新NISAスタートで個人は日本株を買ったか?

~スタートは投信を通じた対外株式等投資に集中、日本株への関心は盛り上がらず~

佐久間 啓

2024年1月から岸田政権の「所得倍増プラン」の中核である新NISAがスタートしている。そしてそのスタートに合わせたかのように年初から株高、円安の動きが続いている。日経平均株価は2023年年末を100とすると昨日2月14日までで112.7、TOPIXは109.2、US$/¥は106.8。S&P500は指数ベースでは104.8であるが、円ベースに引き直すと円安も手伝い112.0。

NISA自体は2014年から始まった小額投資非課税制度であり、2023年12月末で一般NISA、つみたてNISA合わせて2,360万口座、累計買付額354,253億円(金融庁資料より、速報ベース)まで拡大していたが、2024年から“買付枠の大幅拡大、非課税期間の恒久化”が図られ資産形成の強力な枠組みとして新たにスタートしている。

市場環境が好調なことに加え、日経平均株価が1898年12月末の高値38,915.87に近づいており、連日「32年ぶりの高値を付ける」、「バブルピークを超える勢い」と報道されていることもあって“投資”に対する関心は高まっている。日本株上昇が新NISAの投資資金が入っているからという解説もあるが、今証券市場では誰が買って誰が売っているのか。2024年は始まってまだ1カ月であるが、月次のデータが出揃ってきたのでここで投資信託の設定解約動向、株式の投資家別売買動向、投資家別対外証券投資動向から確認しておきたい。

投信については新NISA資金の中核の受け皿であるが、2024年1月は公募投信で設定が89,678億円、解約・償還が69,556億円、差引き資金純増が20,112億円(うち株式投信=14,437億円、公社債投信=5,685億円)。単月の資金純増が20,000億円を超えるのは2007年6月以来であり純資産も株高もあって208.4兆となり初めて200兆円を上回った。株式投信のうち国内株式は1,296億円、海外株式は7,627億円、ETFは1,330億円、内外資産4,066億円。内外資産型も主に海外株式を組み入れているものが多く、2020年以降の海外株式人気が続いている。また私募投信市場も引き続き拡大しており、資金純増は8,112億円、純資産は115.0兆円、公募と合わせて投信全体では資金純増28,234億円、純資産323.4兆円となった。

次に株式の投資家別売買動向(現物)をみると、1月は外国人が20,693億円の買い越し、個人が9,370億円の売り越し、投信が7,258億円の売り越しとなった。基本これまでと同じ動きで、外国人が買い、株価が上昇、逆張り的に個人、投信が売りという構図が1月も見られたということだ。個人の9,370億円の売り越しのうち現金取引が▲13,631億円の売り越し、信用取引が4,261億円の買い越し。個人は新NISA資金で高配当銘柄中心に相当量の買いが入っていたとされているが、相場上昇から利益確定売りや処分売りが重なり大幅な売り越しとなったようだ。

個人は“現金取引は売り越し、信用取引は買い越し”というパターンが続いているが、相場が上昇する局面ではこうしたパターンが続くことが想定される。また、(旧)NISA口座で保有している株式は原則5年の非課税期間が経過すると課税口座に移行されるため課税を避けるためには一旦売却して新NISA口座で買い直す必要がある。売り買い同時ならインパクトはないが、相場上昇で先に売り、下がったらゆっくり買いという行動が多いと個人の売り越しが目立つことにもなりかねないので注意が必要だろう。一方で新NISAは非課税期間が無期限化されたことからより長期投資がやり易くなったことから今後は市場環境が悪化したときにどれだけ現金取引の買いが入るか注目していきたい。

投信資金純増/公募・私募、投信純資産残高/公募・私募
投信資金純増/公募・私募、投信純資産残高/公募・私募

投信資金純増/公募・私募
投信資金純増/公募・私募

投信純資産残高/公募・私募
投信純資産残高/公募・私募

株式投信・資金純増・商品別
株式投信・資金純増・商品別

  投資家別売買動向(現物)
  投資家別売買動向(現物)

個人と同じように投信も1月は大幅な売り越しとなった。投信は2019年以降、年次ベースで2023年まで5年連続で売り越しとなっており“投信が日本株を買う”ことの方が珍しい状況になっている。投信市場の設定解約状況をみても日本株の存在感は小さくなっており、2024年1月末で国内株式型は株式投信全体の中の4.8%、92,705億円の純資産規模にとどまる。先述の通り「投信買うなら海外もの」といった状況が定着している。

対外証券投資動向をみても投信の海外指向は明らかだ。1月の指定報告機関ベース・部門別対外証券投資では、投信の株式・ファンド等への投資は12,104億円の買い越しと単月ではデータが確認できる2005年以降で最高の買い越しとなった。そもそも過去に1兆円を超える買い越しは2018年1月の一度のみでありこの1月の買い越し金額が如何に大きいかが分かる。この数字は公募私募合算なのですべて個人の資金というわけではないが、新NISAでは海外株式に人気が集中しているという各種報道を裏付ける数字だ。 対外投資の世界で投信の存在感が高くなればそれだけ為替市場での存在感も高まってくることが想定される。機関投資家ほど頻繁な為替ヘッジ比率の変更は考えにくいことから為替需給にも一定の影響を与える(既になっているという見方もあるが)存在になるはずだ。

指定報告機関ベース・部門別対外証券投資
指定報告機関ベース・部門別対外証券投資

日本株が30数年ぶりの戻り高値を付けるなかで新NISAがスタートし早速そうした資金がマーケットに入っているからという解説もあるが、日本株に関しては確かに入ってはいるらしいが、ネットでは個人は売り越しで積極的に買っているのは外国人というだった。新NISAの投資は海外へ、というのが1月の姿だ。投資のすそ野が広がるなかで“ホームマーケット”に投資しない投資家が依然として多いのは何故なのだろうか。

1980年代のバブルと1990年以降のバブル崩壊、金融危機、リーマンショック、その間の株価はなかなか底打ちの音が聞こえず、戻しかけては“ショック”で急落というパターンが多く、日本株投資での成功体験が少ないこともあり、“日本株はいつか必ず急落する”、“いまだに最高値更新もできない終わった市場”、“今更日本に投資するなんて…”、といったネガティブな印象を持つ人も多い。しかし2013年以降のマーケットを見るとジグザグしながら高値を抜けていくという典型的な上昇相場の様相を呈している。それが10年続いているということだ。日本株は終わったと無関心になるのではなくもう一度日本市場を見直すことが必要だろう。

ただ海外投資で見ている世界は、成長する経済があり、成長する産業があり、活発にイノベーションが生まれ、ダイナミックに企業が変化しながら利益成長を実現している世界だ。そうした世界が見えなければホームマーケットというだけでは投資は続かないだろう。

(旧)NISAでは一般NISAが120万円/年、つみたてNISAが40万円/年、併用不可だったが、新NISAでは成長投資枠240万円/年、つみたて投資枠120万円/年、併用可に拡大され売却した場合も投資枠は復活する。(旧)NISA時代の2023年、当年投資枠で買われたのは速報ベースでは5兆4,000億円程度。制度変更により投資枠が大幅に拡大していること、口座数の拡大が見込まれることを考えると15兆円程度の投資資金が市場に投入されることになるだろう。日本の株式市場が個人金融資産の受け皿になるチャンス。海外市場で見ている景色を見せられるか、市場関係者全員が問われている。

以上

佐久間 啓


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。