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2023.10.27
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アルゼンチン大統領選、決選投票に向けて3位候補がミレイ氏支持へ
~改選後の議会上下院はいずれの陣営も多数派を形成出来ず、金融市場は荒れ模様の展開が続くか~
西濵 徹
- 要旨
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- 今月22日のアルゼンチン大統領選の第1回投票では、与党連合・祖国同盟から出馬した左派・マサ経済相がトップ通過し、右派ポピュリスト政党・自由の前進のミレイ氏との決選投票に持ち越された。決選投票に向けては3位に着けた中道右派の野党連合・カンビエモスから出馬したブルリッチ元治安相の判断が注目されたが、政権交代を果たすべくミレイ氏を推す考えを示す。他方、第1回投票と同時に実施された議会上下院選では、自由の前進が議席を増やす一方で祖国同盟とカンビエモスは議席を減らし、改選後はいずれの陣営も多数派を形成出来ない。よって、いずれの候補が勝利しても議会対策での苦労が予想される。世論調査もあてにならない状況が続くなか、決選投票に向けて金融市場は荒れ模様が続く可能性は高い。
今月22日に実施されたアルゼンチン大統領選挙の第1回投票では、フェルナンデス政権を支える最大与党である左派の正義党(ペロン党)を中心とする与党連合(祖国同盟)から出馬したセルヒオ・マサ経済相の得票率が36.69%とトップ通過を果たした。一方、次点には独立系野党である自由の前進から出馬したリバタリアン(自由至上主義)経済学者のハビエル・ミレイ氏(得票率29.99%)が着け、来月19日に予定される決選投票は『左派』と『右派ポピュリスト』という両極の対決となる(注1)。8月に実施された予備選挙ではミレイ氏の得票率が事前予想を覆す形でトップになり、同氏が掲げる極端な公約(中銀廃止、通貨ペソ廃止による経済のドル化など)に加え、その政策運営によってIMF(国際通貨基金)からの支援受け入れ条件の履行が困難になるとの見方が広がり、その後の金融市場は大きく混乱した。なお、その後の世論調査ではミレイ氏や自由の前進に対する支持が広がる動きがみられたため、第1回投票ではミレイ氏がトップ通過するとの見方が広がるとともに、次点にマサ氏が着けるか、主要野党の共和国提案党を中心とする中道右派勢力のカンビエモス(変化とともに)から出馬したパトリシア・ブルリッチ元治安相が着けるかが注目された。予備選挙を経てカンビエモスの候補がブルリッチ氏に一本化されたことで中道層への訴求力が高まることが期待されるも、第1回投票における得票率は23.84%と予備選挙(カンビエモスとして28.28%)を下回り、企業部門を中心に中道右派路線への回帰を期待する向きはみられたものの、最終盤にかけて支持率が低下した流れを変えられなかった。なお、マサ氏は現職のフェルナンデス大統領と同様に与党連合のなかでは穏健派に位置しており、IMFやパリクラブ(主要債権国会議)との債務再編交渉に尽力してきたことを勘案すれば、仮に同氏が大統領に就任した場合は大きな政策変更が行われる可能性は低いと見込まれる。他方、上述のようにミレイ氏は『劇薬』とも呼べる政策を公約に掲げており、仮に大統領に就任した場合は大幅な政策転換が図られることが予想される。こうしたなか、ブルリッチ氏は「国民の大多数は変化を選んでおり、我々もその変化の一翼を担っている」、「中立という選択肢はなく、より大きな変化のために力を併せねばならないと信じる」と述べた上で、決選投票ではミレイ氏を支持する方針を明らかにしており、ミレイ陣営には決選投票に弾みが着く動きがみられる。ペソ相場を巡っては、中銀は公定レートを1ドル=350ペソで固定させているものの、非公式レートは調整の動きが収まらず公定レートを大きく下回る水準で推移しており、決選投票に向けても見通しが立たない展開が続くことは避けられない。他方、第1回投票と同時に行われた議会上院(元老院:3分の1改選)と議会下院(代議院:2分の1改選)の総選挙では、自由の前進が上下両院双方で議席を増やす一方、祖国同盟とカンビエモスはその余波を受ける形で議席を減らす事態となっている。この結果、改選後の議席数は上下院ともにいずれの勢力も単独で多数派を形成することは出来ず、マサ氏とミレイ氏のいずれの候補が勝利して大統領に就任した場合も議会への対応に苦慮することは避けられそうにない。直近の世論調査においては、決選投票に向けてマサ氏に対する支持率が上昇するなかでミレイ氏に対する差が開いている様子がうかがえる一方、第1回投票に向けて世論調査の結果が外れたほか、2割弱が依然として投票先を決めていないなど見通しが立ちにくい状況にある。その意味では、金融市場は決選投票に向けて混乱の様相を強める可能性がくすぶると捉えられる。
注1 10月23日付レポート「アルゼンチン大統領選、与党候補と「第3極」候補による決選投票へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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