インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

金融市場がインドネシア中銀に抱く不安は「杞憂」に終わるか

~中銀法改正が次期総裁人事に影響する可能性は低いが、制度的な問題点を抱えることは変わらず~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀を巡っては、昨年12月に行われた中銀法改正に伴い政策目標として景気への配慮が盛り込まれたほか、大統領の指示による財政ファイナンスの実施が是認されるなど、独立性に対する懸念が高まっている。この背景には、現総裁のペリー氏の任期が5月に迫るなかで次期総裁人事選びが佳境を迎えていることも影響している。なお、政府は今月にも候補者を議会に提示する必要があるなか、有力候補者はテクノクラートが占めている模様であり、金融市場の懸念は杞憂に終わる可能性が高い。しかし、来年に選挙が迫るなかで制度面の問題を抱える上、政策運営に対する注文が強まる可能性には引き続き要注意である。

インドネシアでは、昨年12月に行われた法律改正の動きが様々な経済活動に影響を与えることが懸念されている(注1)。なかでも中銀法の改正を巡っては、政策目標の内容が変更され、従来からの政策目標である通貨ルピア相場の価値の管理に加えて、持続可能な経済成長の支援を目的とする金融システムの安定維持が追加された。昨年以降の同国では商品高による生活必需品を中心とするインフレが顕在化しており、コロナ禍からの景気回復の動きに冷や水を浴びせることが懸念されるなか、政策目標の変更に伴い中銀はルピア相場の安定に加えて景気下支えを図る必要が生じており、政策運営に影響を与えることが懸念された。昨年は米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜に伴う米ドル高の動きがルピア安を招き、商品高に加えてルピア安に伴う輸入物価の押し上げがインフレ昂進に繋がるなか、中銀は物価、及び通貨の安定を図るべく連続での大幅利上げ実施を余儀なくされた(注2)。しかし、昨年末以降は米ドル高の動きに一服感が出ていることを受けてルピア相場も一転底入れしたことを受けて、中銀は昨年末以降追加利上げに動くも利上げ幅を縮小させるとともに、先月の定例会合においては同行のペリー・ワルジヨ総裁が利上げ局面の終了を示唆する動きをみせた(注3)。依然としてインフレ率は中銀の定める目標を大きく上回る推移が続いているにも拘らず、中銀が利上げ局面の終了を示唆する動きをみせたことを受けて、金融市場においては法改正に伴い中銀が景気の下支えを図る必要に迫られているとの見方が出ている。この背景には、現在のペリー総裁の任期が5月に迫っており、政府は今月中に次期総裁人事を議会に提示する必要がある上、法改正に伴い中銀総裁、及び理事に元政治家を指名することが可能となっていることも影響している。さらに、法改正においては、大統領が危機的事態を宣言した際に中銀が政府から国債の直接購入を認めるなど、いわゆる財政ファイナンスを是認することが盛り込まれており、コロナ禍対応では『時限措置』として実施された当該措置がいつでも行うことが可能となる。仮に元政治家が中銀総裁に就任して財政ファイナンスにより政府の施策を『側面支援』する事態となれば、独立性が大きく損なわれるとともに、ルピア相場にも悪影響が出ることは避けられそうにない。次期総裁人事を巡っては、ペリー総裁の留任に加え、上級副総裁を務めるデストリー・ダマヤンティ氏の昇任、預金保険公社(LPS)理事長のプルバヤ・ユディ・サデワ氏に加え、現地報道によるとスリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相の名前も挙がるなどテクノクラートを中心に検討されている模様である。なかでもスリ・ムルヤニ氏はIMF(国際通貨基金)理事や世界銀行の専務理事を務めるなど国際金融界で知名度が高く、ユドヨノ前政権と現政権で財務相を務めて税制改革やコロナ禍対応で手腕を発揮した経緯がある。現時点において取り沙汰されている面々を勘案すれば、中銀の独立性に対する国際金融市場の懸念は杞憂に終わる可能性は高いと見込まれるが、総裁以外の人事を通じて政治的な影響力を行使することは可能であるなど制度的に問題が残ることは変わらない。来年2月には次期大統領選(第1回投票)、及び総選挙の実施も予定されるなか、中銀の政策運営に対して景気の観点から注文が強まる可能性には引き続き注意が必要と言える。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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