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ロシア・デフォルト包囲網が狭まる

~ロシア国債の支払い受け取り時の米国の特例が失効~

田中 理

要旨
  • 米財務省は25日、制裁開始後も特例として認めてきたロシア国債の支払い受け取りを禁止する。既に格付け会社がロシア国債を格付け対象から除外しており、CDSの支払い条件に該当する信用事由が発生したかの判断が、デフォルト発生が確定するタイミングとなろう。ロシアのデフォルト観測が高まってから既に数ヶ月が経過し、ロシア国債を保有する欧米の金融機関は必要な対応を済ませているものと考えられる。今後、ロシア国債のデフォルトが確定した場合も、巨額の損失発生などで金融市場に動揺が広がる恐れは限定的とみられる。

欧米によるロシア制裁開始後も国債のデフォルトを回避してきたロシアだが、その包囲網がいよいよ狭まってきた。米国の個人や金融機関はこれまで、制裁開始後も特例として、ロシア国債の元利払いを受け取ることが認められてきた。だが、ニューヨーク時間の午前0時1分(日本時間の25日午後1時1分)にこの特例を認めた免許が失効し、その後はロシア国債の元利払いを受け取ることが禁止される。ロシアは免許失効を前に27日に期限を迎える国債の元利払いを米国の仲介銀行に振り込んだとの報道もあるが、来月以降、米国のロシア国債保有者への支払いは困難となる。今回の措置は米国の個人や金融機関が対象なため、米国以外の債券保有者への支払い継続は可能とみられる。その場合も返済条件と異なるルーブル建てで支払えば、猶予期間を経過した後にデフォルトと認定される可能性が高い。

1国がデフォルトしたかを判断するには様々な方法があるが、①債権国自らが返済不能を宣言する、②格付け会社が国債の信用格付けをデフォルトに変更する、③国際スワップデリバティブ協会(ISDA)のクレジットデリバティブ決定委員会が、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の支払い義務が発生する信用事由(クレジットイベント)に相当すると判断する―3つが一般的だ。今回の場合、ロシアには少なくともルーブル建てでの返済意思があり、自ら①の返済不能を宣言することはないと考えられる。欧米による制裁協力の一環で、大手格付け会社はロシア国債を格付け対象から除外しており、猶予期間を経過した後も、②の格付け変更が行われない可能性がある。したがって、③の信用事由の決定がデフォルト発生が確定するタイミングとなるだろう。なお、ウクライナ進攻後にロシア関連債券の信用事由の決定事例としては、3月14日に返済期限を迎えた国営鉄道会社・ロシア鉄道の社債に対して、猶予期間の10日経過後も支払いを履行しなかったとして、決定委員会が4月11日に信用事由を決定した。今後、ロシアが米国の債権者向けに返済を履行できない場合、ロシアは債務の返済義務を履行したが、米国の制裁で支払いが妨げられたとして、法的手段に訴える可能性がある。法廷闘争に発展した場合、最終的にデフォルトが確定するまでに長い時間を要する。

ロシアのデフォルト観測が高まってから既に数ヶ月が経過し、ロシア国債を保有する欧米の金融機関は必要な損失計上や引き当てを積むなどの対応を済ませているものと考えられる。ルーブル建ての支払いを受け入れる第三国の投資家に額面よりも低い価格で売却した可能性もある。また、ロシアは既に欧米の資本市場から締め出されており、デフォルトが確定した場合も、そうした状況がさらに悪化する訳ではない。ただ、投資家の信頼を損ね、戦争終結後や制裁解除後も長期間にわたって、欧米での国債発行が難しくなる恐れがある。何れにせよ、今後、ロシア国債のデフォルトが確定した場合も、巨額の損失発生などで金融市場に動揺が広がる恐れは限定的とみられる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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