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マドリッドから読み解くスペイン政局

~極右の連立入りと反緊縮左派の穏健化~

田中 理

要旨

4日のマドリッド州議会選は国政での政権奪還を目指す国民党が圧勝し、極右のボックスと連立を組む可能性が高い。国政を率いる社会労働党が歴史的な敗北を喫したほか、連立を組む反緊縮左派・ポデモス連合のイグレシアス党首が政界引退を発表した。ポデモス連合の穏健化で中道票が分散するとみられ、次の選挙で国民党の政権奪取と極右の政権入りが視野に入ってくる。

4日に行われたスペインのマドリッド州議会選は、州政府を率いる中道右派の「国民党(PP)」が議席を倍増して圧勝した(改選前:30→改選後:65議席)。国政で政権を率いる中道左派の「社会労働党(PSOE)」が大きく議席を失い(37→24議席)、同州を中心に活動する新興左派政党「マーズ・マドリッド」(20→24議席)の後塵を拝する結果となった。今回の州議会選は、国民党のディアス・アジュソ州首相が、国政や地方政府運営など様々な場で国民党との不和が目立ち始めた中道政党「市民」との連立を解消し、議会の前倒し解散・総選挙に打って出たことで行われた。かつて国政でも国民党政権を支えた市民の凋落が続いており、今回の州議会選では全ての議席を失った(26→0議席)。国政で社会労働党のサンチェス政権を支える左派政党「ポデモス連合」は、選挙戦梃子入れのため、イグレシアス党首が副首相と社会権利相の座を投げ打って州議会選に臨んだが、劣勢を挽回することができなかった(7議席→10議席)。イグレシアス党首は選挙結果を受け、今後はあらゆる政治活動から退くことを表明した。国民党は単独での過半数(69議席)獲得に僅かに届かなかったが、極右政党とも称される「ボックス」(12→13議席)と連立を組む可能性が高い。

ディアス・アジュソ州首相は今回の選挙戦でスペイン政府のコロナ危機対応を厳しく非難した。感染第三波に見舞われた際も、他州が飲食店やバーの営業停止を命じたのに対して、同州は営業継続を認めてきた(但し、同州の感染者や重症者は他州に比べて高い)。今回の州議会選はスペインの政治環境に幾つかの示唆を持つ。第1にコロナ禍長期化による不満が現政権に対する批判票という形で右派政党に流れている。国政レベルの世論調査では、社会労働党が27~28%程度の支持を獲得してリードを保つが、年明け以降、国民党が市民の支持を奪う形で猛追しており、両党の支持率の差は2~4%ポイント程度に縮まっている。2019年の選挙で初の議席を獲得したボックスも、10%台後半まで支持を伸ばしている。サンチェス首相が率いる現政権は、上下両院ともに過半数の議席を確保しておらず、独立運動が燻るカタルーニャ州を含めた複数の地域政党の協力により、不安定な政権運営を続けている。2023年末の議会任期満了までは時間があるものの、次の選挙後は今回のマドリッド州議会選後と同様に、国民党が極右政党と手を組んで国政を運営する可能性も視野に入ってくる。第2にイグレシアス党首の辞任と政界引退で、ポデモス連合の穏健中道化が進みそうなことだ。政治学者出身の同氏は、テレビの政治討論番組などで活躍した後、欧州債務危機下の2013年に同党の前身となるポデモスを結党し、僅か数年で同党を政権入りに導いた。社会労働党とポデモス連合は政策運営を巡って対立することも多く、反緊縮や弱者保護を訴える中心的な存在だった同氏の離党により、両党間の関係改善と政権の安定化につながる可能性がある。だが、議会の過半数を保持しないサンチェス政権が難しい議会運営を余儀なくされる点に変わりはない。また、ポデモス連合の穏健化で社会労働党との間で中道票が分散するとみられ、この点も次の選挙で右派勢力に有利に働こう。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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