インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国、8月統計は予想外が相次ぐも、足下の状況は極めて厳しい

~金融市場は党大会直前のタイミングゆえに神経質な展開が続く可能性に要注意~

西濵 徹

要旨
  • 年明け以降の中国では、当局のゼロ・コロナ戦略への拘泥が景気の足かせとなる状況が続く。上海のロックダウン解除により一旦は持ち直しの動きがみられたが、その後も感染が確認されて行動制限が再強化される展開が続く。主要国景気の減速懸念も強まるなど、足下では内・外需双方に下押し圧力が掛かっている。
  • 生産活動の下振れが懸念されたが、8月の鉱工業生産は前年比+4.2%と予想外で底入れした。行動制限の再強化に伴い幅広い分野で生産は下振れする一方、エネルギー需要拡大に対応した生産拡大の動きが生産を押し上げたことが影響した。8月の小売売上高も前年比+5.4%と底入れしている。需要喚起策や夏場の観光需要が押し上げ要因となる一方、不動産需要の低迷は耐久財需要の足かせとなる対照的な動きもみられる。8月の固定資産投資も年初来前年比+5.8%と底入れしている。ただし、国進民退色が強まる一方、不動産需要の低迷が投資の足かせとなるなど、中国経済全体に悪影響を与え得る兆候はくすぶる。
  • 中銀は景気下支えに向け金融緩和に動いたが、国際金融市場では米FRBなどのタカ派傾斜が意識される形で人民元安圧力が強まっている。ただし、政治の季節が近付くなかで当局は人民元安阻止に動いている様子もうかがえる。他方、党大会直前に習氏は外遊するなど国内外に存在感を誇示しているが、ロシアの「抱き付き戦略」に苦慮する様子もうかがえる。中国景気の不透明感が世界経済を揺さぶる展開は続くであろう。

年明け以降の中国経済を巡っては、感染力の強い変異株によるコロナ禍の再燃を受けて、当局は引き続き『ゼロ・コロナ』戦略に拘泥する対応を維持した結果、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲10.0%の大幅マイナス成長になったと試算されるなど景気に急ブレーキが掛かった(注1)。なお、景気に急ブレーキが掛かる一因となった上海市などを対象とする都市封鎖解除により、その後は混乱したサプライチェーンの修復が進むとともに、企業マインドも底入れするなど景気の持ち直しを示唆する動きが確認された。しかし、その後も当局はゼロ・コロナ戦略の旗を降ろすことが出来ず、感染が確認される度に強力な行動制限が課されており、製造業のハブとなる都市で相次いで感染が再拡大して都市封鎖(ロックダウン)が再開されるなど、経済活動の足かせとなる状況が続いている。さらに、今夏は記録的猛暑と少雨を理由に水力発電への依存度が高い重慶市や四川省などで電力不足が深刻化したため、工業用電力の計画停電が実施されたことも生産活動に悪影響を与えている。8月の製造業の企業マインド統計は政府版(製造業PMI)、民間版(財新製造業PMI)ともに好不況の分かれ目となる水準を下回るなど景気減速が意識されているほか、サービス業のマインドもともに頭打ちしている(注2)。さらに、足下の世界経済を巡っては、比較的堅調な推移をみせてきた先進国において物価高を理由に米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀のタカ派傾斜を受けて頭打ちの様相を強めており、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が強まっている。こうした状況を反映して、8月の輸出額は頭打ちの様相を強めているほか、家計消費をはじめとする内需や生産活動の低迷を反映して輸入額も頭打ちの様相を強めるなど、足下の中国経済は内・外需双方に下押し圧力が掛かる状況に直面している(注3)。

図表1
図表1

上述のように製造業を中心とする生産活動への悪影響が懸念される動きがみられたにも拘らず、8月の鉱工業生産は前年同月比+4.2%と前月(同+3.8%)から伸びが加速するなど、予想外に拡大していることが確認された。なお、前月比は+0.32%と拡大が続くも前月(同+0.38%)からペースは鈍化しており、生産活動は行動制限の緩和を受けて一旦は底入れの動きを強めたものの、感染再拡大の動きが確認されるなかで行動制限が再強化されていることを受けて再び下押し圧力が掛かっている様子がうかがえる。業種別では、夏場のエネルギー需要の拡大のほか、内陸部を中心に電力不足が顕在化するなかで電力融通に向けた発電量拡大の動きを反映して、電気・熱・ガス・水道関連(前年比+13.6%)の生産の伸びが大きく拡大したことが生産全体を押し上げている。一方、行動制限の再強化の動きや電力不足などが足かせとなる形で鉱業(前年比+5.3%)の生産は頭打ちの動きを強めているほか、これまで生産活動をけん引してきたハイテク関連(同+4.6%)の生産もサプライチェーンの混乱などが足かせとなる形で鈍化しており、それに伴い製造業全体(同+3.1%)の生産も弱含む動きがみられる。よって、8月の生産活動が予想外に底入れの動きをみせた背景には、エネルギー関連の生産拡大の動きが影響したと捉えられる。財別では、補助金や減税などの需要喚起策を反映して新エネルギー車(前年比+117.0%)を中心とする自動車(同+33.1%)の生産は底入れの動きが続く一方、米中摩擦の激化やサプライチェーンの混乱が影響する形で半導体(同▲24.7%)やマイコン(同▲18.6%)の生産は大きく下振れしているほか、スマートフォン(同▲11.4%)の生産も弱含んでいる。さらに、生産活動そのものが弱含んでいることを反映して産業用ロボット(前年比▲1.1%)や工作機械(同▲13.5%)の生産も下振れしている。また、インフラ関連や不動産関連などの建設需要が弱含んでいることを受けて、関連する鋼材(前年比▲1.5%)やセメント(同▲13.1%)、板ガラス(同▲0.9%)の生産も軒並み前年を下回るなど、幅広い分野で生産活動は下振れしている。

図表2
図表2

また、上述の通りこのところの家計消費を巡っては、当局によるゼロ・コロナ戦略への拘泥が雇用回復の足かせとなる動きが続く一方、幅広い商品市況の上振れなどを受けた物価上昇の動きは実質購買力の重石となるなど一段の下振れが懸念された。しかし、8月の小売売上高(名目ベース)は前年同月比+5.4%と前月(同+2.7%)から伸びが加速するなど、鉱工業生産と同様に予想外に拡大していることが確認された。なお、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレ上振れの動きは名目ベースの伸び率を押し上げているとみられるが、8月の小売物価は前年同月比+3.1%と前月(同+3.5%)から伸びが鈍化したことを勘案すれば、8月の実質ベースの小売売上高も同+2.3%と前月(同▲0.8%)から6ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じたと試算出来るなど、底入れが確認出来る。名目ベースの前月比は8月も▲0.05%と前月(同▲0.12%)から2ヶ月連続で減少するなど下押しの動きが強まっているものの、足下ではガソリンなどエネルギー価格の下落の動きが物価上昇圧力を後退させていることを勘案すれば、実質ベースでは底堅い動きが続いていると捉えられる。また、7月は前月に大手EC(電子商取引)サイトの大規模セールが実施された反動でECを通じた小売売上高の伸びが下振れしたものの、8月は大規模セールが実施されたことで年初来前年比+3.7%と前月(同+3.2%)から伸びが加速している。さらに、夏場の観光シーズンが重なったことで、外食関連(前年比+12.9%)の消費が大きく押し上げられたことも小売売上全体の押し上げに繋がっている。財別では、補助金や減税など需要喚起策を反映して自動車(前年比+15.9%)で大幅な伸びが続いているほか、夏場のエネルギー需要の拡大なども追い風にガソリンをはじめとする石油製品(同+17.1%)も伸びが拡大するなど需要の底入れが進んでいる。また、宝飾品(前年比+7.2%)や医薬品(同+9.1%)などに対する需要の堅調さも小売売上の底入れを促す一助になっているとみられる。ただし、不動産需要の弱さを反映して建築資材(前年比▲9.1%)や家具(同▲8.1%)に対する需要が弱含んでいるほか、通信機器(同▲4.6%)など耐久消費財に対する需要も力強さを欠くなど、対照的な動きもみられる。

図表3
図表3

さらに、過去の景気回復局面においてはけん引役となることが多かった固定資産投資も8月は年初来前年比+5.8%と前月(同+5.7%)からわずかに伸びが加速しており、当研究所が試算した単月ベースの前年同月比の伸びも8月は+6.4%と前月(同+3.5%)から加速するなど底入れしている。前月比も+0.36%と前月(同+0.15%)から拡大ペースも加速しており、生産活動や家計消費が頭打ちの様相をみせるなかで対照的に底入れの動きが確認されるなど、投資が足下の景気を下支えする状況は変わっていない。実施主体別では、民間投資(年初来前年比+2.3%)の伸びが一段と鈍化するなど下振れしている一方、国有企業(同+10.1%)は対照的に伸びが拡大しており、足下の投資活動はいわゆる『国進民退』色が強まっている様子がうかがえる。一方、目的別ではこれまで弱含む推移が続いた設備投資関連(年初来前年比+3.5%)の伸びに底打ち感が出る一方、建設関連(同+6.6%)の伸びは頭打ちするなど建設需要の弱さが投資の足かせとなっている。こうした動きを反映して不動産投資は年初来前年比▲7.4%と前月(同▲6.4%)からマイナス幅が拡大している上、単月ベースの前年同月比も▲10.8%と前月(同▲9.9%)からマイナス幅が拡大したと試算されるなど一段と下振れしている。不動産需要の弱さを反映して8月の新築住宅価格は前年同月比▲1.3%と前月(同▲0.9%)からマイナス幅が拡大している上、前月比も▲0.3%と2021年11月以来のマイナス幅となるなど下振れしている。主要70都市のうち50都市で前月比がマイナスとなっており、行動制限の強化による需要低迷に加え、全国でローンの返済を拒否する動きが広がったことで信頼感も低下している。中銀(中国人民銀行)は不動産需要のテコ入れに向けて、5月(注4)と8月(注5)と立て続けに政策金利を引き下げているものの、その効果は見通せない状況が続く一方、不動産投資はGDPの2割弱を占めるとみられるなか、その低迷は景気の足を引っ張ることは避けられない。

図表5
図表5

国際金融市場においては米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜を受けた米ドル高圧力が強まり、新興国では資金流出圧力が強まる動きがみられるなか、中国では上述のように中銀が金融緩和に動くなど金融政策の方向性の違い理由に人民元安圧力が掛かりやすい状況にある。こうした事態を受けて、中銀は今月5日に人民元安の抑制を目的に銀行に対する外貨預金準備率を200bp引き下げて6.00%とする決定を行っているものの、金融市場における米ドル高圧力を受けて人民元相場はジリ安の展開が続いている。人民元相場(オンショア)を巡っては、中銀が公表する基準値を元に取引が行われるが、金融市場においては人民元安阻止を目的に基準値設定を巡って『逆周期(カウンターシクリカル)要因』を活用している可能性が指摘されており、来月に共産党大会を控えるなど政治の季節が近付くなかで不透明感が高まる動きがみられる。また、共産党大会直前のタイミングにも拘らず、習近平氏は中央アジアのウズベキスタンで開催中の上海協力機構(SCO)首脳会議に出席するなど、党大会に向けて国内外に存在感を誇示する動きをみせる。同会議に際して、習氏はロシアによるウクライナ侵攻後初めてロシアのプーチン大統領と会談したが、会談内容に関するロシア側の発表と中国側の発表の間には微妙な温度差がうかがえる。ウクライナ問題が深刻化して以降、中国では商品高によるインフレと電力不足懸念が景気の足かせとなるなか、ロシア産の原油などエネルギー資源の輸入を拡大させるなど経済面で両国関係は深化している一方(注6)、ウクライナ侵攻に対しては明確な姿勢を示していない。政治の季節が近付くなかで習近平指導部は発足から掲げるスローガン(中華民族の偉大なる復興)の実現に向けてロシアの資源を必要とする一方、主要国から孤立するロシアの『抱き付き戦略』の対応に苦慮しているのが実情と捉えられる。中国当局がゼロ・コロナ戦略の旗を降ろす見通しも立たないなか、中国の景気減速懸念は引き続き世界経済の不透明要因となる展開が続くと予想される。

図表6
図表6

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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