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2023.06.27
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アルゼンチン、与党・正義党は次期大統領候補にマサ経済相を選出
~党内融和が優先されたが選挙戦の行方は不透明、議会選の動向にも注意を払う必要性は高い~
西濵 徹
- 要旨
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- アルゼンチンは今年 10 月、次期大統領選が予定されるなど政治の季節は佳境を迎えている。足下の同国経済は物価高と金利高の共存が長期化するなか、国民の 4 分の 1 が貧困状態に追い込まれるなど厳しい状況に陥っている。こうしたなか、現職のフェルナンデス大統領は次期大統領選への出馬を辞退し、与党・正義党内で影響力を有するフェルナンデス副大統領(元大統領)も辞退するなどその行方に注目が集まる。8 月の予備選を前に、同党内では最左派タッグが出馬を模索する動きをみせたが、最終的に党内穏健派のマサ経済相を統一候補とすることを決定し、党内融和を図る姿勢も確認された。マサ氏を巡っては債務再編交渉を主導するなど手腕を発揮する一方、経済低迷を脱することが出来ずその政策への評価は厳しい。世論調査では与党連合が最大野党連合の後塵を拝する一方、3 連合が拮抗する展開が続くなど議会選の行方も次期政権に影響を与えると予想される。現時点では極めて見通しの立ちにくい状況にあると言える。
アルゼンチンでは、今年 10 月に次期大統領選挙と国民議会上下院総選挙の実施が予定されるなど『政治の季節』は佳境を迎えている。ここ数年の同国経済は、2018 年の通貨ペソの暴落をきっかけとする経済危機に加え、コロナ禍も重なる形で深刻な景気低迷に直面してきた。経済危機後に行われた 2019 年の前回大統領選では、左派の正義党(ペロン党)から出馬した(アルベルト・)フェルナンデス元首相が勝利するとともに、副大統領にIMF(国際通貨基金)との対立も厭わない(クリスティナ・)フェルナンデス(デ=キルチネル)元大統領が就任したため、如何なる経済政策が打ち出されるかが注目された。しかし、フェルナンデス政権はIMFとの債務再編交渉を進める一方、緊縮財政路線を堅持する穏当な政策運営を展開するなど、経済危機を経て失墜した国際金融市場からの信認回復に取り組んできた。他方、ここ数年の同国はラニーニャ現象を理由とする歴史的大干ばつに見舞われており、電源構成の約3割を水力発電に依存するなかで火力発電の再稼働を余儀なくされたため、商品高も重なりエネルギー価格は上昇の動きを強めている。さらに、昨年来の商品高や国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ペソ安による輸入インフレも重なり、インフレ率は大きく上振れしてきた。中銀は物価と為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを実施してきたものの、年明け以降もインフレは一段と加速して 100%を上回る水準となったことを受けて、4月末以降も緊急利上げも含めた対応を迫られる状況に直面してきた(注1)。こうした中銀による対応にも拘らず、直近5月のインフレ率は前年比+114.2%と一段と伸びが加速しているほか、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率も同+110.3%に達するなどインフレ収束の見通しが立たない状況が続いている。中銀は今月 16 日の定例会合では政策金利を据え置く決定を行うも、政策金利は 97%と高水準であり、物価高と金利高の共存を受けて国民の4分の1が貧困状態に追い込まれるなど極めて厳しい状況に陥っている。こうした事態を受けて、与党内では次期大統領選に向けて大統領と副大統領の間で『綱引き』の動きが強まることが予想される一方、副大統領は昨年末に大統領在任中の汚職疑惑を理由に有罪判決を受けており(注2)、次期大統領選に出馬しない意向を示している。他方、経済政策を巡る混乱やそれに伴う支持率の低迷を理由に大統領は次期大統領選に出馬しない意向を表明しており(注3)、与党内では副大統領が大統領を上回る影響力を有するなか、副大統領支持者の間には次期大統領選への出馬を待望する向きもくすぶるなど如何なる動きが出るかが注目された。こうしたなか、今月 22 日に副大統領に近いエドゥアルド・デペドロ内相が正義党内の大統領候補を決める予備選挙に立候補するとともに、副大統領候補にファン・マンスル前官房長官を選ぶなど、党内の『最左派』がタッグを組む方針を明らかにした。他方、23 日に正義党はセルジオ・マサ経済相を大統領候補に、副大統領候補にアグスティン・ロッシ官房長官という党内穏健派の両氏を統一候補とする方針を決定し、デペドロ氏とマンスル氏は出馬を撤回するとともに、党内融和を重視する姿勢を明言するなど分裂は避けられている。しかし、昨年に政権内の経済政策を担ってきたグスマン氏が突如経済相を辞任したことを受けてマサ氏が後任の経済相に就任したものの(注4)、上述の通り同国経済は極めて厳しい状況が続いており、大干ばつの影響で足下の実質GDPの水準も 2018 年の経済危機前を下回るなど、経済政策を担ってきたグスマン氏に対する評価は芳しくない。同国政府は昨年、IMFとの債務再編で合意するとともに、主要債務国会議(パリクラブ)との間で債務返済期間を最長で 2028 年まで繰り延べする債務再編で合意するなど経済再建を前進させている。これらの議論が進展した背景にはマサ氏の手腕があると考えられる一方、国民生活は極めて厳しい状況に置かれていることを勘案すれば、国民の間に同氏への広い支持が生まれるかは不透明である。世論調査においては、与党・正義党を中心とする政党連合(祖国連合)が中道右派政党である野党・共和党提案を中心とする政党連合(変革のためにともに)の後塵を拝する展開が続いているものの、3つの政党連合が拮抗するなど議会選の行方が次期政権の行方を大きく左右することも予想される。足下では多数の候補者が名乗りを上げており、当面は8月に実施される予備選挙での『振るい』の行方に注目が集まるが、現時点においては極めて見通しの立ちにくい状況にあると判断出来る。



注1 5月 17 日付レポート「アルゼンチン中銀、1ヶ月のうち3度目の利上げで政策金利は 97%に」
注2 2022 年 12 月 12 日付レポート「アルゼンチン・フェルナンデス副大統領に有罪判決、政治が経済の足を引っ張る展開は続くか」
注3 4月 24 日付レポート「アルゼンチン・フェルナンデス大統領が次期大統領選への不出馬表明」
注4 2022 年8月 18 日付レポート「アルゼンチン、経済危機対応を強化も視界不良状態は不可避の展開」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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