インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

徳俵に足が掛かったパキスタン、中銀が緊急利上げ決定

~金融市場の圧力も強まるなかでIMFからの支援受け入れへの動きを強めるも、事態打開は困難~

西濵 徹

要旨
  • パキスタンでは、昨年の政治混乱を経て誕生したシャバズ・シャリフ政権の下、コロナ禍で疲弊した経済の立て直しが図られてきた。昨年にはIMFからの追加支援で合意するも、その後の大洪水で経済は大打撃を受けたほか、支援受け入れ条件の履行困難を理由にIMFは支援実施を留保する展開が続く。さらに、1月には全土で停電が発生するなど、電力不安も経済活動に影響を与える展開が続く。外貨不足が深刻化する一方でインフレは昂進し、主要格付機関が相次いで格下げを発表するなど市場からの圧力も強まるなか、中銀は2日に緊急利上げを決定した。政府はIMFとの合意が近いとの見方を示すとともに、デフォルトリスクを否定するが極めて厳しい状況は変わらず、同国経済の事態打開は一段と困難になりつつあると言える。

パキスタンを巡っては、昨年の政治的混乱を経てシャバズ・シャリフ政権が誕生し、コロナ禍で疲弊した経済の立て直しが進められている。他方、カーン前首相の失職を巡っては、同氏に近い多数の議員が議員辞職して議会下院は3割近くが空席となる異常事態が続いているほか、カーン氏は早期の議会解散・総辞職の実施を求める動きをみせる。政府は国民からの人気が依然高いカーン氏の動きを警戒して様々な形で圧力を掛ける動きをみせているが、カーン氏が率いるPTI(パキスタン正義運動)は地方政府レベルで連邦政府に揺さぶりを掛けるなど一歩も引かない展開が続いている。他方、昨年の雨季(モンスーン)における記録的大雨を受けて、一時は全土の3分の1が冠水して多数の死者や被災者が発生する事態となったほか、洪水被害に伴い多くのインフラが破壊されるとともに、主力産業の農業も壊滅的打撃を受けるなど経済の立て直しは一段と困難の度合いを増している。シャリフ政権は昨年9月にIMF(国際通貨基金)との間で8.94億SDR(約11億ドル)規模の追加支援の受け入れで合意したほか、IMFは同国を対象とする拡大信用供与措置(EEF)を1年延長するとともに支援規模も7.4億SDR(約9.4億ドル)拡充することを決定している。しかし、その後の大洪水発生を受けてパキスタン側による支援受け入れ条件の履行が困難になったことでIMFは支援実施を留保する動きをみせたため、シャリフ政権は友好国からの緊急支援の受け入れに奔走した。今年1月の復興支援会議では、国際金融機関や友好国が表明した支援総額が同国政府による希望を上回る水準に達するなど、洪水復興に向けた一歩目を踏み出すことが期待されたものの、1月末には全土で一斉に大規模な停電が発生するなど電力不安が幅広い経済活動に悪影響を与える事態となっている(注1)。先月にはIMFによるミッション団が同国を訪問して政府との協議を行ったものの、最終合意に至らずミッション団が帰国後も継続協議が行われるなど、IMFとの協議が依然として難航している様子がうかがえる。同国政府は不足状態が続く外貨の節約を目的に、ショッピングモールや飲食店などに対して営業時間の短縮による節電を要請したほか、その後も政府が開催する会合で振舞われる料理を一品のみとし、閣僚などが自主的に給与を返上するなどの動きをみせている。しかし、1月末時点における外貨準備高は流動部分だけでも29.99億ドルと月平均輸入額の0.5ヶ月分に満たない水準となるなど、危機的状況が目の前に到達しつつある。他方、洪水被害や電力不足により経済活動に悪影響が続いているにも拘らず、2月のインフレ率は+31.5%と歴史的高水準に加速して収束の見通しが立たない状況が続いており、多くの国民が極めて厳しい状況に追い込まれている。また、IMFとの協議が難航していることを理由に、先月以降はフィッチ社(CCCプラス→CCCマイナス)、及びムーディーズ社(Caa1→Caa3)がデフォルト(債務不履行)リスクが高まっていると判断して相次いで格下げを発表するなど金融市場からの『圧力』が強まり、通貨ルピー安が進行して輸入インフレを招く悪循環もみられる。こうしたなか、中銀は2日に16日に予定されていた定例会合を前倒しで開催した上で主要政策金利を300bp引き上げる緊急利上げを決定しており、昨年1月以降の利上げ局面による利上げ幅は累計で1025bpに達している。今回の利上げ決定はIMFからの支援受け入れに向けた追加的な取り組みとみられ、政府内でもダール財務相がIMFとの合意が近いとの見方を示すとともにデフォルトリスクを否定するが、過去にも同様の見解を示しつつ幾度も先延ばしされてきたことを勘案すれば、依然として見通しは立たない。こうしているうちにも上述のように外貨準備は枯渇が意識される状況にあるなど、同国経済を巡る事態打開は一段と困難になりつつあると考えられる。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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