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2022.05.10
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スリランカ、マヒンダ首相辞任で幕引き狙うも事態収束の道筋みえず
~政局混乱のなかでIMFによる支援の行方も見通せず、政治、経済ともに不透明な状況が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- スリランカは、中国の債務の罠とコロナ禍による景気減速を受けて経済のファンダメンタルズの悪化が続くなか、国際商品市況の上振れや国際金融市場の環境変化も重なり厳しい状況に追い込まれている。電力不足やインフレを受けて市民の間に大統領辞任を求める動きが広がり、政府は大統領一族による政治支配批判をかわす動きをみせた。さらに、IMFなどからの支援受け入れに向けた動きをみせるが、協議の行方は不透明な状況にある。反政府デモが続くなかで政府は2度目の非常事態宣言を発令して取り締まりを強化するも死傷者が出る事態となり、9日にマヒンダ首相は辞任と内閣総退陣を表明した。挙国一致内閣発足を目指す姿勢だが政局が混乱するなかで見通しは立たず、経済の行方も極めて不透明な状況が続いている。
このところのスリランカは、中国によるいわゆる『債務の罠』に陥るとともに、一昨年来のコロナ禍を受けて主力産業の観光業が壊滅的な打撃を受けて経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が悪化するなど、財政及び対外収支の面で極めて厳しい状況に追い込まれてきた。こうしたなか、国際商品市況の底入れを受けて原油や石炭のほか、肥料や穀物などを輸入に依存する同国では外貨準備の枯渇が懸念されており、対外債務の支払いのみならず、輸入決済も困難に陥っている。さらに、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀がタカ派傾斜を強めており、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国では資金流出に直面する動きがみられるなか、同国の通貨ルピーは調整の動きを強めるなど輸入物価の押し上げに加え、対外債務の負担増大が懸念される。結果、同国においては原油や石炭の輸入困難に伴う電力不足を理由に計画停電が実施されるとともに、供給不足や輸入物価の上振れも理由に生活必需品を中心にインフレが昂進するなど市民生活に深刻な悪影響が出ており、最大都市コロンボを中心にゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の辞任を求める抗議デモが活発化してきた。また、3月末に抗議デモの一部が暴徒化して治安部隊と衝突する事態に発展したため、政府は4月初めに全土を対象とする非常事態宣言のほか、夜間外出禁止令の発令に動くなどの対応をみせた(注1)。その後、大統領は兄のマヒンダ首相(元大統領)を除く閣僚辞任を通じて与野党結集による挙国一致内閣の樹立を目指す姿勢を示したものの、野党はこの要望を拒否したほか、与党連合から大量の離反者が出るなど政局は大きく混乱している。他方、経済の立て直しを図るべく政府はIMF(国際通貨基金)からの支援受け入れに向けて準備を進めており、中銀は先月初めに緊急利上げを実施するとともに、中銀及び財務省はハードデフォルトの回避を目的に対外債務の返済を一時停止する方針を明らかにした(注2)。さらに、政府はその後実施した内閣改造において、大統領の弟のバシル氏(前財務相)、兄のチャマル氏(前灌漑相)、マヒンダ首相の息子のナマル氏(前青年・スポーツ相兼開発調整監視相)の3人を再任しないなど、反政府デモの一因であるラジャパクサ一族による政治支配に対する批判をかわす動きもみられた。また、IMFや世界銀行からの支援協議はインドによる介入も影響して前進しており(注3)、世界銀行との間では6億ドル規模の金融支援に合意した模様であるものの、IMFは要請を受けたRFI(ラピッド・ファイナンシング・インストルメント)は完全なプログラムやレビューを必要としない一方で「国際収支上の問題解決努力」を条件とするなかで金融引き締めや増税などの財政健全化策を求めるとされ、そのハードルは極めて高い。こうしたなか、先月末にはソブリン債の利払い遅延を受けて、主要格付機関のスタンダード・アンド・プアーズ・グローバル・レーティング(S&Pグローバル)は同国の外貨建長期信用格付をSD(選択的デフォルト)としており、デフォルト(債務不履行)はいよいよ避けられない状況になっている。そして、今月に入って以降も大統領の辞任を求める平和裏に反政府デモやストライキが続くなか、一部が行動を劇化させるなかで政府は2度目となる全土への非常事態宣言や外出禁止令の発動に動き、強権的な取り締まりにより市民生活に支障が出るとともに多数の死傷者が出る事態に発展している。その後、9日にマヒンダ首相は経済混乱の責任を取る形で首相辞任を発表したほか、挙国一致内閣の発足に向けて閣僚が総退陣する動きをみせているものの、上述のように政局が混乱するなかで事態収拾が進むかは見通しが立たない。こうしているうちにも外貨準備は一段と減少しており、生活必需品の輸入も困難になる状況が続いており、政治のみならず経済についてもその行方は見通せない状況にあると判断出来る。
注1 4月4日付レポート「スリランカ、経済危機を巡る暴動を受けて全土に非常事態宣言を発令」
注2 4月11日付レポート「スリランカ中銀、大幅利上げ実施も、物価も景気も見通し立たず」
注3 4月20日付レポート「スリランカ、IMFが支援検討で「首の皮一枚」も、道のりは依然険しい」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹