巨大化するネット消費市場(上編)

~市場規模はスーパー・百貨店の合計を抜く~

熊野 英生

要旨

2021年前半に、ネット消費市場は前年比18.4%も高成長したとみられる。ネット消費の市場規模を推計すると、2021年前半のスーパー・百貨店の販売額の合計を抜くまでに巨大化している。国民の9割近くがネットを利用している中で、今後もまだまだネット消費市場は成長を続けると予想される。

目次

巣籠もりの追い風

コロナ禍で急成長した分野には、ネット消費=ネットショッピング市場がある。この分野は、BtoCの電子商取引(EC)と呼ぶこともある。人々が外出自粛を行って、対面取引をネットシフトさせていることが、ネット消費が急拡大している背景にはある。総務省「家計消費状況調査」(全世帯)では、1世帯平均のネット消費額は月平均17,436円(2021年1~6月)で、伸び率は前年比18.4%で成長している(図表1)。ネット消費をした世帯の割合は、51.9~52.7%(同)まで高まっている。この利用世帯の割合が上昇する要因は、前年比18.4%のうち約7割を説明している。一方、ネット消費を利用している世帯に限った1世帯当たりの月平均消費額33,415円(前年31,786円)から、前年比5.1%増である。こちらは、前年比18.4%のうち約3割の要因を説明している。だから、ネット消費の市場拡大は、新しくネット消費を始めるユーザーを取り込むことにより、市場の成長が支えられていることがわかる。PCやスマホでネット利用している世帯割合は、個人で89.9%(2019年、総務省「情報通信白書」)だから、今後は世帯の中でネット消費を開始する世帯割合がまだまだ高まっていく余地は大きいと考えられる。

図表
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市場規模の拡大

日本全体のネット消費の市場規模はどのくらいだろうか。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」では2020年19.28兆円としている。直近で、これが家計消費状況調査と同程度(前年比18.4%)で成長していると仮定すれば、2021年前半は22.83兆円(年間換算)の市場規模になっていると試算できる(図表2)。さらに、ネットの物販額をすべての物販額(モノ消費)で割ったEC比率を求めると、経済産業省の調査では2019年6.76%、2020年8.08%となっている。筆者の試算では、2021年前半はそれが9.74%まで高まったとみている。

図表
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ネット消費の規模感は、業態別の販売額と比較すると、その大きさがよくわかる(図表3)。商業動態統計のカテゴリーでは、スーパーマーケットが最大で、その販売額は2020年14.8兆円を誇っている。それに百貨店(4.7兆円)を加えたスーパー・百貨店の販売額のカテゴリー19.5兆円は、2020年時点ではネット消費(19.3兆円)を上回っていたが、2021年になると逆転を許したとみられる(2021年前半のスーパー・百貨店の販売額増加率は1.6%)。

図表
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デジタル化の範囲

注意しておきたいのは、ネット消費の範囲の問題である。筆者は経済産業省のデータに基づいてネット消費の市場規模を計算しているが、より厳密に何がネット消費であり、どこまでを市場規模なのかを考えると、経済産業省のデータに問題があることに気付く。

経済産業省の調査は、ネットで予約した旅行・飲食店利用、理美容サービスを「サービス系分野」のEC取引と区分している。これらは、サービスにアクセスするまでの連絡手段にネットを使ったに過ぎない。これをEC取引と呼ぶことは可能かもしれないが、人によっては「電話予約をネット注文に替えただけではデジタル化したとは言えない」と考える人もいるだろう。今後、企業のデジタル化が進むとき、どこまでをデジタル化と呼ぶかはきっと議論されることになるだろう。

筆者が念頭に置くのは、事業のデジタル転換=DX(デジタル・トランスフォーメーション)である。事業のプラットフォームをネット内に移して、生産性を高めるという活動である。電話予約を単にネット予約に替えただけで、サービス提供のプラットフォームはそのままの事業を継続しているだけでは、さほど生産性は上がらない。事業のデジタル転換ではない。思考実験として、ネット予約の増加によって、対面サービスの量を増やして売上・収益の向上に寄与するかというと、そうした影響は生じないと考えられる。

反対のケースを考えると、ネットの通販サイトで洋服の売上が増えているとき、別のどこかでは実店舗での売上は販売機会を失っている。しかし、通販サイトの魅力・利便性は、洋服の需要を掘り起こし、小売事業の利益を高めている。これは競争によって、生産力が高まる典型的なプロセスである。消費者は、ネット消費の利点を評価して、洋服をネットで買いたいと感じている。需要は、供給サイドのデジタル化=転換(トランスフォーメーション、DX)に反応して増加したと理解できる。「物販系分野」のEC取引は、そうした事業プラットフォームの改革を反映したものが多い。

実は、コロナ禍で起こっているデジタル転換が新しいのは、サービス消費の世界だとみられている。かつてないビジネスモデルが登場し、既存の業界を席巻している。例えば、最近のフードデリバリーの増加はデジタル転換である。これは、ネットで来店予約するのとは異なり、その利便性ゆえに新しい顧客を開拓している。

経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」では、2020年からフードデリバリーの区分が設けられて、その市場規模が3,487億円とされた。おそらく、サービス分野でのデジタル転換の事例には、オンライン学習や遠隔診療があるはずだ。しかし、経済産業省の調査では、それに対応する区分はないので、まだ統計の中にそうした転換の変化は反映されないだろう。筆者は、どうすればサービスの新しいデジタル転換の動きを統計データの中に取り込めるのかについて関心がある。

成長分野は出前とデジタル・コンテンツ

コロナ禍でのネット消費はどういった分野が高成長しているのだろうか。「家計消費状況調査」の2021年1~6月の前年比でみると、伸び率の上位に挙がっているのは、①出前(前年比54.5%)、②電子書籍(同52.9%)、③ダウンロード版の音楽・映像、アプリなど(同51.5%)、④チケット(同43.7%)、⑤飲料(同42.5%)、⑥食料品(同38.5%)である。

出前=フードデリバリーは新しい分野として高成長していることは説明を要しないと思う。電子書籍は、物販である本の販売市場を食いながら成長しているデジタル・コンテンツである。経済産業省の調べでは、書籍・映像・音楽ソフトのカテゴリーはEC化率が43.0%(2020年)と物販の中で最も高い(図表3)。コロナ禍では、消費傾向を表す言葉として「巣籠もり消費」という言葉が使われた。そこでは、本・電子書籍や映像・音楽配信の支出が増えた。

図表
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ほかには、⑤飲料、⑥食料品がある。「食品、飲料、酒類」のEC化率はは3.31%(2020年)と低い。実は、食品販売市場では、スーパーの競争力が圧倒的に強く、従来はネット系の販売はそれほど強みを感じさせてこなかった。しかし、それがコロナ禍で少し変わってきたとされる。対面で買い物を避けたい消費者が、食料品などでもネット取引を始める変化が起こったからだ。従来の利用は、飲料、酒類、お米など物理的な重さが敬遠されて、宅配サービスを受けたい人がネットの利用者だった。それが生鮮食品にまで広がりつつあると言われる。コロナ禍でネット・スーパーの登場はよく話題になっている。

オンライン・ゲーム

コロナ禍では、自宅に籠もってゲームに長い時間を費やした人は多いはずだ。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」では、デジタル系分野の中に、オンライン・ゲームがある。その市場規模は2020年14,957億円と巨大だ。物販の内訳などを上位から並べて7位になる。ネットの中でオンライン・ゲームという巨大市場が育っていることは見逃してはいけない変化だと思う。

オンライン・ゲーム市場では、その市場規模もさることながら、ユーザーの多さに驚かされる。国内ゲーム市場には愛好者が約5,000万人もいて、そのうち約4,000万人がアプリを使ってゲームを楽しんでいるという。そう考えると、1人当たりの年間支出額を計算すると、3.8万円(2020年)という金額になるが、その金額はそれほど大きくはない。今後は4,000万人がもっと支出を増やして市場規模を増やす可能性もありそうだ。

反面、ゲームを楽しむ人には、ついつい深入りし過ぎてしまう人もいるようだ。オンライン・ゲームの1週間平均利用時間は6.64時間になるという(2020年、出所:ライムライトネットワークス)。生活時間調査を調べると、若年世代はテレビを見ないで、代わりにネット画面を眺めている。そのネット利用の内訳として、長時間のゲーム利用をしている若者もかなりの割合でいる。オンライン・ゲームのヘビーユーザーは、自由時間の活動がついついゲームに食われてしまい、別のことに時間を使うことができなくなっている人も多いという。つまり、ゲームによる時間占有は、その機会損失のコストも大きいということである。

デジタル先進国である中国では、9月1日から18歳未満のオンラインゲームの利用時間を政府が「1日1時間」と決めて、ゲーム依存症を防止するとした。政府が規制に乗り出すほど社会問題化していることにも驚かされる。

ネット内では大きな健康食品市場

ネット消費の中で、隠れた巨大市場になっているのは、健康食品である。ここにはサプリメント(健康保持用接種品)も含まれる。経済産業省の調査では、明示的にネットの健康食品市場が計算されていない。総務省「家計消費状況調査」では、2020年の医薬品・化粧品の消費支出額がそれぞれ2,508円、8,238円に対して、健康食品7,767円とされる。ネット内では、医薬品よりも、健康食品の存在感が大きい。

ネットの健康食品の市場規模は、家計状況調査の支出額から推定すると、2020年5,628億円という計算になる。ネット以外を含めた健康食品市場の規模が14,095億円(2020年度、出所:健食サプリ・ヘルスケアフーズ・レポート2020)だとすれば、市場約4割(39.9%)がネット経由の販売という計算になる。これは化粧品・医薬品のEC化率6.72%(2020年)よりも遙かに高いことになる。市場の4割がネット取引というのは、前掲図表4の分野別EC化率でも上位に位置することになる。

サプリメントのヘビーユーザーは、50歳以上であり、その年齢層ではアンチエイジング指向が強い。半面、消費者の中にはそうしたサプリメントを店頭で他人と顔を合わて買うのは嫌だと感じる人は少なくないだろう。できれば誰にも知られずに、サプリメントを購入したいという意識が働く。だから、そうしたニーズが通販を増やすのだろう。同様のことは、ダイエット食品や肉体改造用サプリメントのニーズにもあるだろう。

また、コロナ禍では、運動不足を訴える人が増えて、健康維持のためのサプリメントが人気になった。ほかにも、免疫強化による感染防止のニーズも高まった。医師などは、こうした効能に懐疑的なコメントをするかもしれないが、消費者のニーズは強いものがある。

しばしば医療分野では、健康保険のサポートが受けられる薬品に消費者ニーズが集中し、保険外のものは敬遠されがちだと思われるが、健康食品市場がネット分野で成長している様子をみると、そうした先入観が必ずしも正しくないと考えられる。健康食品市場がネット経由で成長していることは、健康保険制度と切り離された市場でも高成長が成り立つことの証明になっているところが興味深い。

熊野 英生

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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