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2023.08.14
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アルゼンチン大統領予備選は「第3の候補」がトップの予想外の結果に
~極右のリバタリアンがトップに立つ異例の事態、経済も政治も見通しが立ちにくい状況が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- アルゼンチンでは、10月の大統領選と総選挙に向けて選挙の季節は佳境を迎えている。ただし、現職のフェルナンデス大統領は支持率低迷を理由に出馬辞退を余儀なくされ、与党はマサ経済相を候補とすることで党内融和を図った。他方、世論調査では主要野党連合が与党連合を上回る支持を集めるなど善戦が予想された。しかし、13日に実施された予備選では独立系野党のミレイ氏が1位となり、与党連合も主要野党連合も後塵を拝する予想外の結果となった。主要政党の候補が決定して選挙戦は本格化するが、予備選の投票率は過去最低となるなど、経済低迷の長期化で国民の政治への関心が低下している模様だ。同国を巡っては、経済も政治もともに見通しが立ちにくい状況が続くことは避けられなくなっていると言えよう。
アルゼンチンにおいては、10月実施される大統領選と国民議会上下院総選挙に向けての『政治の季節』が佳境を迎えている。ただし、足下の同国経済はコロナ禍の克服が進む一方、依然として実質GDPの水準は2018年の通貨ペソ相場の暴落をきっかけにした経済危機前の水準を下回る推移が続いており、インフレが長期化するなかで厳しい状況が続いている。フェルナンデス現政権を支える与党・正義党(ペロン党)においては、国民からの人気が根強く、政権及び与党内で隠然たる影響力を有する(クリスティナ・)フェルナンデス(デ=キルチネル)副大統領(元大統領)の大統領選への出馬が取り沙汰されたものの、昨年末に大統領任期中の汚職疑惑による有罪判決を受けたこともあり、出馬しない意向を表明している。他方、現職のフェルナンデス大統領も経済政策を巡る混乱や支持率低迷を受けて次期大統領選に出馬しない意向を示したため、党内では候補者選びを巡る動きが活発化することが予想された。なお、6月に同党はセルジオ・マサ経済相を大統領候補、アグスティン・ロッシ官房長官を副大統領候補とするなど、党内穏健派の両氏を候補に据えることで党内融和を重視する姿勢が採られた(注1)。しかし、足下のインフレ率は加速の動きが収まらない状況が続いて直近6月は前年比+115.6%に達しているほか、中銀は年明け以降も物価抑制を目的とする断続的な利上げ実施に追い込まれており、足下の政策金利は97.00%となっている。このように物価高と金利高の共存状態が長期化するなか、国民の約4割が貧困状態に追い込まれるなど国民生活は極めて厳しい状況に追い込まれている。こうしたなか、13日に大統領選挙の事実上『前哨戦』となる大統領選の予備選挙が実施されたものの、事前の世論調査では与党・ペロン党を中心とする「祖国同盟」に対して、主要野党連合である「カンビエモス(変化とともに)」が優勢に推移する展開が続くなど、与党の苦戦が予想された。しかし、予備選の結果は独立系野党の「自由の前進」から出馬した経済学者のハビエル・ミレイ氏が首位に立つなど予想外の内容となった。ミレイ氏の得票率は30.13%となり、カンビエモスの2候補(パトリシア・ブルリッチ元治安相とオラシオ・ロドリゲス・ラレタ・ブエノスアイレス市長)を併せた得票率28.17%、祖国同盟の2候補(マサ氏とジュアン・グラボイス氏)を併せた得票率27.19%をも上回った。ミレイ氏はリバタリアン(自由至上主義)の経済学者でその主義主張は極右的とされ、具体的には中銀の廃止と経済のドル化を政権公約に掲げるとともに、選挙戦では支持者集会でロックを歌うなど型破りな手法を用いることで若年層に支持を集めた模様である。今回の予備選の結果を踏まえてカンビエモスはブルリッチ氏を、祖国同盟はマサ氏を大統領選の候補とすることが本決まりとなったが、個人別の得票率ではミレイ氏に次いでマサ氏(21.35%)、ブルリッチ氏(16.99%)の順となっており、大統領選に向けた選挙戦が激化することが予想される。予備選は大宗の成人に投票義務があることから、大統領選の前哨戦としての意味合いが強いものの、今回の予備選の投票率は69.62%に留まるなど予備選が導入されて以降で最低を更新しており、深刻な経済状況が長期化するなかで国民の間で政治への関心が低下している可能性が高い。ただし、足下では主力の輸出財である大豆の国際価格の高止まりにも拘らず、外貨準備高の減少に歯止めが掛からない状況が続いており、通貨ペソ相場も調整が続くなど輸入インフレに繋がりやすい展開をみせている。同国の政治、経済ともに見通しが立ちにくい状況が続くことは避けられそうにない。
注1 6月27日付レポート「アルゼンチン、与党・正義党は次期大統領候補にマサ経済相を選出」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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