インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア、2022年は9年ぶりの高成長も足下の景気実態は頭打ちの様相

~中国のゼロコロナ終了の一方、主要国の減速懸念や物価高と金利高の共存など不透明要因は山積~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア経済は商品市況の影響を受けやすく、ニッケル未加工鉱石の禁輸措置は投資活動に悪影響を与えることが懸念された。しかし、実際は投資が拡大してコロナ禍からの景気回復を促す一助となっている。商品高は経常収支の改善を促す一方、財政運営面では中銀による財政ファイナンスなど不透明感がくすぶるが、米ドル高の一服によりルピア相場は底打ちしており、中銀は足下において利上げを継続するも、利上げ幅の縮小に動くなどタカ派傾斜を後退させるなど、景気の不透明感が高まるなかで利上げを躊躇している。
  • 昨年の同国は経済活動の正常化が進むとともに、商品高が外需を押し上げる動きがみられる一方、物価高と金利高の共存は内需の足かせとなることが懸念される。こうした状況ながら、昨年10-12月の実質GDP成長率は前年比+5.01%と鈍化するも堅調な推移が続いている。家計消費は堅調さが続くも、外需は頭打ちしているほか、金利上昇の影響で企業の設備投資需要は弱含んでおり、前期比年率ベースの成長率寄与度は輸入の減少が純輸出のプラス幅を押し上げるなど、景気実態は見た目以上に厳しいと捉えられる。
  • 中国のゼロコロナ終了は景気の追い風となることが期待される一方、欧米など主要国の景気減速懸念、米中摩擦による世界貿易への悪影響など景気の不透明感は山積する。さらに、商品高によりインフレが長期化すれば物価高と金利高の共存が続いて内需の重石となる可能性もくすぶる。今年の経済成長率は昨年に比べてゲタのプラス幅が縮小している上、内・外需双方に不透明要因が山積するなど鈍化が避けられない。

インドネシアを巡っては、GDPに占める輸出の割合は2割程度とASEAN(東南アジア諸国連合)のなかでは経済構造の外需依存度は比較的低いものの、財輸出の3割弱を原油や天然ガスをはじめとする鉱物資源が占めており、その経済は商品市況の影響を受けやすい特徴を有する。コロナ禍に際しては、同国でも感染が拡大して感染対策を目的とする行動制限が課されたことで家計消費など内需が下振れするとともに、世界経済の減速による商品市況の調整を受けて輸出に量、及び価格の両面で下押し圧力が掛かり、2020年の経済成長率は22年ぶりのマイナス成長に陥った。他方、同国政府は経済の資源依存体質からの脱却、資源関連産業のすそ野拡大による高付加価値化と雇用機会の創出を目的に、2020年1月からニッケル鉱石の未加工鉱石の輸出禁止に動くなど、『資源ナショナリズム』とも呼べる動きをみせている(注1)。なお、同国政府のこうした対応は対内直接投資の萎縮などを通じて経済の足を引っ張ることが懸念されたものの、同国はニッケルの世界埋蔵量、及び生産量ともに世界1位であり、同国に代わる調達先を探すことが難しい上、世界的なニッケル需要が拡大していることも追い風に資源関連を中心とする投資拡大に繋がるなど、コロナ禍からの景気回復を促す一助となっている。また、同国経済を巡っては、財政赤字と経常赤字の『双子の赤字』といった経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが国際金融市場を取り巻く環境に揺さぶられやすい一因となってきたものの、世界経済のコロナ禍からの回復を受けた商品市況の底入れに加え、未加工鉱石の輸出禁止に伴う高付加価値化も追い風に輸出が押し上げられている。結果、量、及び価格の両面で輸出額が押し上げられていることを反映して財貿易収支の黒字幅が拡大しており、一昨年末以降の経常収支は黒字基調に転じるなど対外収支構造は大きく改善している。一方、財政政策面ではコロナ禍対応を目的とする財政出動を側面支援する観点から、中銀は『時限措置』として財政ファイナンスに動いた上、昨年12月には中銀法改正に伴い中銀の独立性に対する疑念が生じかねない動きがみられた(注2)。中銀ではペリー現総裁の任期満了が5月に迫るなか、次期総裁の人事如何では中銀の独立性や財政運営に対する疑念が高まることが懸念されたものの、現時点においてはテクノクラートが就くと見込まれるなど『杞憂』に終わる可能性が高いと考えられる(注3)。こうした状況に加え、昨年末以降の国際金融市場では米ドル高に一服感が出ている上、足下では中国によるゼロコロナ終了に伴う景気回復期待の高まりも追い風に同国の通貨ルピア相場は底入れの動きを強めている。中銀は昨年8月に物価抑制を目的に約4年ぶりの利上げに動くとともに、その後は物価、及び為替の安定を目的に断続的、且つ利上げ幅を拡大するなど難しい対応を迫られた。中銀は先月の定例会合においても6会合連続の利上げ実施を決定したものの、上述のようにルピア安の動きが一巡していることを受けて利上げ幅を2会合連続で25bpに縮小させるなど、タカ派姿勢を後退させている。他方、上述の中銀法改正では中銀が政策運営に当たって景気に配慮する必要に迫られており、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まるなかで大幅利上げに躊躇せざるを得なくなっている様子もうかがえる。

図表1
図表1

図表2
図表2

なお、昨年のインドネシアにおいては、感染一服を受けた行動制限の解除を追い風に経済活動の正常化の動きが進むとともに、国境再開を受けて外国人観光客数も底入れしており、上述のように世界経済の回復を受けた量、及び価格の両面で財輸出も拡大するなど、内・外需双方で景気回復に繋がる動きが前進してきた。他方、商品高による世界的なインフレの動きは同国においても食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いており、上述のように中銀は物価抑制を目的に断続的、且つ大幅利上げの実施を迫られており、物価高と金利高の共存が家計消費をはじめとする内需の足かせとなることが懸念される。インフレ率は昨年9月をピークに頭打ちしているほか、上述のようにルピア相場も調整の動きに一服感が出るなど、物価を取り巻く環境は改善しているものの、インフレ率は依然として中銀の定めるインフレ目標を上回る推移が続くなど、インフレ収束にはほど遠い状況にある。さらに、昨年末にかけては中国によるゼロコロナの拘泥が景気の足かせとなる動きが強まったほか、欧米など主要国景気にも不透明感が強まるなど、国内・外双方で景気に対する不透明感が強まる動きがみられた。こうした状況を受けて、昨年10-12月の実質GDP成長率は前年同期比+5.01%と前期(同+5.72%)から鈍化するも、5四半期連続で5%を上回る伸びで推移するなど堅調な動きが続いていることが確認された。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は+4%強と昨年前半に比べて頭打ちの様相を強めているものの、同+3%半ば程度に鈍化した前期からわずかに加速しており、足下の景気の底堅さを示唆している。さらに、2022年通年の経済成長率も+5.31%と前年(+3.69%)から加速して9年ぶりの高成長となるなど、同国経済は完全にコロナ禍の影響を克服していると捉えられる。ただし、需要項目別の動きをみると、物価高と金利高の共存による実質購買力の下押し懸念にも拘らず家計消費は底堅い動きが続く一方、企業部門による設備投資需要の動きが頭打ちしている上、原油や天然ガス関連を中心とする輸出の底入れの動きに一服感が出ているほか、外国人観光客数も頭打ちするなど外需の動きが弱含んでおり、内・外需双方で幅広く下押し圧力が掛かる動きがみられる。さらに、内需の弱含みの動きを反映して輸入は前期比で減少したと試算され、この動きを反映して純輸出の成長率寄与度は前期比年率ベースでプラスに転じている上、プラス幅は成長率全体を上回る水準となるなど、内容はみため以上に厳しいと捉えることが出来る。産業別の生産動向の動きを巡っても、農林漁業や鉱業部門、製造業部門などの生産に底堅い動きがみられるほか、家計消費の堅調さを反映してサービス業部門の生産も堅調な推移をみせている一方、幅広い経済活動を裏打ちする電力関連などの公益部門の生産は大きく鈍化しているほか、建設部門の生産も弱含むなど固定資産投資の頭打ちに呼応する動きもみられる。よって、昨年末にかけての同国景気は実態としては頭打ちの動きを強めていると捉えることが出来よう。

図表3
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図表4
図表4

図表5
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なお、足下においては、上述のように中国によるゼロコロナ終了を受けた中国景気の回復期待を追い風に頭打ちした商品市況は底打ちしているほか、中国人観光客の回復が見込まれることを受けて同国を含むアジア新興国はその恩恵を最も受けることが期待される。他方、欧米など主要国景気を取り巻く状況に不透明感が強まっているほか、世界貿易を巡っても米中摩擦の激化がサプライチェーンの混乱を招くことが懸念されるなど、経済構造面で輸出依存度が相対的に高い新興国経済の足かせとなることも考えられる。インドネシア経済については輸出依存度こそ比較的低い一方、商品市況の動向の影響を受けやすいなど世界経済の動向に連動する傾向があることを勘案すれば、欧米など主要国景気の行方と無関係ではいられない。さらに、足下のインフレ率は頭打ちこそすれ依然としてインフレ目標を上回る推移が続いているほか、中国景気が回復の動きを強めれば商品市況の上振れがインフレ圧力を招くことも予想され、結果的に中銀は金融引き締めを維持せざるを得ず、物価高と金利高の共存状態が長期化することも予想される。また、足下においては米ドル高の一服を受けてルピア相場も底打ちに転じるなど、ルピア安が輸入物価を通じたインフレ昂進に繋がるリスクは後退しているものの、米FRB(連邦準備制度理事会)は一段の利上げ、及び引き締め姿勢の維持が見込まれるなど先行きも米ドル高が再燃する可能性はくすぶる。今年の経済成長率を巡っては+1.5ptのプラスのゲタが生じていると試算されるなど昨年(+1.9ptと試算)に比べてわずかにプラス幅が縮小しているほか、外需面では好悪双方の材料が混在するも、内需面では不透明要因が山積していることを勘案すれば、昨年に比べて成長率が鈍化する可能性はくすぶると予想される。

図表6
図表6

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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