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- 米国:雇用なき成長の背景
- 要旨
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米国において、GDPと雇用者数の伸びが乖離している。GDPが2%台前半の堅調な拡大を続ける一方、雇用者数は移民流入の減速を背景にほぼゼロ成長へと近づいている。
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2つの統計が共に正しい場合、これは労働生産性が上昇していることを意味する。供給要因に起因するのであれば、過去の資本蓄積が一人当たりの生産性を高めているのかもしれない。また、単に需要が強い結果として、見かけ上の生産性が上昇している可能性が考えられる。
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加えて、どちらかの統計が現時点で不正確な可能性がある。過去の景気後退局面では雇用者数の方が正確な傾向にあり、足下で移民の流入減が雇用の伸びを抑制しているのは確かそうだ。一方、ITバブル時のGDP統計は設備投資を中心に景気を過大評価しており、今回もそうした懸念は残る。
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足下の米国経済は堅調に推移している(図表1)。トランプ政権が2025年4月に相互関税を発表した際には景気後退懸念が急上昇したものの、その後はインフレへの影響が穏やかだったこともあり、個人消費は富裕層を中心に堅調に推移した。また、設備投資に関してもAI関連を中心に拡大が続いている。2月10日時点におけるアトランタ連銀のGDPナウキャストに基づくと、25年10~12月期の実質GDP成長率(2月20日公表)は前期比年率+3.7%(4~6月期:+4.4%)と、同四半期における政府閉鎖の下押しにもかかわらず、潜在成長率である2%前後を大幅に上回る伸びが見込まれる。

一方、雇用の増加ペースは緩慢だ。1月雇用統計における非農業部門雇用者数は前月比+13.0万人(12月:+4.8万人)と市場予想(+6.5万人)を上回ったものの、前年比での増加率は+0.2%とゼロ成長へ接近している。こうした雇用者数の伸びの鈍化を巡っては、トランプ政権による不法移民等の取締りの影響が指摘できる。例えば、米議会予算局(CBO)は2026年1月の試算において、2025年における移民の純流入が+41万人(24年:+227万人)と前年から大幅に減速したと推計する。
GDPと雇用が乖離する要因として、①少ない労働力にて供給力を拡大できるような「労働生産性の上昇」、②単に需要が強い結果としての表面上の「生産性上昇」、③どちらかの統計が実態を表していない、以上の3つの可能性が考えられる。本稿ではこれら3つの要因を検証する。
① 供給要因に基づく労働生産性の上昇
米国における時間当たりの労働生産性は高い伸びを示している(図表2)。コロナ以降の労働生産性は、パンデミック時の2020年から21年前半に産業構成の変化で大幅に上昇した一方(相対的に生産性の低い個人サービス業のGDPシェアが低下)、経済が回復期にあった2021~22年にはその反動で急低下するなど、大幅な変動がみられた。その後2023年以降は2010年代平均(+1.2%)を大幅に上回るなど、幅広い業種で労働生産性の改善が続いている。

こうした生産性改善の背景として、例えばDao and Platzer (2024)は旺盛な転職動向が効率的な人員配置をもたらし、労働生産性を向上させたと指摘する。同論文は2020~23年の生産性上昇の8割以上を転職活動の活性化(labor churn)で説明できると主張する。加えて、テレワークの普及や無人レジ導入などの自動化も生産性を押し上げている可能性が高い。労働生産性は2017~19年において既に回復傾向にあったほか、コロナ後には大幅に上昇している。こうした動きは2015年以降の資本装備率(労働者一人当たりの実質設備投資残高)の上昇トレンドとも整合的である(図表3)。なお、生成AIによる生産性への影響を巡っては、確かに新技術の恩恵を受けやすい情報業では生産性の加速がみられるものの、現時点において、幅広い業種で両者に明確な関係がみられるわけではない。例えば、ビジネスにおけるAI利用率の高い専門・技術サービスに生産性の加速はみられない一方、AI利用率が低い製造業や小売業では生産性の改善がみられる(図表4;注1)。

② AI投資や富裕層消費に基づく需要拡大
労働生産性の長期トレンドは供給要因に依存する一方、短期的なトレンドは需要の強さや労働市場の動向にも左右されると考えられる。例えば、景気後退期には積極的な解雇が実施される、或いは収益性の低い企業等が退出することを通じて、見かけ上の労働生産性は上昇しやすくなる。このため、足下における労働生産性の上昇も「単に需要が強い結果」に過ぎないかもしれない。
現在の米国経済のけん引役は富裕層消費とAI関連投資の二つだ。前者に関して、米国では所得上位20%の消費シェアが全体の4割弱に達しており、こうした高所得世帯の純資産はコロナ以前の2019年10~12月期から25年7~9月期にかけて6割強も増加している(図表5)。株高を背景とした資産効果はレジャーや娯楽財の消費をけん引しているとみられる。後者のAI関連投資を巡っては、PCやサーバーなどの情報処理機器やソフトウェアへの支出のほか、AI需要に対応するためのデータセンター投資などが活発だ(図表6)。2025年7~9月期におけるIT関連投資(情報処理機器とソフトウェア)のGDP比は4.5%と、ITバブル時のピーク(2000年10~12月期:4.5%)に匹敵する水準に達している。
一方、こうした堅調な実体経済の動向とは対照的に、雇用の伸び鈍化は単に労働供給、具体的には移民流入の減少や労働参加率の低下等の影響を受けているとの分析がある(Cascaldi-Garcia and Morales-Jiménez (2026))。つまり、需要の強さとは無関係に雇用者数が伸びにくくなっているため、表面上の生産性が押し上げられている可能性がある。

③ 不正確なGDP統計
堅調なGDPと軟調な雇用の乖離を説明するもう一つの可能性は、どちらかの統計が「現時点では不正確」ということだ。GDP統計と雇用統計ともに、一次速報公表後数か月内の改定に加えて、年次改定などで過去数年分の実績値が改定される。これは税務データ等のより正確性の高い基礎統計を反映するためであり、改定後の数値はより経済実態に即した結果となる。
過去3回の景気後退局面において、その予兆を速報時点で正確に捉えていたのはGDP統計よりも雇用者数の動向である。例えば2001年のITバブル崩壊と2008年のリーマンショックにおいて、GDP速報は過大評価の傾向があった一方、雇用者数の改定幅は相対的に限定された(図表7)。特にITバブル真っ只中の2000年は、GDP成長率の加速が速報時点では示されていたものの、2001年7月と02年7月の年次改定における下方修正でこうした加速は幻となった(図表7・左上の赤丸)。こうした下方修正の主因は個人消費とソフトウェアであり、実際に2000年における機械機器・ソフトウェア投資の成長率への寄与度は2回の改定(センサス局による年次サービス調査[SAS]等を反映)で+1.33%pt→+1.06%pt→+0.78%ptと4割近くも縮小している。
足下の堅調なGDPを巡って、こうした推計上の問題があるのかは現時点では定かではない。また、仮にGDP統計が今後下方修正されるとしても、それが人口動態(移民の流入減)に応じた成長減速の範囲であれば、必ずしも景気後退を意味するわけではない。とはいえ、労働生産性の動向は上記3つの複合的な要因で改善している可能性があり、その多くをIT投資や生成AIによる生産性革命と結論付けるのは時期尚早な印象を抱く。

【注釈】
- 約300件の公開導入事例を分析したChallapally et al.(2025)では、生成AIによるパイロットプロジェクトの95%は有意な収益力の改善効果をもたらさず、その効果は個人の生産性向上に留まっている可能性を指摘する。
【参考文献】
Cascaldi-Garcia, Danilo and Camilo Morales-Jiménez (2026), “Model Perspectives on Supply and Demand Factors behind a Soft Labor Market,” FEDS Notes. Washington: Board of Governors of the Federal Reserve System, January 30, 2026. (2026-2-17参照)
Challapally, Aditya, Chris Pease, Ramesh Raskar, and Pradyumna Chari (2025), "The GenAI Divide: State of AI in Business 2025," MIT NANDA Report, July.
Dao, Mai and Josef Platzer (2024) “Post-pandemic Productivity Dynamics in the United States,”IMF Working Paper No. 2024/124. (2026-2-17参照)
前田 和馬
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