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ECBの後継総裁レースが始まる

~副総裁ポストはクロアチアに~

田中 理

要旨
  • 5月末で退任するECBのデギンドス副総裁の後任に、クロアチア中銀のブイチッチ総裁が任命される。ECB役員会の国別配分を考えると、来年10月末に退任するラガルド総裁の後任には、ドイツ出身のシュナーベル理事やドイツ連銀のナーゲル総裁、オランダ中銀のクノット前総裁、スペイン中銀のエスクリバ総裁、ポルトガル中銀のセンテノ前総裁などが有力候補となりそうだ。利上げ局面でのECBの後継総裁がタカ派となるか、ハト派になるかに注目が集まる。

ユーロ圏の財務相会合(ユーログループ)は19日、5月末に任期満了で退任する欧州中央銀行(ECB)のデギンドス副総裁の後任として、クロアチア中銀のブイチッチ総裁を推薦することで合意した(図表1)。ポルトガル中銀のセンテノ前総裁、ラトビア中銀のカザークス総裁、エストニア中銀のミュラー総裁、フィンランド中銀のレーン総裁、リトアニアのシャジュス前首相代行も候補だったが、ブイチッチ氏がレーン氏との最終投票を制したとされる。今後、欧州議会およびECB理事会への意見聴取を経た後(両機関は候補者選定の拒否権を持たない)、各国の首脳で構成される欧州理事会が通常の特定多数決よりも厳しい条件(国数で72%以上、人口構成比で65%以上の国の賛成)に基づいて選任し、最終的に任命する。EUの東方拡大が進むなか、ブイチッチ氏は東欧出身としては初のECBの役員会メンバーとなる。

図表
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デギンドス副総裁の後任人事は、2027年10月末に任期満了で退任するラガルド総裁の後任人事を占ううえで注目される。総裁・副総裁と4名の理事で構成されるECBの役員会メンバーは、出身国が偏らないように国別バランスに配慮して決まる。過去四代の総裁は、オランダ、フランス、イタリア、フランスの出身者が就いたため、次の総裁がフランス出身者となることは流石にないだろう。これまで、ドイツ、フランス、イタリアが役員会のポストを失ったことはなく、スペインやオランダも多くの場合、ポストを得てきた。デギンドス副総裁に続き、来年の5月末にはマクロ経済担当のチーフエコノミストとして金融政策を提案する立場にあるアイルランド出身のレーン理事、10月末にラガルド総裁、12月末にはドイツ出身のシュナーベル理事の任期が終了する。過去の国別配分を踏襲すれば、クロアチアが副総裁ポストを手に入れる場合、ドイツ、オランダ、スペイン、ポルトガル辺りが総裁ポストを争うことになりそうだ(図表2)。

図表
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域内最大の経済国で、“物価の番人”を自負するドイツ連銀はECB創設時のモデルになった。東西ドイツ統一と引き換えにドイツマルクを諦めたドイツにとって、ECBの総裁ポストを手に入れることは、ユーロ圏誕生以来の悲願と言える。ドイツ出身のシュナーベル理事は総裁就任に意欲を見せるが、現職の役員会メンバーが総裁に就任するには法的なハードルもある。二代目総裁の選出時に当時のノワイエ副総裁、四代目総裁の選出時に当時のクーレ理事の総裁就任の可能性が検討されたが、当時の司法判断は現職メンバーの横滑り人事を認めなかった。ラガルド総裁はこの点について先月の理事会後の記者会見で、「何が可能で何が不可能か、その条件を確かめるためにも、この問題を改めて検討する必要がある」と述べた。

ドイツの中銀関係者は伝統的にタカ派が多いが、ドイツ連銀のナーゲル総裁は最近、タカ派色がやや薄まってきた。ドイツの財政転換を支持し、防衛費拡大に向けた共通予算の作成にも理解を示している。タカ派総裁誕生を警戒する国からの反発を抑える狙いがあるのかもしれない。オランダ中銀のクノット前総裁も有力候補として頻繁に名前が上がるが、その場合、オランダ出身のエルダーソン理事が前倒しで退任し、同氏の総裁就任に道を拓く可能性がある。

副総裁に就任する見込みのブイチッチ氏は理事会内でタカ派寄りに位置する(図表3)。退任するデギンドス総裁はハト派寄りで、ドイツやオランダ出身の総裁が誕生すれば、ECB高官のタカ派傾斜が進むことになる。過度なタカ派シフトを警戒する場合、スペイン出身のハト派寄りの総裁が誕生する可能性も出てくる。スペイン中銀のエスクリバ総裁は、同国の元デジタル変革相だが、ECBでの勤務経験もある元中銀マンでもある。イベリア半島のスペインとポルトガルをセットとみなす場合(ドラギ総裁時代にスペインが役員会のポストを失っていた時期は、ポルトガルが副総裁ポストを得ていた)、副総裁候補にも名前が上がったポルトガル中銀のセンテノ前総裁は、同国の財務相としてユーログループの議長を歴任するなど、国際舞台での経験も申し分ない。ジェンダーバランスを重視する場合、スペイン出身のカルビーニョ欧州投資銀行総裁や、ポルトガルの元財務相・国庫担当相を務めたアルブケルケ欧州委員なども有力候補となろう。

図表
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昨年6月の利下げを最後に、政策金利を据え置いているECBは、利下げ再開の余地を残しながらも、景気回復の持続性や物価安定の達成に自信を深めつつある。ここにきて、グリーンランドの取得を巡って、米国が欧州8ヶ国への関税引き上げを示唆し、欧州側も報復措置の発動を検討するなど、新たな不安要素も浮上している。報復の応酬となれば、景気下振れと物価上振れのリスクが高まり、ECBの政策判断にも影響しかねない。逆に両者が何らかの形の妥協点を見出し、事態のエスカレートが回避されるのであれば、ドイツの歴史的な財政政策転換と欧州各国の防衛費拡大に支えられた景気回復が続くことになろう。その場合、ECBの次の一手は利上げとなり、ECBの利上げ局面と総裁交代の時期が重なる可能性が高い。次の総裁や理事の布陣がどうなるかは、利上げ開始のタイミングやその後の利上げペースを考えるうえでも注目を集めそうだ。

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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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