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スペイン総選挙は微妙な結果

~政権継続、政権交代、それとも再選挙?~

田中 理

要旨

スペイン総選挙は、最大野党の国民党と極右政党を中心とした右派、現与党の社会労働党に極左政党を中心とした左派が何れも議会の過半数に届かなかった。地域政党の協力が政権発足の鍵を握るが、カタルーニャの独立運動に厳しい右派には、分離独立派の地域政党は協力しない。政権が発足できるとすれば、左派に地域政党が協力する場合だが、こちらも過半数ぎりぎりで、全地域政党の協力を取り付けられるかどうかは不透明だ。政権発足ができない場合、秋や来年春に再選挙が行われることになる。スペインは今年の後半に輪番制のEU議長国で、EU政策での加盟国間の意見調整役を担う。スペインの政治停滞で、財政規律の見直しや電力市場改革などのEU政策への悪影響も懸念される。

23日に投開票が行われたスペインの総選挙は、野党・国民党(PP)が136議席で最大議席を獲得したが、極右政党・ボックス(Vox)の33議席と、PPに近い右派系地域政党・カナリア人民党(CCa)の合計議席は170にとどまり、定数350議席の下院の過半数(176議席)に届かなかった(表)。PPは自治州の独立運動に厳しく対処してきたこともあり、分離独立主義の地域政党の協力を得るのは右派政党であっても難しい。サンチェス首相が率いる現与党の社会労働党(PSOE)は122議席で第一党の座から転落し、現政権で連立を組む極左政党・ポデモス連合が土台となった新たな選挙プラットフォーム・スマル(Sumar)の31議席や左派系の地域政党を合わせても、左派の合計議席は167にとどまる。ただ、PSOEはこれまでカタルーニャの分離独立主義派との対話路線を続けてきた。カタルーニャやバスクの右派系地域政党(右派だが過去にはPSOEに協力したことがある)が政権発足で協力すれば、過半数に届く可能性がある。PSOEのサンチェス首相、PPのヌーニェス=フェイホー党首はともに勝利宣言をしたが、地域政党の政権協力や投票棄権の有無など、政権発足の行方は不透明だ。

事前の世論調査や出口調査では、右派が180議席程度を獲得し、政権を奪取するとの見方が支配的だった。現政権のトランスジェンダーに対する進歩的な政策、気候変動対策の積極推進、カタルーニャの独立運動に対する弱腰姿勢、強姦罪に関する法改正後に100人以上の受刑者の刑期が短縮されたことなどを巡って、サンチェス首相の政権運営に反対する有権者が右派に投票した。他方で、「現政権が取り組んできた進歩的な政策を守るためには左派に投票する以外にない」、「右派への投票は民政移管後のスペインで初めて極右政党の政権入りを招く恐れがある」と言った左派の主張が奏功した模様。選挙戦の最終盤で、PPのヌーニェス=フェイホー党首が不正確な発言や失言を繰り返し、麻薬売買や贈収賄で後に逮捕される人物との過去の関係が明らかになるなど、失点を重ねたことも響いた。5月末の統一地方選の結果を受け、総選挙を前倒ししたサンチェス首相の賭けが成功した。

政権発足には信任投票が必要で、初回投票での政権発足には下院の絶対過半数(定数350の過半数=176)の賛成が必要となる(同国憲法第99条第3項)。初回投票で信任されない場合、2日以内に同一首相候補への二回目の信任投票を行い、単純過半数(不在票や棄権票を除いた有効投票で信任が不信任を上回る)の賛成で信任される。二回目の投票でも信任されない場合、別の首相候補を含めた信任投票の可能性が模索される(同条第4項)。初回投票から2ヶ月以内に下院の信任を得られる首相候補がいない場合、上下両院は解散され、再選挙が行われる(同条第5項)。総選挙は議会の解散から30日以上、60日以内に行われ、総選挙から25日以内に新議会が召集される(第68条第6項)。政権が発足できない場合、秋や来年春に再選挙となる。スペインは今年後半、欧州連合(EU)の輪番制の議長国で、EUの政策決定での加盟国間の意見調整役などを担う。政治停滞により、議論が膠着状態にある財政規律や電力市場改革の見直し協議など、EUの政策決定にも悪影響が及ぶ恐れがある。

表
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以 上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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