「絶体絶命」のパキスタン、中銀が追加利上げに動くも見通し立たず

~中国が支援強化に動くも、IMFとの協議が進展しないなかでは焼け石に水となる懸念は続く~

西濵 徹

要旨
  • パキスタンでは、シャバズ・シャリフ政権の下で経済の立て直しが図られているが、IMFからの追加支援は昨年の大洪水を経て留保されている。洪水復興への支援額は希望を上回るも、電力不足が幅広い経済活動の足かせとなる状況が続く。中銀は先月緊急利上げに動いたが、その後は国際金融市場の不透明感が強まりペソ安が加速しており、足下のインフレ率は一段と加速して収束の見通しが立たない状況にある。よって、中銀は4日に100bpの追加利上げを決定してIMFからの支援受け入れを後押しする動きをみせる。ただし、足下の外貨準備高は月平均輸入額の0.47ヶ月分に留まり、中国は支援を強化しているが、IMFとの協議も進展しないなかでは焼け石に水となる可能性もあり、同国経済が危機的状況に陥る懸念は高まっている。

パキスタンでは、昨年の政治的混乱を経て誕生したシャバズ・シャリフ政権の下でコロナ禍を経て疲弊した経済の立て直しが進められている。そのカギを握るIMF(国際通貨基金)からの支援受け入れを巡っては、昨年9月にIMFの理事会が同国に対する総額8.94億SDR(約11億ドル)規模の追加支援に加え、拡大信用供与措置(EEF)そのものも1年延長した上で支援総額も7.2億SDR(約9.4億ドル)拡充することを承認した。しかし、その直後に発生した大洪水において、一時は全土の3分の1が冠水して多数の死者や被災者が発生し、洪水被害を受けて多くのインフラが破壊されて主力産業の農業が壊滅的打撃を受けるなど、実体経済を取り巻く状況は一段と悪化している。さらに、こうした事態によりパキスタン政府による支援受け入れ条件の履行が困難になっていることを受けて、IMFはその後に支援実施を留保するなど、外貨の資金繰りに深刻な悪影響が出る懸念が高まっている。その後にシャリフ政権は友好国に対して緊急支援を要請し、今年1月に開催された復興支援会議では国際機関や友好国による支援表明額が90億ドルを上回るなど希望額(80億ドル)を上回り、復興に向けた動きが前進することが期待された。ただし、1月末には全土で大規模停電が発生するなど電力不足が深刻化して幅広い経済活動に影響を与える事態に発展したほか(注1)、その後は原油や石炭などを輸入に依存するなかで政府は外貨節約を目的にショッピングモールや飲食店に営業時間の短縮を要請するなど『苦肉の策』に打って出たものの、多くが従わない状況が続いている。また、今年2月にはIMFからの追加支援実施に向けた調査団との協議が行われるも、最終合意に至らなかったことを受けて、中銀は先月初めに緊急利上げを決定するなど協議を後押しする姿勢をみせている(注2)。こうした対応にも拘らず、先月の国際金融市場においては米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が高まったことを受けて、中銀による大幅利上げ実施にも拘らずリスク回避の動きを反映して通貨ルピー相場は一段と調整の動きを強めるなど輸入インフレを招く懸念が高まっている。そして、IMFからの追加支援受け入れに向けた燃料補助金廃止策などに伴いエネルギー料金が上昇したことに加え、先月末からのラマダン(断食月)に伴う食料品価格の上昇も重なり、3月のインフレ率は前年比+35.4%と中銀目標(9%)を大きく上回る伸びに加速しており、収束の見通しが立たない状況が続いている。こうした事態を受けて、中銀は4日に開催した金融政策委員会で主要政策金利を100bp引き上げる決定を行い、昨年1月からの利上げ局面における累計の利上げ幅は1125bpとなるなど一段の金融引き締めに動いている。しかし、昨年末以降は主要格付機関のS&Pグローバル(B→CCCプラス)、フィッチ(CCCプラス→CCCマイナス)、ムーディーズ(Caa1→Caa3)がいずれも格下げを実施しており、その理由にデフォルト(債務不履行)リスクが高まっていることを挙げるなど、IMFからの追加支援の遅れも影響して金融市場からの『圧力』が一段と強まる動きもみられる。2月末時点における外貨準備高(流動部分)は26.44億ドルと過去1年の月平均輸入額の0.47ヶ月分に留まるなか、中国が外貨準備の増強を目的に支援の動きを強める動きをみせているものの、IMFとの協議が進展しないなかでは『焼け石に水』となる可能性も懸念されるなど、一段と『危機的状況』が意識される展開となっている。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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