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2024.03.22
アジア経済
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トルコ中銀、事前予想に反する2会合ぶりの利上げで政策金利は50%に
~予想外の決定でリラ相場に下げ止まりの兆しも、国民生活が疲弊するなかで難しい対応が続こう~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコ中銀は21日の定例会合で2会合ぶりに政策金利を500bp引き上げて50.00%とする決定を行った。同行は昨年来、物価と為替の安定を目的に累計3650bpの利上げを実施し、政府も保護預金制度を解除するなど正統的な政策に舵を切った。こうした動きを主要格付機関は評価する一方、国民のリラに対する不信を反映してリラ安に歯止めが掛からない状況が続いた。中銀は先月の定例会合で利上げ局面を一旦休止するも、その後も引き締めの「側面支援」に動いた。同国では今月31日に統一地方選が予定されるなか、金融市場ではその前の利上げはハードルが高いとみられたが、予想外の動きに出た。先行きも追加利上げに含みを持たせるほか、長期に亘って引き締め姿勢を継続する考えをあらためて強調する。予想外の決定でリラ相場に下げ止まりの兆しがみられるが、国民生活は疲弊するなかで難しい対応を迫られるであろう。
トルコ中銀は、21日に開催した定例会合において政策金利である1週間物レポ金利を2会合ぶりに500bp引き上げて50.00%とする決定を行った。同国では、長年に亘って『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の下、中銀はインフレにも拘らず利下げに動く無茶苦茶な政策運営を強いられ、通貨リラ相場は下落に歯止めが掛からずインフレも常態化する展開が続いてきた。しかし、昨年の大統領選後にシムシェキ財務相、エルカン中銀総裁という国際金融市場からの評価を意識した人事配置が行われるなど、政策運営の方針転換が示唆された。事実、その後に中銀は物価と為替の安定を目的に累計3650bpもの断続利上げに動くとともに、政府もリラ安阻止を目的に導入した保護預金制度(KKM:リラ建定期預金を対象にリラ相場が想定利回りを上回る形で減価した場合に当該損失分を政府が全額保証する制度)を解除するなど、正統的な政策に舵が切られた。このように、金融、財政政策の両面で着実な政策転換が図られるなか、主要格付機関が同国に付与する長期信用格付の見通しを引き上げるなど評価する動きがみられたものの、リラ相場は下げ止まりの兆しがみられない展開が続いた。さらに、エルカン氏は告発記事をきっかけにしたメディアによるネガティブ・キャンペーンが激化したことを理由に、先月に突如中銀総裁を辞任するなど先行きの政策運営に暗雲が立ち込めることが懸念された(注1)。しかし、後任総裁となったカラハン氏もエルカン氏同様に海外での経験が豊富な上、同氏の下で初めて開催された先月の定例会合では、事前に利上げ局面の打ち止めを示唆してきた流れを反映して利上げ局面の休止を決定するも、再利上げを排除しない考えを示すなど『タカ派』姿勢を堅持する姿勢をみせた(注2)。こうした姿勢を反映して、その後も中銀は銀行の商業貸付と一般貸付に対して課す月次の伸び率の限度の引き下げ(注3)、金融機関に対してリラ建準備預金の一部凍結を義務付けるなど(注4)、金融引き締めを側面支援する動きをみせた。しかし、こうした中銀による『側面支援』の実施を受けて国際金融市場においては、同国では今月31日に統一地方選挙の実施が予定されるなか、その前に中銀が利上げに動くことは難しいとの見方に繋がった。こうした状況ながら、中銀は2会合ぶりの利上げ実施に動くとともに、会合後に公表した声明文では足下のインフレについて「サービスインフレをけん引役に想定を上回っている」との見方を示すとともに、「サービスインフレ、インフレ期待、地政学リスク、食料インフレの粘着度が高く、インフレ期待と価格決定行動、賃金上昇の影響を注視している」との認識を示している。その上で、今回の決定について「インフレ見通しの悪化が後押しした」との考えを示すとともに、先行きについて「インフレの基調的な低下が顕著且つ持続的に確認され、インフレ期待が予想レンジに収束するまで引き締めスタンスを維持する」としつつ「インフレの大幅且つ持続的な悪化が予想されれば引き締めに動く」として追加利上げに含みを持たせている。一方、「中銀の断固とした姿勢に加え、内需鈍化やリラ相場の上昇、インフレ期待の改善により年後半にはディスインフレが実現する」との見方を示すとともに、「市場メカニズム機能とマクロ金融安定化策に沿ってマクロプルーデンス政策を継続する」ほか、金融市場の流動性を巡って「注視しつつ必要に応じて不胎化策を講じる」としている。そして、今後も「インフレ動向を注視しつつあらゆる手段を断固として行使する」、「データに基づく形で予見可能な枠組で決定を行う」との従来からの考えをあらためて示した。年明け以降もリラ相場は下落の動きに歯止めが掛からず、足下では下落のペースが加速する動きがみられたものの、事前予想に反する今回の決定を受けてリラ相場に下げ止まりの兆しがうかがえる。カラハン中銀総裁やシムシェキ財務相は今後も引き締め姿勢を積極化させることが期待される一方、物価高と通貨安、金利高の共存が長期化して国民生活が疲弊するなかで一段の引き締め策に動くハードルは高まっており、難しい対応を迫られる局面が続くことは避けられないであろう。
注1 2月5日付レポート「トルコ中銀・エルカン前総裁、メディアからの批判が高まるなかで突然の辞任」
注2 2月26日付レポート「トルコ中銀、カラハン体制の初会合で利上げ一服も、再利上げを排除せず」
注3 3月8日付レポート「トルコ中銀が融資引き締め、再利上げ実施に向けた「布石」となるか」
注4 3月14日付レポート「金融市場はトルコ中銀や政府を評価も、国民からの信頼は回復せず」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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