インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

パキスタン、支援受け入れ期待も、大規模停電発生で弱り目に祟り目

~経済、政治ともに不透明感が山積のなか、危機的状況に陥るか否かの瀬戸際状態が続いている~

西濵 徹

要旨
  • パキスタンでは昨年に政権交代が起こるも、その後も政治的に不安定な状況が続く。他方、大洪水で経済は壊滅的な打撃を受けるなど、コロナ禍からの経済の立て直しは極めて厳しい状況にある。IMFは一旦支援を決定するも、大洪水を受けて留保する展開が続くなか、今月初めに開かれた復興支援会議ではシャリフ政権の要請を上回る90億ドル超の資金拠出が表明された。なお、政府は外貨不足を目的に年明け直後に節電要請を行ったが、充分な成果を上げられない一方、23日には全土で大規模停電が発生するなど事態は深刻化している。さらに、米ドル高一服にも拘らずルピー安が続いてインフレも高止まりするなか、中銀は23日の定例会合で追加利上げを決定し、政策協調を目的に政府の財政健全化策に注文を付ける姿勢をみせた。ただし、経済・政治ともに不透明感が漂うなかで危機的状況に陥るか否かの瀬戸際状態が続くことになろう。

南アジアのパキスタンでは、昨年4月に議会下院がカーン前首相に対する不信任決議案を可決して失職するとともに、シャバズ・シャリフ氏が首相に就任する形で政権交代が行われ(注1)、コロナ禍で疲弊した経済の立て直しが進められた。他方、カーン氏の失職を受けて同氏に近い多数の議員が抗議のために議員辞職しており、議会下院は3割近くの議席が空白となる異常状態が続いており、カーン氏は早期の議会解散、及び総選挙の実施を求めている。政府は失職後も依然として国民からの人気が高いカーン氏に対して様々な形で圧力を強めているものの、カーン氏が率いるPTI(パキスタン正義運動)などが与党を担う地方レベルでは議会解散が行われるなど、シャリフ政権に対して揺さぶりを掛ける動きをみせている。このように政局は極めて不透明な状況が続く一方、昨年は雨季(モンスーン)の雨量が例年の3倍近くとなり、南部シンド州では5.7倍に達するなど記録的な雨が直撃した結果、一時は全土の3分の1が冠水して多数の死者、及び被災者が発生する事態に見舞われた(注2)。洪水被害により多くのインフラが破壊されるとともに、冠水を受けて主要産業の農業は壊滅的な打撃を受けるなど、経済の立て直しの道のりは一段と険しさを増している。なお、シャリフ政権は昨年9月にIMF(国際通貨基金)との間で8.94億SDR(約11億ドル)規模の追加支援の受け入れで合意するとともに、IMFは同国を対象とする拡大信用許与措置(EEF)を1年延長した上で支援規模を7.4億SDR(約9.4億ドル)拡充することを決定した。しかし、大洪水の発生を受けて支援受け入れ条件の履行が困難になっていることを理由に、IMFは具体的な支援実施を留保する展開が続いており、シャリフ政権は友好国からの緊急支援の受け入れに奔走する動きをみせてきた。結果、今月9日に開催された復興支援会議では、イスラム開発銀行が42億ドル、世界銀行が20億ドル、サウジアラビアが10億ドルの拠出を表明し、総額で90億ドル以上の資金拠出が示されるなど、シャリフ首相の希望額(80億ドル)を上回る水準に達した模様である。同国経済は洪水被害を受けて外需獲得が困難になるなか、外貨準備の減少に歯止めが掛からず、昨年11月末時点の外貨準備高は57.79億ドルと月平均輸入額の1ヶ月分にも満たない水準となるなど危機的状況に陥っており、政府は今月初めに外貨の節約を目的にショッピングモールや飲食店などに対して営業時間の短縮による節電を要請するなど異例の対応をみせている(注3)。しかし、現実には政府の要請にも拘らず多くの主要都市では大型商業施設などが閉店時間を変更しない状況が続いており、政府の目論見は見事に外れる結果を招いている。こうしたなか、23日朝に国家送電網に大規模障害が発生したことを受けて、全国的に停電が発生して主要都市のカラチやイスラマバード、ラホール、ペシャワールなどでも長時間に亘って停電が発生する事態に陥った。同国では送電網の老朽化を理由とする停電が頻発するものの、現地報道などでは全土で一斉に大規模な停電が発生することはまれであり、大洪水によるインフラ破壊の影響が出ていると考えられる。ただし、電力不安は幅広い経済活動に悪影響を与えることは必至であり、折しも上述のように政府が外貨節約を目的に節電を要請するなかでの停電発生により、国民の間では停電を警戒する形で電力需要に偏りを生じさせることも懸念される。他方、足下の国際金融市場においては米ドル高に一服感が出ているものの、経済不安も影響して通貨ルピー相場はじり安の展開が続くなか、足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続く。こうした事態を受けて、中銀は23日の定例会合で政策金利を100bp引き上げる追加利上げを決定しており、これに伴い昨年1月以降の利上げ幅は累計725bp、政策金利も15年強ぶりの高水準となっている。中銀は今回の決定について、インフレ目標の実現にはインフレ期待の鎮静化が何より重要であり、金融政策と財政政策の協調を図るべく政府に計画通りの財政健全化の実現に向けた注文を付けるなど、厳しい姿勢を示した。ただし、足下の同国は大洪水からの復興に向けて一歩目を歩み出せるか否かの状況にある上、経済のみならず政治にも不透明感が漂うなど見通しが立ちにくいなか、外部環境如何では危機的状況に陥る瀬戸際状態が続くことは避けられそうにない。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ