インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、4会合連続の利上げ、且つ3会合連続の大幅利上げを決定

~米ドル高一服にも拘らずルピア安懸念がくすぶるなか、先行きも難しい対応を迫られる可能性~

西濵 徹

要旨
  • 足下のインドネシア経済は、国内外で不透明要因が山積するも堅調な底入れが続いている様子がうかがえる。しかし、世界経済の減速懸念に加え、国内では物価高と金利高の共存が内需の足かせとなるなか、先行きに対する不透明感は高まっている。物価及び為替の安定を目的に中銀は8月以降断続利上げを実施したほか、足下では米ドル高圧力が一服する動きがみられるものの、ルピア相場は弱含む展開が続く。こうしたなか、中銀は17日の定例会合で4会合連続の利上げ、且つ3会合連続の大幅利上げ実施を決定した。同行のペリー総裁は先行きの景気及び物価安定に自信をみせる一方、政策運営は慎重な対応を維持する考えを示した。ルピア相場の安定策を強化する考えをみせるが、米ドル高一服にも拘らずルピア安がくすぶる状況は政策及びファンダメンタルズへの不信感が影響しているとみられ、今後も難しい対応が続くであろう。

インドネシア経済を巡っては、世界経済の不透明感の高まりに加え、商品高による世界的なインフレの動きが食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招いているほか、国際金融市場における米FRB(連邦準備制度理事会)などのタカ派傾斜による米ドル高を受けた資金流出が通貨ルピア安を招いて輸入物価を通じたインフレ昂進に繋がる懸念が高まるなど、国内外で不透明要因が山積している。こうした状況にも拘らず、今年7-9月の実質GDP成長率は前年同期比+5.72%と前期(同+5.45%)から伸びが加速しているほか、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も9四半期連続のプラス成長で推移するなど、景気は着実に底入れしてコロナ禍からの回復が続いていることが確認されている(注1)。ただし、足下の景気は、世界経済を巡る不透明感にも拘らず、商品市況の高止まりや国境再開の動きなども追い風に財、サービスの両面で外需は堅調な動きをみせる一方、行動制限の緩和を受けたペントアップ・ディマンドの発現が一巡するとともに、物価高と金利高の共存が実質購買力を下押しするなかで家計消費は弱含むなど、頭打ちする兆しがうかがえる。さらに、足下の世界経済は中国による『動態ゼロコロナ』戦略への拘泥が中国のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて中国経済と連動性が高い国々の景気の足かせとなっているほか、欧米など主要国においても物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせるなど、スタグフレーションに陥る懸念が高まっている。他方、国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)などのタカ派傾斜に伴う米ドル高を受けて世界的なマネーフローが変化し、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国を中心に資金流出が加速して通貨安圧力が強まる動きがみられた。インドネシアの経常収支は慢性的に赤字基調が続くなど対外収支構造は脆弱であったものの、コロナ禍を受けた景気減速による需要鈍化と商品高が重なり昨年後半以降は黒字で推移する一方、コロナ禍対応を目的に政府は財政ファイナスに動くなど財政状況が極めて厳しい状況にある。こうしたなか、商品高に伴う生活必需品を中心とするインフレ昂進の動きが顕在化して足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標を上回る推移が続いているほか、景気回復の動きも追い風にコアインフレ率も徐々に加速している。なお、足下のコアインフレ率はインフレ目標の範囲内に収まる推移が続いているものの、ルピア安による輸入物価の押し上げが一段のインフレ昂進を招くことが懸念されるなか、中銀は8月に約4年ぶりの利上げに動き(注2)、その後は9月(注3)、及び10月(注4)と2会合連続の大幅利上げに動くなど、物価及び為替の安定に向けてタカ派度合いを強めてきた。しかし、こうした中銀による断続的な利上げ実施にも拘らず、国際金融市場においては『タカ派度合い』の差を理由にルピア安圧力がくすぶる展開が続くなど難しい対応を迫られてきた。他方、足下の国際金融市場においては米ドル高圧力が後退して新興国からの資金流出の流れが一変する動きがみられるなか(注5)、ルピア安の動きは一時的に後退したものの、足下では再び調整の動きを強めるなど大きな流れが変化する状況とはなっていない。政府は来年度予算案において4年ぶりに財政赤字に関する法定上限の凍結措置を解除するとともに、歳出抑制を目的に燃料補助金の削減に動く一方、このところの資金流出に伴うルピア安を受けて足下の外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に照らして「適正水準(100~150%)」の下限を下回ると試算されるなど、耐性が低下していることがルピア相場の足かせになっているとみられる。こうしたなか、中銀は17日に開催した定例会合において政策金利(7日物リバースレポ金利)を4会合連続で引き上げるとともに、利上げ幅も3会合連続の50bpとする大幅利上げを決定している。会合後に公表した声明文では、世界経済について「物価高や主要国中銀の利上げ、金融市場の不透明感の高まりを受けて減速している」、「欧米など幾つかの国でリセッションに陥るリスクが高まっている」との認識を示す一方、同国経済について「景気回復の動きが続いており、今年通年の経済成長率は+4.5~5.3%の上限近傍になる」との従来見通しを据え置くとともに、「来年の経済成長率も高止まりが見込まれる」とした。また、経常収支について「改善が続いており、今年通年の黒字幅はGDP比+0.4~1.2%になる」との従来見通しを据え置くとともに、ルピア相場について「安定化策を受けて周辺国に比べて安定した推移が続いており、先行きはファンダメンタルズを反映して安定が見込まれる」との認識を示した。物価動向について「インフレ期待は依然高く、インフレ期待の鎮静化に向けて金融引き締めを強化する必要がある」とする一方、金融市場を巡って「銀行セクターは堅牢さを維持しているが、リスク審査を継続する必要がある」との認識を示した。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は今回の決定について「インフレ期待の抑制に向けた前倒し、且つ予防的、前向きな対応」とした上で「来年前半にコアインフレ率を目標域に戻すことを目的とした措置」であり、「米ドル高が続くなかでルピア相場の安定強化に資するもの」との考えを示した。また、米FRBの政策運営を巡って「FF金利は来年第1四半期に5%に達するが、その後はピークアウトが見込まれ、ルピア相場を巡るターニングポイントになる」との見通しを示した。その上で、政策運営について「他の国々とは異なり慎重な対応を維持する」としつつ、「年末時点のインフレ率は+5.6%と予想しており、コアインフレ率とともに市場予想を下回る」との見通しを示すなど、物価安定に自信をみせた。ただし、足下の市場環境の変化にも拘らずルピア安が収まらない背景には、政策運営及びファンダメンタルズに対する信認低下が警戒されるなか、しばらくは難しい政策対応を迫られる状況が続くと予想される。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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