それでも賃金インフレは鈍化している 次の動きは利下げ(FOMC)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月145程度で推移するだろう。

  • 日銀は、10月に追加利上げを実施するだろう。

  • FEDは9月に利下げを開始、FF金利は年末に5.25%(幅上限)への低下を見込む。

目次

金融市場

  • 前日の米国株は下落。S&P500は▲0.3%、NASDAQは▲0.3%で引け。VIXは15.4へと低下。

  • 米金利はブル・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.373%(▲3.2bp)へと低下。
    実質金利は2.254%(▲2.0bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲33.4bpへとマイナス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はJPYが最強。USD/JPYは154へと低下。コモディティはWTI原油が79.0㌦(▲2.9㌦)へと低下。銅は9895.5㌦(▲95.5㌦)へと低下。金は2311.0㌦(+8.1㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ(前日差)
米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

経済指標

  • 4月ISM製造業景況指数は49.2へと1.1pt低下し再び50を割り込んだ。ヘッドラインを構成する5つの項目は、生産(54.6→51.3)と新規受注(51.4→49.1)が共に低下した反面、雇用(47.4→48.6)は改善し、サプライヤー納期(49.9→48.9)は短縮化してヘッドライン下押しに寄与、在庫(48.2→48.2)は不変であった。ヘッドラインは4月単月では低下したものの、振れを均してみれば上昇傾向にある。類似指標の製造業PMIも同様の軌道を描いている。

米国 製造業景況感
米国 製造業景況感

  • 3月JOLTS統計によると求人件数は848.8万件と市場予想(868.0万件)を下回った。高止まりする人件費に嫌気が差し、企業が求人を控えている様子が窺える。同時に労働者側も待遇改善を求める動きを緩めている。転職活動の活発度合いを示す自発的離職率は2.11%へと低下し、コロナ期前を明確に下回る水準で推移している。またFedが重視している失業者数に対する求人件数の割合は1.32へと低下。コロナ期前よりもなお高い水準にあるとはいえ、趨勢的な低下基調にある。これらから判断すると、インフレの根幹である労働コストはその増勢が鈍化していると判断される。

米国 求人件数・自発的離職率
米国 求人件数・自発的離職率

求人件数/失業者数
求人件数/失業者数

注目点

  • 5月1日に結果が判明したFOMCは予想どおり政策金利の据え置きを決定し、FF金利(誘導目標幅上限)は5.50%とされた。もっとも、バランスシート縮小ペースについては6月1日より長期国債を月間で最大600億ドルから250億ドルに引き下げることを決定した(MBSは最大350億ドルで不変)。概ね市場参加者の予想どおりの結果だったこともあり、金融市場への影響は限定的であった。

  • 3月FOMC以降に発表されたインフレ率鈍化が一服していることを示す一連のデータを受け、声明文では従来からある「インフレ率は低下したが、高止まりしている」(Inflation has eased over the past year but remains elevated.)という記述の後に「ここ数ヶ月間、2%のインフレ目標に向けてのさらなる進展はみられない」(In recent months, there has been a lack of further progress toward the Committee's 2 percent inflation objective)が加わった。また雇用とインフレ目標に関する現状認識は、従来の「良い方向に向かっている」(are moving into better balance)との現在進行形の表現が「良い方向に向かっていた」(have moved toward better balance)と完了形に書き換えられた。パウエル議長以下、FOMC参加者の総意として、これまでは「インフレ終息への道のりは凸凹であるが、大きくみれば沈静化に向かっている」との見解を示してきたが、それを修正せざるを得ない状況にあることを認めた形だ。

  • もっとも、政策金利については「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信がさらに強まるまで、目標誘導レンジの引き下げが適切になるとは予想していない」という従来の文言が維持され、引き続き、次の政策変更が「利下げ」であることが暗示された。この点については記者会見でも「次の政策変更が利上げになる可能性は低い」、「利上げにはインフレ率を目標に戻すために政策が十分でないという証拠を確認する必要がある」として、利上げの議論には相当な距離があることを強調した。飽くまで現時点におけるFOMC参加者の中心的議論が「利下げの時期」であることが示され、この点は市場参加者にややハト派な印象を与えたとみられる。

  • 筆者はこれまで7月としていた利下げ時期を9月に変更する。FF金利先物が織り込む最初の利下げ時期は11月もしくは12月FOMCであるが、インフレ率の軌道が再加速の方向に「脱線」することがない限り、パウエル議長は景気への配慮から比較的早期に利下げを選択すると思われる。

藤代 宏一


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