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2022.05.20
アジア経済
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中国、政策金利引き下げで不動産市況のテコ入れなるか
~金融市場は政策に期待も「的を絞った」対応、当面はゼロ・コロナが重石の状況が続くであろう~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の中国経済は当局のゼロ・コロナ戦略に伴い景気減速が避けられず、ロックダウンによる行動制限は不動産市況の重石となっている。昨年は規制強化や事実上の金融引き締めにより不動産業界の資金繰り懸念が顕在化し、金融市場に動揺が広がった。一旦事態は収束したが、当局のゼロ・コロナに伴い不動産市況は頭打ちして同様の事態に陥る懸念が高まっている。中銀は15日に住宅ローンを引き下げたほか、20日には政策金利(5年物LPR)を引き下げる決定を行った。ただし、足下では資金流出が懸念されるなか、中銀は1年物LPRを据え置くなど「的を絞った」対応が続く。金融市場では中国の政策対応に期待する向きがあるが、大規模対策に動く可能性は低く、ゼロ・コロナも続くなど、中国の材料に揺さぶられる展開が続こう。
足下の中国経済を巡っては、中国当局によるいわゆる『ゼロ・コロナ』戦略が足かせとなる形で幅広い経済活動が制限されるとともに、サプライチェーンも混乱しており、生産のみならず、家計消費、固定資本投資などすべての経済指標が下振れするなど、景気減速が避けられなくなっている(注1)。さらに、中国当局によるゼロ・コロナ戦略に伴い中国国内では多くの都市において部分的ないし全面的なロックダウン(都市封鎖)が実施されており、その対象となっている都市を中心に不動産市況は下振れする動きが顕在化している。なお、昨年の中国経済については、コロナ禍からの景気回復が進む一方、金融緩和によるカネ余りを受けて不動産市況の急上昇によるバブル化が警戒されたため、当局は不動産投資に対する規制強化に加え、金融政策も事実上引き締め方向にシフトさせる動きをみせてきた。他方、中国の不動産業界を巡っては、レバレッジ比率が極めて高い分野とされるなど債務の過剰感がリスク要因として意識されてきたなか、上述のような政策転換も影響して資金繰りに対する懸念が顕在化するとともに、不動産大手企業のデフォルト(債務不履行)懸念をきっかけに国際金融市場に動揺が広がる事態に発展した(注2)。その後、当局はデフォルト懸念に見舞われた企業への直接的な関与を強めることで金融市場における動揺の鎮静化を図るなど、表面的には落ち着きを取り戻した。さらに、中国景気の回復期待も追い風に海外からの資金流入が活発化したことも重なり、金融市場は上述の問題を一旦は克服したと理解した可能性も考えられる。また、景気下支えを図るべく、中銀(中国人民銀行)は昨年12月、今年1月と立て続けに政策金利であるLPR(ローン・プライム・レート)の引き下げを実施するなど金融緩和に動くとともに、共産党及び政府は3月に実施した全人代(全国人民代表大会)において経済の安定に向けて政策の総動員に動く考えを示した(注3)。しかし、当局はゼロ・コロナ戦略の旗を降ろすことが出来ない状況が続くなか、年明け以降は感染が再拡大するとともに、その後は上海や深圳など大都市にも広がり都市封鎖の対象となったことで経済活動に深刻な悪影響が出ている。さらに、不動産市況が頭打ちの様相を強めていることで不動産業界においては資金繰りが再び懸念される事態となるなど、金融市場を取り巻く状況は厳しさを増している。また、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀がタカ派傾斜を強めるなか、中国では景気下支えに向けた金融緩和が実施されるなど政策の方向性が真逆を向いていることを理由に資金流出懸念が高まり、人民元相場が調整の動きを強める事態となっている。こうした動きは不動産業界の資金繰りに対する懸念を一段と惹起させる可能性が高まり、金融市場の動揺を招くことが懸念されてきた。こうしたなか、中銀は今月15日にも不動産市況のテコ入れを目的に、1軒目の住宅購入を対象に住宅ローン金利の引き下げを決定する政策対応に動いたほか、20日には政策金利である5年物LPRを15bp引き下げて4.45%とする決定を行った。これは銀行部門が住宅ローンの決定に際して5年物LPRを基準としていることが影響している。他方、貸付金利の大宗に影響を与える1年物LPRについては上述のように昨年末以降だけで2度引き下げられており、足下において金融市場の流動性が潤沢であることを理由に据え置いたとみられる。また、上述のように中国の景気減速懸念や金融政策の方向性の違いも理由とする資金流出の動きが活発化しており、そうした動きを警戒して1年物LPRが据え置かれた可能性もある。金融市場においては、中国政府が景気下支えに向けて政策支援を強化するとの見方が根強いものの、今回の決定はあくまで『的を絞った』ものと捉えられ、過去に行われたような大規模な政策対応に動く可能性が極めて低いことを示唆している。さらに、引き続き当局のゼロ・コロナ戦略が景気の足かせとなる状況は変わらず、当面の金融市場は引き続き中国経済を巡る材料に揺さぶられる展開が続くであろう。
注1 5月16日付レポート「中国の4-6月はマイナス成長(前期比)が必至の様相」
注2 2021年9月27日付レポート「なぜ今になって中国の債務問題に注目が集まっているのか」
注3 3月7日付レポート「2022年全人代開幕、中国政府はなによりも「経済の安定」を重視」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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