海外旅行がますます割高に?

~世界的に観光税拡大の動き~

前田 和馬

要旨
  • 訪日観光客数がコロナ前水準を回復する一方、日本人出国者数は依然コロナ前の6割程度に留まっている。この背景には歴史的な円安推移により海外旅行の価格が大幅に上昇していることがある。
  • オーバーツーリズム対策を背景に世界的に観光税を拡大する動きが強まっている。こうした費用は海外旅行の総費用と比べれば少額であるものの、海外旅行の割高感をより一層強めるかもしれない。
  • 日本においても大阪府の吉村知事が外国人観光客への徴収金導入の意向を示すなど、今後もこうした観光税導入の動きは世界的に継続する可能性が高い。

回復が鈍い日本人の海外旅行

日本人による海外旅行が低迷している。1月の日本人出国者数は83.9万人と、コロナ以前(2020年1月:138.0万人)と比べて依然4割低い水準に留まっている(注1)。一方、訪日外国人数は268.8万人とコロナ前の水準(同、266.1万人)を回復するなど、日本人の海外旅行とは対照的な状況だ(図表1)。

こうした背景には円安で海外旅行の価格が急騰していることがある。2月消費者物価指数における外国パック旅行は2020年2月比で+70.3%と大幅に上昇した。同期間の円相場は対ドルで-26.4%、対ユーロで-25.6%の円安となったほか、諸外国の大幅なインフレや原油高による燃油サーチャージの高止まりも海外旅行の価格を押上げる要因となっている。円の実質実効為替レートを見ても2020年2月から直近24年1月で25.1%低下しており、外国人にとってはこうした円安が日本旅行に対する割安感を強めている(図表2)。

観光税拡大の動きが活発化

足下では世界的に観光税を拡大する動きが強まっている(図表3)。こうした追加的なコストは旅行費用全体と比べれば少額であるものの、足下の円安水準が続く場合には海外旅行の割高感をより一層強めるかもしれない。

例えば、ハワイ州は既に10.25%の宿泊税を課す一方、観光客に対して新たに25ドルの観光税を導入することを検討している(注1)。ホテル等のチェックインの際に徴収し、見込まれる年間6,800万ドルの増収を山火事の防止や災害保険料に充てるとしている。また、イタリアのベネチアでは今春から繁忙期における5ユーロの入島税を試験的に導入するほか、オーバーツーリズム対策として団体旅行の人数を1グループあたり25人に制限する計画だ。他方、観光税ではないものの、ユーロ圏はテロ対策等の強化を目的に、2025年半ば以降の外国人の入国に対してETIAS(事前渡航認証システム)の申請を義務付ける予定であり、申請1回あたり7ユーロがかかる。

こうした動きの背景には、コロナ収束後における観光需要の急回復に対して、世界各国の観光地でオーバーツーリズムの懸念が強まっていることが挙げられる。観光税を負担するのは主に外国人観光客であることが多く、国民の反対感情は生じにくい。このため、世界的な景気後退を背景に観光需要が急減するような事態が生じない限り、こうした観光税の導入・拡大の動きは今後も継続することが予想される。

ちなみに日本は2019年に国際観光旅客税を導入し、日本から出国する際に1,000円が日本人・外国人を問わずに徴収されている。地方自治体レベルでは、3月6日に大阪府の吉村知事が既存の宿泊税(一部を除き1泊あたり100~300円)の増額や外国人観光客に対する徴収金導入を検討する方針を示した。また、山梨県は2024年7月から富士山の吉田口5合目で通行料2,000円を徴収することを決定している。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

注:外国パック旅行の価格は第一生命経済研究所による季節調整値。
出所:観光庁、総務省、日本銀行より第一生命経済研究所が作成

図表4
図表4

以上

【注釈】

  1. 出国日本人数は海外旅行のみならず出張等を含む。

  2. ハワイ州ではこうした州による宿泊税に加えて、宿泊料金に対してVAT(消費税)や地方自治体による宿泊税が加算される。新たな観光税導入に関しては2月18日付けWall Street Journalの Hawaii Wants Visitors to Pay a Tourist Tax to Help Prevent the Next Disaster - WSJ

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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