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2022.05.26
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スリランカ経済はウィクラマシンハ首相の下で立て直しが進むか
~IMFとの協議窓口の財務相も兼務へ、老練な政治家の下でも難しい状況が続くことは不可避か~
西濵 徹
- 要旨
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- スリランカは、親中派政権の下で中国による「債務の罠」に陥るなか、コロナ禍やゴタバヤ政権による政策失敗も重なり深刻な経済危機に直面している。商品市況の上振れや金融市場環境の変化に伴いインフレも昂進するなか、反政府デモが激化する事態に発展した。結果、今月初めに大統領の兄のマヒンダ首相は辞任に追い込まれた。後任首相には過去4度の首相経験を有するウィクラマシンハ氏が就任し、「反ゴタバヤ」色を鮮明にしつつ挙国一致内閣の樹立を目指した。しかし、組閣に難航するなかでIMFとの協議の窓口となる財務相を兼務することを明らかにした。政府はIMFからの支援受け入れへ財政健全化策に取り組む意向を示しており、金融市場も通貨ルピー相場の調整が一服する動きもみられる。ただし、老練なウィクラマシンハ氏の下でも、政局混乱が続くなかでの経済の立て直しは極めて難しい状況が続くことは避けられそうにない。
スリランカを巡っては、親中派のラジャパクサ(マヒンダ及びゴタバヤ)政権の下で中国のいわゆる『債務の罠』に陥っている上、一昨年来のコロナ禍で主力の観光業が打撃を受けるとともに、ゴタバヤ政権が実施した化学肥料と農薬の使用を禁止する政策を受けて農業も壊滅状態に陥り、財政及び対外収支は悪化するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが露わになっている。さらに、このところの国際商品市況の底入れを受けて、原油や石炭のほか、肥料や穀物など幅広くの財を海外からの輸入に依存するなか、外貨準備の枯渇が懸念されたことで対外債務の支払いのみならず輸入決済も困難になるなど、国内で様々な財の需給がひっ迫している。また、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀がタカ派傾斜を強めており、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国は資金流出に直面するなか、同国では通貨ルピー安による輸入物価が押し上げられており、需給ひっ迫も重なりインフレの昂進を招いている。こうしたことから、3月末以降に最大都市コロンボを中心にゴタバヤ大統領の辞任を求める抗議デモが活発化しており、一部が暴徒化して治安部隊と衝突したため、政府は非常事態宣言と夜間外出禁止令の発令に追い込まれた。その後もゴタバヤ大統領は兄のマヒンダ首相(元大統領)を除く全閣僚辞任により与野党結集による挙国一致内閣の樹立を目指すも、与党連合から大量の離反者が出て政局が混乱する事態に発展した(注1)。政府はIMF(国際通貨基金)からの支援受け入れに動いており、中銀は大幅利上げを実施する一方、政府及び中銀はハードデフォルトの回避を目的に対外債務の返済を一時停止する方針を明らかにしたほか(注2)、今月には利払い猶予期間の終了に伴いデフォルト(債務不履行)状態に陥っている。ただし、その後も大統領の辞任を求める反政府デモやストライキが続いている上、一部が暴徒化して再び治安部隊との間で衝突する事態に発展したほか、多数の死傷者が発生したことを受けて、今月9日にマヒンダ首相は経済混乱の責任を取る形で首相の辞任を発表した(注3)。その後、ゴタバヤ大統領は過去に4度の首相経験を有するラニル・ウィクラマシンハ氏を新首相に指名し、12日にウィクラマシンハ氏は5度目となる首相に就任した。ウィクラマシンハ氏は首相就任に際して『反ゴタバヤ』の立場を鮮明にするとともに、挙国一致内閣の樹立を目指す考えを示したものの、ゴタバヤ大統領の辞任を求める野党勢力の反発は根強いなど組閣に難航する展開が続いてきた。こうしたなか、25日にウィクラマシンハ首相はIMFとの支援協議の窓口となる最重要閣僚である財務相を兼任するなど、自身でIMFとの協議を主導する考えを明らかにした。同国が要請するRFI(ラピッド・ファイナンシング・インストルメント)を巡っては、IMFが「国際収支上の問題解決努力」として金融引き締めや財政健全化策を支援条件としている。よって、これに先立つ形で政府は経済危機に対応する観点から燃料価格の大幅引き上げを発表するとともに、この決定に伴う輸送価格などサービス価格の改定を承認するなど、財政収支の改善に向けた取り組みを公表している。さらに、ウィクラマシンハ氏は当面の財政運営について、再建計画の資金捻出に向けてインフラ投資の削減を図るほか、向こう6週間以内に暫定予算案を議会に提出する方針を明らかにしている。なお、国際金融市場においてはウィクラマシンハ新首相の就任後、政治的な安定を期待する向きを反映して通貨ルピー相場の調整圧力は一服するなど外部環境に改善の兆しがみられるものの、足下のインフレ率は昂進が続いている上、燃料価格引き上げを受けて一段の上振れが避けられず、国民生活は一段と厳しい状況に追い込まれる状況は避けられない。老練なウィクラマシンハ首相とはいえど、政局の混乱が続くなかでの経済の立て直しは極めて難しい展開が予想される。


注1 4月4日付レポート「スリランカ、経済危機を巡る暴動を受けて全土に非常事態宣言を発令」
注2 4月11日付レポート「スリランカ中銀、大幅利上げ実施も、物価も景気も見通し立たず」
注3 5月10日付レポート「スリランカ、マヒンダ首相辞任で幕引きを狙うも事態収束の道筋みえず」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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