FRBは25bp利上げを決定したうえ追加利上げの可能性維持 (23年7月25、26日FOMC)

~ただし、9月FOMCを含めデータ次第で金融政策を決める方針を強調~

桂畑 誠治

目次

23年7月25、26日に開催されたFOMCで、FRBは予想通り政策金利であるFFレート誘導目標レンジを25bp引き上げ、5.25~5.50%とすることを全会一致で決定した。FFレート誘導目標は2001年2月の5.50%以来、約22年ぶりの高い水準となった。利上げの要因として、声明文で説明されなかったが、パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見で6月のFOMC以降、物価・労働市場が概ねFOMCの見通しに沿った動きだったことを挙げた。6月のCPI統計は市場予想以上に低下したが、単月の動きであるほか、銀行破綻による信用状況の引き締まりにもかかわらず労働市場の逼迫やコアインフレの鈍い低下が続いたことで、追加利上げを決定した。

声明文は、ほとんど変更されなかった。FRBの金融政策スタンスを示す文言は、前回同様「インフレ率を徐々に2%に戻すために、どの程度の追加的な政策引き締めが適切となり得るかを決定するうえで、委員会は累積した金融政策引き締め、金融政策が経済活動とインフレに及ぼす遅行効果、経済・金融の動向を考慮する」と、今回の利上げ決定前と変わらなかった。FRBの政策姿勢は、依然追加利上げに傾いていることが示された。また、パウエルFRB議長は、今後も金融政策の決定がデータ次第であり、9月FOMCでは利上げ、据え置きどちらの可能性もあることを指摘した。

パウエルFRB議長は、前回「利上げ停止は引き締めペース鈍化の継続」と10会合連続で利上げを行ってきた段階から、利上げの間隔をあけることで、さらに利上げペースを鈍化させたとの認識を示していたが、今回9月の利上げも否定しなかったことは、信用収縮による経済成長や労働市場への影響が限定的な状況が続いていることで、経済に対する楽観的な見方を強めたと判断される。議長は、FRBスタッフのFOMC参加者に示した新しい経済見通しで景気後退予想が撤回されたことを指摘した。

今後の金融政策運営では、信用状況の引き締まりの影響など毎会合データで追加の利上げが必要か否か判断を行う方針を維持した。9月のFOMCに向けて、2ヵ月分のCPI統計が確認できる。FOMC参加者の予想を上回ってコアインフレが低下すれば、FRBは9月以降、政策金利を据え置くと予想される。一方、可能性が高いと考えられるコアインフレの低下がFOMC参加者の6月予想程度にとどまる場合、11月のFOMCでFRBは25bpの追加利上げを決定すると見込まれる。

金融市場では、25bpの利上げ決定への株価の反応は薄かったが、議長の記者会見が始まるとデータ次第との発言を好感し上昇した。しかし、パウエル議長が「インフレ率は2025年までFRBの目標である+2%に戻らない」との見方を示したことを受けて、米国株は下落に転じ、NASDAQ、S&P500は前日終値を下回った。ただし、NYダウは下げ渋り、1987年1月以来、約36年半ぶりに13営業日続伸となった。一方、金利は低下し、ドルは主要通貨に対して弱含んだ。

FF先物市場では、9月FOMCでの25bpの利上げの可能性が23%と前日22%から小幅上昇した一方、11月FOMCでの25bpの利上げの可能性は32%と前日の34.1%から低下した。

図表
図表

銀行破綻の影響について声明文で前回同様「米国の銀行システムは健全で強じん」と銀行システムへの懸念を否定したうえで、前回同様「家計と企業の信用状況の引き締まりは経済活動、雇用、インフレを下押しする可能性が高い」と信用状況が引き締まったことを指摘した。ただし、「こうした影響の程度は依然不透明」との見方を示したうえで、「委員会は引き続きインフレリスクを注視している」と現時点では金融不安の影響以上にインフレの高止まりを警戒していることを強調した。

今後の金融政策運営に関して、前回同様「インフレ率を徐々に2%に戻すために、どの程度の追加的な政策引き締めが適切となり得るかを決定するうえで、委員会は累積した金融政策引き締め、金融政策が経済活動とインフレに及ぼす遅行効果、経済・金融の動向を考慮する」と、今後はこれまでの大幅利上げの累積的な効果、経済活動やインフレに遅れて顕在化する影響、景気動向や金融環境の引き締まりなどを考慮して、追加利上げがどの程度必要かを判断し、ターミナルレートを探る方針を維持した。

利下げの可能性に関して、FRB議長は「今年の利下げはないと思う」と年内の利下げをこれまでと同様に否定した。さらに、パウエル議長は「利下げ時期の判断にはインフレの水準と低下スピードの双方を考慮する必要がある」とし、利下げの判断に関して、インフレ率の+2%の達成を待たないが、インフレの水準に加えて、低下ペースが重要であることを強調した。

バランスシートの縮小策について、以前に発表した計画通り保有証券の圧縮を月間上限額950億ドルで継続する方針が確認された(内訳は、米国債の上限が600億ドル、エージェンシー債、政府支援機関保証付き住宅ローン担保証券の上限が350億ドル)。ただし、パウエル議長は「利下げに転じても、バランスシートの縮小策を継続する可能性がある」と指摘し、政策金利の水準調整的な利下げに転じても、バランスシートの正常化策(量的引き締め:QT)は継続できるとの見方を示し、QTの終了を急がないことを指摘した。

FOMC声明文の景気判断は、今回「最近の指標では経済活動が緩やかなペースで拡大し続けていることが示されている」と前回「最近の指標では経済活動が穏やかなペースで拡大し続けていることが示されている」と若干上方修正され、米経済が緩やかに成長しているとの見方が示された。雇用情勢についての判断は前回同様「ここ数カ月、雇用は堅調に伸びており、失業率は低いまま」と労働市場の堅調との判断が維持された。同様に、パウエル議長は労働者の需要は依然として供給を大きく上回っており、労働市場は過度に引き締まっているとの認識を示した。

インフレについて声明文で、前回同様「インフレは高止まりしている」との判断が維持された。また、パウエル議長は、インフレの持続的な低下を確認する必要があるほか、コアインフレは依然かなり高い伸びにとどまっていると改めて指摘した。さらに、パウエル議長は「インフレ率は2025年までFRBの目標である+2%に戻らない」と慎重な見方を示した。

リスクとして、前回同様「委員会はインフレリスクを注意深く観察している」とFRBが信用状況の引き締まりの悪影響よりも現時点ではインフレ動向を注視していることを強調した。

【FOMC参加者による経済・金利予測:23年6月】

FOMC参加者による最新の経済・金利予測では、23年10-12月期の実質GDP成長率が上方修正されたほか、PCEコアデフレーターが4月までの鈍い低下を受け+3.9%に上方修正された。このようなファンダメンタルズの見方の変化を受け、23年末の政策金利見通しの中央値が5.625%(前回5.125%)に上方シフトした。年内予定されている4回の会合のうち2回で25bpの利上げが適切と予想している。12人が年末までに政策金利を5.5~5.75%以上に引き上げることが適切とした。4人が年内に1回25bpの利上げを想定。2人が年末までの政策金利の据え置きを予想した。この予想を受け、パウエル議長は記者会見で、「参加者のほぼ全員が年末までに金利をある程度さらに引き上げることが適切になるとみている」とした。ただし、7月の利上げがFOMCのコンセンサスになっているわけではないことを指摘した。また、議長は、「FOMC参加者の見通しは計画や決定ではない」と改めて指摘したうえで、今後も会合ごとにデータで判断していく方針であることを強調した。

FOMC参加者による経済・金利予測(中央値)では、実質GDP予測(10-12月期の前年同期比)は23年+1.0%(前回+0.4%)と上方修正された。一方、24年+1.1%(前回+1.2%)、25年+1.8%(前回+1.9%)とそれぞれ引き下げられた。

失業率予測(10-12月期の平均値)は、23年4.1%(前回4.5%)、24年4.5%(前回4.6%)、25年4.5%(前回4.6%)と下方シフトした。労働市場は23年の逼迫した状態が継続し、24年に悪化するとの予想に変更された。

インフレ見通し(10-12月期の前年同期比)では、23年のPCEデフレーターが+3.2%(前回+3.3%)と下方修正された。24年+2.5%(前回+2.5%)、25年+2.1%(前回+2.1%)と変わらず、25年まで目標の+2%を上回り続けると予想されている。一方、PCEコアデフレーターは23年+3.9%(前回+3.6%)と上方修正された。24年は+2.6%(前回+2.6%)と変わらず。25年は+2.2%(前回+2.1%)とインフレの緩やかな低下が予想されている。

資料1
資料1

ドットチャート(FFレート誘導目標レンジの中央値、年末)では、23年5.625%(前回5.125%)とターミナルレートの予想が上方シフトした。堅調な景気や逼迫した労働市場の継続を受けFOMC参加者の見方が強まった。24年は4.625%(前回4.250%)、25年は3.375%(前回3.125%)と上方シフトしたが、利下げを予想していることが示された。FOMC参加者の予想通り低成長にとどまり、労働市場が悪化すれば、24、25年に利下げが適切になると予想された。その場合でも、25年末で3.375%(前回3.125%)と中立金利とFOMCが推測する2.5%を上回る金融引締め水準が適切とされた。長期は2.5%(前回2.5%)と中立金利の見方に変化はなかった。

FOMC委員のFF金利予想
FOMC委員のFF金利予想

【為替】、【株式】
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【金利】、【商品】
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桂畑 誠治


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桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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