- US Trends
-
2026.02.24
米国経済
貿易・国際収支
世界経済全般
米国経済全般
トランプ政権
トランプ関税
最高裁がトランプ関税に違憲判決
~還付の行方は不透明~
前田 和馬
2月20日、米連邦最高裁はトランプ政権による国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置を違憲と判断した。本稿ではこれを巡る主要な論点をQ&A形式で概観する
Q. 判決の概要は?
A. IEEPAに基づき、トランプ政権は2025年2月に違法薬物対策としてのフェンタニル関税(中国・カナダ・メキシコが対象)、4月に世界各国に対する相互関税を発動した。これに対して、複数の中小企業と民主党系の州政府は同関税が違法との訴訟を起こし、一審・二審で政権側に勝訴していた。連邦最高裁はIEEPAが規定する「輸入制限」に関税は含まれず、関税を含む課税権限は議会にあることを指摘、IEEPA関税を違憲と判断した。2025年11月の口頭弁論と同様、(保守派寄りの)ロバーツ長官、3人のリベラル派判事のほか、トランプ氏に指名された保守派判事の2人が違憲との多数意見を構成した。一方、残りの保守派判事3人はIEEPA関税の妥当性を指摘し多数意見に反対した(判決は6対3)。
Q. トランプ政権の対応は?
A. 2月20日の大統領令にて、IEEPAに基づく一連の関税措置を速やかに終了するとし、24日には関税徴収を終了した。これと同時に、トランプ大統領は2月24日から10%の輸入課徴金を課す大統領令に署名した。また、その後自身のSNSにて同関税率を15%に引き上げると述べたものの、23日時点でこれに関連する大統領令は公表されていない。
こうした代替的な関税措置は通商法122条に基づくものだ。同法では巨額の経常赤字に対処するため、150日間に限り最大15%の関税を課す権限を大統領に与えている。なお、当初の関税率が10%に設定されたのは、英国や豪州などの相互関税率に合わせたものとみられ、各国に対する関税率を15%に設定する場合、これらの国々(米国の貿易黒字国)の関税率は判決以前より引き上がることとなる。また、相互関税と同様、同措置では自動車や鉄鋼等の232条関税の対象品目、エネルギーや重要鉱物、USMCAに準拠するカナダとメキシコからの輸入品などが除外される。
一方、日本や欧州などは対米合意において、相互関税率は既存関税との合計で15%が上限となっている。しかし、20日時点の大統領令ではこうした記載はみられないため、既存の関税率に15%関税がそのまま上乗せされる懸念が残る。
Q. 122条関税の発動から150日経ったらどうなるか?
A. トランプ政権は122条関税をあくまで一時的な措置としており、最終的には不公正な貿易措置に対処する通商法301条を根拠に、IEEPA使用時の関税率を目指す可能性がある。同法による関税率に上限はないものの、発動には個別の貿易相手国・地域ごとに調査が必要とみられ、こうした調査が150日間以内に完了するかは不透明だ。なお、301条関税を巡って、米国は対中関税を2018年以降に課しているほか、2025年7月にはブラジルを調査対象としており、こうした行動は一部の調査を短縮することに繋がるだろう。
150日後の7月24日において、多くの国に対する301条関税の発動が困難である場合、トランプ政権は「新たな非常事態を宣言し、122条を再び発動する」或いは「品目別関税のための通商拡大法232条やスムート・ホーリー法338条など、別の関税措置を用いる」ことを通じて、高関税を維持する可能性がある。ただ、こうした措置が採られる場合、その一部は再び法廷でその妥当性が争われるだろう。なお、122条関税は議会承認を経れば延長が可能であるものの、上院のフィリバスター(議事妨害)を回避するには民主党議員の賛成を含む60票が必要となる可能性があるため、延長を実現するのは難しいように思える。
また、11月の中間選挙への対策として、トランプ政権が関税引き下げを通じたインフレ対策に踏み切る可能性はある。ただし、関税策の緩和は関税率の部分的な引き下げや除外品目の拡大などで実施するとみられ、国・地域別の関税措置を完全に撤廃するかには不透明感が残る。
Q. 実効関税率及び米国経済への影響は?
A. (判決以前の)2月20日時点における米国の実効関税率は12.8%だった(2024年実績の2.4%と比べると+10.4%pt)。一連のIEEPA関税が撤廃され、各国・各地域に15%関税が課される場合、実効関税率は11.0%と従来より1.8%pt低下する。高関税はインフレ率を押し上げ、経済成長率を抑制するとみられるものの、従来と比較すると、こうした関税率の低下はインフレの押し上げ効果を0.2%pt、GDPへの負の影響を0.1%ptそれぞれ緩和する。また、国別にみると、10%関税を課されていた英国や豪州などは関税率が上昇する一方、中国(フェンタニル関税10%+相互関税10%→122条関税15%)やカナダ、ベトナムなどは関税率が下がるだろう。
Q. 徴収した関税の取り扱いは?
A. 今回の判決において、最高裁は徴収済み関税の取り扱いにほぼ言及しなかった。下級審である国際貿易裁判所が具体的な還付方法を決めるとみられるものの、その対象範囲や還付の時期は依然不透明だ。IEEPAに基づく関税収入は2025年の合計で1,500億ドル程度に達するとみられる。なお、トランプ大統領は還付を巡り今後5年は法廷で争う姿勢を示しているほか、ベッセント財務長官は「下級審が決めること」と述べるなど、トランプ政権が還付手続きを円滑に受け入れるかは不透明だ。ちなみに、1998年の港湾維持税の違憲判決では還付手続きに1~2年を要したとみられており、還付の完了は短期間で実現しない可能性が高い。
Q. 日本を含めた各国の関税合意の行方は?
A. トランプ関税の一部が違憲になろうとも、多くの国が貿易合意を明示的に破棄する可能性は低い。米国は301条による相互関税率の復活、或いは232条による自動車関税等の強化など、代替的な関税ツールで各国に対する圧力を維持することができる。ただ、IEEPAと比べると、発動時期などの制約で米国にとっての利便性が落ちるとみられるため、貿易相手国が合意内容を忠実に履行するインセンティブは低下するかもしれない。なお、判決後の23日、EUは状況が流動的であるため、対米関税合意の議会承認プロセスを停止している。
以上
前田 和馬