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2023.07.14
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豪中銀、ロウ総裁が事実上の更迭、ブロック副総裁が昇格へ
~政治と距離を置いた人事は市場で好感されようが、豪ドル相場は外部環境如何の展開が続こう~
西濵 徹
- 要旨
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- 14日、豪州のアルバニージー首相とチャーマーズ財務相が合同記者会見を開き、9月に任期満了を迎える中銀のロウ総裁の後任にブロック副総裁を昇格させることを明らかにした。現在のロウ総裁については、足下の物価高と金利高の共存状態が長期化するなか、その政策運営を巡って国民や政界などから反発の声が高まる動きがみられた。今年4月には独立機関が中銀の政策運営に関する改革案を公表するなど「外圧」が強まる動きも顕在化しており、ロウ氏の去就に注目が集まっていた。ブロック氏はロウ氏と同じく生え抜き出身であり、大きく政策の方向性が変わる可能性は低いと見込まれる。また、政治と距離を置いた人事は金融市場からも好感されると予想される。ただし、当面の豪ドルの対米ドル相場は米FRBの政策運営など外部環境の影響を受ける展開が続くほか、日本円に対しても同様の状況が続くことは避けられない。
豪州経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復が進む一方、昨年来の商品高に伴う生活必需品を中心とする物価上昇に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた豪ドル安による輸入インフレ、景気回復による賃金インフレが重なり、インフレ率が大きく上振れする状況に直面している。中銀(豪州準備銀行)はコロナ禍対応を目的に、利下げや量的緩和、YCC(イールド・カーブ・コントロール)の実施といった異例の金融緩和を通じて景気下支えに動くとともに、ロウ総裁は2024年まで利上げに動く可能性は低いとの考えを示し、結果として家計部門を中心とする借入拡大を促すことに繋がった(注 )。しかし、現実には上述のように急激なインフレ上昇に直面するとともに、家計債務の拡大も追い風に不動産市況も急上昇するなどバブル懸念が高まったため、中銀は昨年5月に利上げに舵を切るとともに(注 )、その後も物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされる事態となっている。結果、足下の同国経済は物価高と金利高の共存状態が長期化するなど景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている上、家計部門を巡っては昨年末時点における債務残高はGDP比で111.8%(BISベース)と主要国のなかで突出しており、その大宗を住宅ローンが占める特徴を有する。家計部門にとっては、中銀による断続利上げを受けて不動産市況が昨年初めを境に頭打ちに転じるとともに、その後は調整局面が続くなど逆資産効果が懸念される上、断続利上げの影響で金利負担は増大するなど極めて厳しい状況に直面している。さらに、同国の銀行セクターは資産の3分の2を住宅ローンが占めており、不動産市況の低迷は貸出態度の悪化を通じて幅広い経済活動の足かせとなることも懸念される。足下では商品高の一服や米ドル高も一巡するなどインフレ懸念が後退する一方、大幅利上げに伴い調整した不動産市況は移民流入などを追い風に底打ちに転じているほか、今月からの最低賃金大幅引き上げなどインフレ要因も山積するなか、中銀は5月(注 )、6月(注 )と再利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られている。しかし、こうした中銀の対応を巡って国民の間で中銀に対する反発が強まるとともに、政界からも批判が強まり、今年4月には独立機関により運営方針や決定方法などに関する改革案が公表されるなど、『外圧』が強まる動きも顕在化していた(注 )。ロウ総裁を巡っては、今年9月17日に任期満了を迎えるものの、上述のように政策運営に対する反発が強まるなかで再任される可能性は低いとの見方が広がるとともに、後任人事の行方に注目が集まっていた。なお、慣例では本人に続投の意思がある場合は連続2期で総裁を務めることとされているものの、ロウ氏自身はその意向を明確にしない状況が続く一方、上述のように反発が強まるなど厳しい状況に直面していた。こうしたなか、14日にアルバニージー首相とチャーマーズ財務相が合同で記者会見を開き、ミシェル・ブロック副総裁を後任総裁に指名することを明らかにした。ブロック氏はロウ氏が退任する翌日(9月18日)に総裁に昇格するほか、同行初の女性総裁となる一方、上述した経緯を勘案すればロウ氏は事実上更迭されたと考えられる。ブロック氏はロウ氏と同様の生え抜きの総裁であり、新総裁の下で政策運営の方向性が大きく変化するとは考えにくい一方、同氏が昨年4月に副総裁に昇格したばかりであることを勘案すれば、今回の人事は『窮余の策』と捉えることも出来る。ただし、市場においては次期総裁人事を巡って政界の影響力が強まることを懸念する向きもみられたなか、そうした影響を排除した今回の人事は好意的に受け止められると予想される。今回の人事が豪ドル相場に与える影響はほぼないと見込まれるなか、足下の豪ドルの対米ドル相場は米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営の見方が影響する展開が続いており、日本円に対しても当面はそうした外部環境に左右される展開となることは避けられないであろう。
注1 2021年2月2日付レポート「豪中銀、量的緩和の追加拡充の上、向こう3年は金利を維持の方針」
注2 2022年5月6日付レポート「豪中銀、約11年半ぶりとなる利上げ実施を決定」
注3 5月2日付レポート「豪州準備銀、インフレ期待の鎮静化に向けて2会合ぶりの再利上げに舵」
注4 6月6日付レポート「豪準備銀の政策運営を迷わせる最低賃金大幅引き上げ策」
注5 4月20日付レポート「豪準備銀・改革案、金融政策の決定過程の透明化を求める提言公表」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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