徹底解剖!アメリカ大統領選2024(5)

~激戦州の特徴~

前田 和馬

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Q.大統領選の勝敗を左右する激戦州の特徴とは?

A. 主な激戦州の特徴は以下の通り(カッコ内は2024年大統領選における選挙人数)。

① 中西部・ウィスコンシン(10人):ラストベルトの一つであり、雇用者数に占める製造業の割合は13.0%(2022年)と全米平均(6.4%)の2倍に達する。長らく接戦州に位置付けられているものの、ミルウォーキーなどの都市部では民主党、農村部では共和党がそれぞれ強い傾向にあるのは他の州と同様である。2000年大統領選では民主党候補のアル・ゴアが5,708票差(得票率の差:0.2%ポイント)で接戦を制した。近年では2016年がトランプ氏、2020年はバイデン氏が勝利したものの、その票差は共に2万票余り(得票率の差は1%ポイント未満)に留まっている。

② 中西部・ミシガン(15人):ラストベルトに含まれる州であり、ビックスリーを中心とした自動車産業の雇用者数が全体の3.1%を占める(2022年;全米平均0.5%)。2016年は約1万票(得票率では0.2%ポイント)の差でトランプ氏、2020年は約15万票(2.8%ポイント)の差でバイデン氏が勝利した。今回の選挙ではバイデン政権のガザ対応に不満が強まるなか、同州に20万人以上いるとみられるアラブ系アメリカ人の投票行動が注目される。2月27日に実施された民主党予備選においては、アラブ系団体がバイデン政権への抗議を示すために「支持者なし」への投票を呼びかけ、結果的にこうした抗議票は10万票(全体の13.2%)に達した。11月の本選でアラブ系アメリカ人がトランプ支持に転じる可能性は非常に低いものの、再選を強く支持せず投票に出向かない場合にはバイデン大統領が同州で勝利するうえでの逆風となるだろう。

③ 北東部・ペンシルベニア(19人):アメリカ建国の地であるフィラデルフィアを含み、かつては鉄鋼業などで栄えたラストベルトの一つ。製造業に従事する白人労働者の多い州であり、もともとは民主党の地盤であったものの、2016年は0.7%ポイントの得票差でトランプ氏が勝利した(2020年は1.2%ポイントの差でバイデン氏が勝利)。なお、同州に本部を置く全米鉄鋼労働組合(USW)は3月20日にバイデン大統領の再選を支持する方針を表明している。

④ 南東部:ノースカロライナ(16人):キリスト教福音派が多いバイブルベルトの一つであり、人口に占める黒人比率は22.2%と全米平均(13.6%)よりも高い。1980年以降で民主党が勝利したのは2008年のオバマ氏のみと共和党候補が優勢な州である一方、トランプ氏のリードは2020年選挙では1.3%ポイント(2016年:3.7%ポイント)まで縮まっている。同州は共和党候補指名で2位に位置していたヘイリー元国連大使の地元であり、トランプ氏がヘイリー氏を支持した共和党中道派の票をどれだけ固められるかが注目される。

⑤ 南東部・ジョージア(16人)::キリスト教福音派が多いバイブルベルトの一つ。人口に占める黒人比率は33.1%に達し、この大半は民主党支持者とみられる。とはいえ、バイデン大統領に対する黒人有権者の支持は物価高などを背景に弱まっているとの懸念がある。なお、2020年選挙ではバイデン氏が約1万票(得票率では0.2%ポイント)の差で勝利した一方、トランプ氏は州務長官らに「票を探すよう」に圧力をかけ選挙結果を覆そうとした疑いで起訴されている。

⑥ 西部・アリゾナ(11人):南に接するメキシコからの移民が多く、ヒスパニック(中南米)系が人口の32.5%(全米平均19.1%)を占める。従来は共和党候補が優勢であることが多かったものの、2020年選挙ではバイデン氏が0.3%ポイントの差で制し、民主党候補としては1996年のクリントン以来の勝利を収めた。安定した電力供給体制やビジネス・フレンドリーな自治体運営を背景に、近年では大手半導体メーカーによる大型投資が州内で相次いでおり、こうした経済的活況は現職バイデン大統領の追い風になる可能性がある。

⑦ 西部・ネバダ(6人):アリゾナ同様、人口に占めるヒスパニック系が30.3%と多い。2008年以降の大統領選では全て民主党候補が勝利しており、2020年はバイデン氏が得票率で2.4%ptの差をトランプ氏につけた。1980年以降において、2016年(民主党・クリントン氏)を除きネバダ州の勝者が大統領に当選してきた歴史がある。ラスベガスを中心に観光・娯楽産業に従事する労働者の割合が他州よりも多い。

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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