水準となるなど生産拡大の動きを強めているほか、先行きの生産に影響を与える「新規受注(52.6)」も同+1.3pt、「輸出向け新規受注(53.3)」も同+1.7pt上昇するなど、政府統計と対照的に内・外需双方で底入れの動きを強めている。このように生産拡大の動きを強める動きをみせているにも拘らず、「購買量(51.4)」は前月比▲0.8pt低下するなど原材料の調達の動きを抑制する動きをみせている。さらに、国際商品市況の底入れの動きを反映して「投入価格(51.4)」は前月比+2.5pt上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準を回復するなど物価上昇圧力に直面しているものの、「出荷価格(49.3)」は同+0.8pt上昇するも原材料価格の上昇の一部しか製品価格に転嫁できない様子がうかがえるなど、業績面での圧迫要因となっている可能性がある。また、足下の生産活動が底入れの動きを強めていることを反映して「完成品在庫(50.4)」は前月比+2.0pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回る水準に回復するなど、在庫が積み上がっている様子が確認されており、先行きは生産拡大の動きが息切れする可能性もくすぶる。さらに、上述のように足下の生産活動は拡大の動きを強めているにも拘らず「雇用(49.0)」は前月比▲0.7pt低下するなど調整圧力が一段と強まる様子がうかがえる。製造業においては近年の省力化投資などを通じて雇用機会が減少していることから、雇用拡大に繋がりにくくなっていると捉えられる。その意味では、家計消費をはじめとする内需の回復が一段と遅れる可能性は高まっていると考えられる。

図 4 財新製造業 PMI の推移
図 4 財新製造業 PMI の推移

このように、足下の中国経済を巡っては引き続き供給サイドである生産活動を中心に底入れに繋がる動きが確認されているものの、家計消費をはじめとする内需の回復に繋がる雇用拡大の動きはうかがえないほか、不動産投資の低迷も需要の足かせとなる懸念はくすぶる。こうした状況にも拘らず今後も生産拡大の動きが一段と進めば需給ギャップの拡大を招くことは避けられず、先行きは国内で不足する需要をカバーすべく割安な価格での輸出を拡大させるデフレの輸出の動きが進むリスクは高まっている。一連の問題の背景には中国経済が抱える構造的な問題が大きく影響を与えているものの、一朝一夕に事態打開に向けた道筋を描くことは難しく、習近平指導部の下で当局はこうした問題への対応を事実上先送りする動きをみせていることを勘案すれば見通しは立ちにくい。短期的にみた中国景気の底入れの動きに過度な期待を抱くことは難しくなっていると言える。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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