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2022.04.11
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スリランカ中銀、大幅利上げ決定も、物価も景気も見通し立たず
~海外からの支援も景気の行方も見通しが立たず、大幅利上げの副作用にも懸念~
西濵 徹
- 要旨
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- スリランカはここ数年の対中接近を背景に中国の「債務の罠」に陥る一方、一昨年来のコロナ禍で主力産業の観光業が深刻な打撃を受けており、経済のファンダメンタルズは急速に悪化している。結果、外貨不足を理由に輸入が困難になるなか、電力不足や生活必需品を中心にインフレが顕在化している。反政府デモの動きも激化するなかで今月初めには非常事態宣言が発令された。政局混乱も影響して通貨ルピー安が進み、インフレ昂進が懸念されるなか、中銀は8日に7%もの大幅利上げを決定した。ただし、海外からの支援も景気の行方も見通せず、大幅利上げの副作用も懸念されるなど、同国経済は見通しが立たない状況にある。
スリランカを巡ってはここ数年、中国への接近を追い風に中国からの支援による巨額のインフラ投資を実施する一方、稼働率の低さなどを理由に債務返済が困難になり、結果的に中国が長期に亘る租借権を得る一方、財政状況の悪化に歯止めが掛からないなど、いわゆる中国の『債務の罠』に陥る状況となってきた。さらに、同国経済は観光産業を主力産業としており、一昨年来のコロナ禍による深刻な景気減速に見舞われるとともに、外貨の獲得手段を失うなど対外収支も急速に悪化している。こうしたことから、一昨年以降は外貨準備高が急減しており、3月末時点における外貨準備高(流動部分)は17.24億ドルと過去1年の月平均輸入額の1ヶ月分を下回るなど、対外債務の支払いのみならず輸入決済も困難になる事態に直面している。昨年来の世界経済の回復を追い風に国際商品市況は底入れしてきたほか、足下ではウクライナ情勢の悪化も理由に商品市況は上振れしており、鉱物資源のみならず、肥料や穀物などを輸入に依存する同国においては、幅広い財の輸入が困難になっている。さらに、国際金融市場では国際商品市況の上振れによる全世界的なインフレ懸念を受けて、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀を中心にタカ派への傾斜を強めており、同国のように経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が脆弱な新興国では資金流出による通貨安圧力が強まっている。結果、通貨ルピー安による輸入インフレ圧力が掛かりやすいなか、原油や石炭の輸入が困難になるなかで電力不足が深刻化して計画停電が実施されており、生活必需品も需給ひっ迫を理由にインフレも昂進するなど、市民生活への甚大な悪影響が顕在化している。こうしたことから、最大都市コロンボを中心にゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の辞任を求める抗議運動が活発化したほか、先月末には一部が暴徒化したほか、大統領の私邸周辺に集結して治安部隊が鎮圧に乗り出す事態となり、政府は今月1日に全土に非常事態宣言を発令し、翌2日には夜間外出禁止令の発令に動いた(注1)。その後、大統領は兄のマヒンダ首相を除く閣僚辞任により与野党結集による挙国一致内閣の樹立を目指す姿勢をみせたものの、野党はこれを拒否するとともに、与党連合から大量の離反者が出て少数与党に転じるなど、政局の混乱が長期化する可能性が高まっている。なお、政府はIMF(国際通貨基金)からの支援受け入れに向けた準備を進めているものの、交渉窓口である財務相は閣僚辞任を経て今月4日に大統領の弟(バシル氏)からアリ・サブリ氏に交代するも、同氏は就任翌日の5日に辞任を表明するなどドタバタ劇も表面化した(注2)。その後にサブリ氏は辞任を撤回するとともに、IMFのみならず、世界銀行やADB(アジア開発銀行)などの国際金融機関、インドや中国、米国、英国、中東諸国などにも支援要請を行う方針を示す考えをみせており、今後はその行方が注目される。他方、上述のようにウクライナ情勢の悪化を受けた国際商品市況の上振れや同国内での需給ひっ迫、通貨ルピー安による輸入インフレの動きも重なり足下のインフレ率は加速感を強めるなか、中銀は7日にナンダラル・ウィラシンハ新総裁が就任するとともに、翌8日に緊急会合を開催して政策金利を7%引き上げる決定を行い、スタンディング・デポジット・ファシリティ金利(SDFR)は13.50%、スタンディング・レンディング・ファシリティ金利(SLFR)は14.50%となるなど2倍に引き上げられた。ただし、足下のインフレ昂進は供給要因に起因するところが大きく、支援要請の動きや主力の観光産業の回復も見通しが立たないなど経済のファンダメンタルズの行方も不透明ななか、通貨ルピー相場は上値の重い展開が続いており、急激な利上げ実施による副作用も懸念されるなど、同国経済の先行きは厳しい展開が続くことが避けられそうにない。
注1 4月4日付レポート「スリランカ、経済危機を巡る暴動を受けて全土に非常事態宣言を発令」
注2 4月7日付レポート「スリランカ、ウクライナ問題が駄目を押してデフォルト不可避の状況に」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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