FRBの金融引締めステージの終わり

~2024年は景気減速と利下げの幅と深さを巡る思惑が交錯~

佐久間 啓

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12月FOMC前のブラックアウト入り直前の注目が集まるなか、タカ派のFRBウォラー理事がわざわざ利下げに言及。金融引締めステージの終わりを印象付けた。ここからはかねてより議論のある2024年は“ソフトランディングか?それともリセッションか?”という点に焦点が移る。ここまでは金利に合わせて動いてきた株式市場だがこの先金利低下についていけるのか?今回の“良いニュース”への反応がやや鈍いのが少し気になる。

2023年11月1日のFOMC、3日の雇用統計から米国の金融引締め政策もようやく天井が見えたと考える市場参加者が増えたこともあり11月は大きく金利低下、株高となった。

ただFOMC議事要旨のなかでは9月、10月の長期金利の上昇が引締め効果を強めているという趣旨の意見が多く政策当局が足元前のめりで動く必要性は低いのではないかという認識が示されいた。そうした観点では11月の金利低下はやや“スピード違反”?と市場では警戒感もあった。というのも9月FOMCでは年内に一回の追加利上げが想定されていたため、このまま長期金利が低下傾向を強めれば引き締め効果を弱めるためFOMCはまたタカ派寄りになる可能性も取りざたされていたからだ。

2023年最後のFOMCは12月12、13日。経済見通し、ドットチャートも公表される。FRBのブラックアウト期間はFOMC開催の前々週土曜日からFOMC終了まで。つまり今回のブラックアウト期間入りは12月2日となる。もしFRBが11月の急激な金利低下に思うところがあれば何らかの発言で市場を牽制してくることも考えられるためFRB理事達の発言に注目が集まっていた。

そうした中で11月28日にウォラー理事が「経済を減速させ、インフレ率を2%に戻す上で今の政策が好位置にあるとの確信を私は強めている」、「ここ数週間に目にした状況を心強く感じている。それは経済のペースだ」と発言。「あと数カ月、3カ月か4カ月か5カ月か分からないが、インフレ率が本当に低下方向に向かっていると確信が持てれば、景気回復などとは無関係に、インフレ率が低下したという理由のみで政策金利を引き下げ始めることができる」と利下げの条件にも言及した。

利下げに言及したことがサプライズとして大きく注目されたが、「ここ数週間目にした状況」と発言している点にも注目だ。GDP統計で見られた通り7~9月期は速報値で年率+4.8%、改定値で年率+5.2%と高い成長となったが、前回10月31日、11月1日のFOMCではその9月までのデータ中心に議論がされており雇用、個人消費とも減速は見えるもののまだ警戒が必要と考えていたはずでFOMC後のパウエル議長の発言もこれまでと同じような慎重な言い回しが多かったのも事実。「ここ数週間目にした状況」というのは11月に入り10月分の雇用統計、小売売上高、消費者物価指数、ホリデーシーズン入りのブラックフライデー、サイバーマンデーの客数、売上高といったデータが出て経済の減速が想定通り進みつつあることがはっきりしてきたことを指しているのだろう。

利下げに言及とされている発言もある意味当たり前のことを言っているだけだが、FOMC内ではタカ派と認識されている理事の発言だけに市場では驚きをもって受け取られた。さらに言えばブラックアウト入り直前で市場の注目が集まっていることが分かっていながら“利下げ”に言及したことの意味は十分考えたほうがいいのかもしれない。FRBから公表されている講演原稿でも全体的なトーンはハト派と言ってよく追加利上げが必要というニュアンスは感じられない。

今回の引締めステージでFFレートのターミナルレートは5.5%。今後市場では2024年の経済減速のスピード、深さ、FRBの利下げのタイミングを巡って議論が交わされ、データを確認しながら相場に織り込んでいくことになる。市場ではリセッションに陥ることなくインフレ2%を実現できるというソフトランディングシナリオ、これまで例外がない米国債券市場での10年2年逆イールドからの逆イールド解消→リセッションという動きを踏まえたリセッションシナリオのどちらが実現するのか。それぞれのシナリオ内でも濃淡が大きい。足元ではソフトランディングシナリオを支持する向きが多いようだがまだコンセンサスができている感じはない。

何度か指摘しているがパンデミック以降の経済、金融市場はそれまでの当たり前、経験則が通用しない世界だ。“データ次第”は答えになっていないという声が上がるのは当然だが“生き物”の経済、市場を決め打ちして見ていくと間違えるリスクが大きいと感じている。

ここまでのマーケットを見ても2022年10月にCPIがピークを付けたこと、FRBの利上げペース減速期待からそれまで上昇していた長期金利の上昇が止まり、株式マーケットは反転。ソフトランディングシナリオが言われだし企業業績が底堅いこともあり利上げが続く中でも株価は堅調な動きが続いていた。2023年夏場には雇用、消費も堅調で年内もう一度の利上げが現実味を帯びてきたことから長期金利が2022年のピークを更新、上昇を続ける中で株価も下落する展開。2023年11月のFOMC、10月分雇用統計で金融引締め終了の見方広がり長期金利は9月、10月の上昇を打ち消す低下、株価も9月、10月の下落を取り戻す上昇となっている。

11月28日のウォラー理事の発言以降、2024年の利下げ期待が高まりイールカーブ全体で金利低下は続いている。2022年以降逆金融相場のステージで足元まで株価は金利の動きに合わせて(逆方向に)動いてきたが2024年はどんな動きをするのか。金利低下に合わせて株価は上昇できるのか?雇用、消費の減速は企業業績にどの程度の影響を与えるのか?やはり逆金融相場の次は逆業績相場がやって来ざるを得ないのか。直近株式マーケットがFRB理事が利下げに言及という“良いニュース”にあまり嬉しそうな反応をしなかったことが少し気になる。

グラフ
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佐久間 啓


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