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2026.02.13
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マーケット視点で高市大勝をどう読むか?
~投資家から何を望まれているのか~
熊野 英生
- 要旨
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衆院選で高市自民党が圧倒的な勝利を収めた。日経平均株価は、選挙後の2営業日だけで+3,396.86円も上昇した。円安・長期金利上昇はそれほど進んではいない。このマーケットの反応をどう読むのかは、十分に考えなくてはいけない。なぜ、専ら株価上昇だけが進む結果となったのだろうか。
※本稿はロイター通信コラムへの寄稿文に加筆したもの
長期政権化への予想
選挙後の日経平均株価の上昇は物凄かった(図表1)。高市政権までの株価上昇トレンドを大きく上抜けて、ペースアップしていた。海外株価が軟調な時期でも上昇したのは驚きである。

選挙を振り返ると、2月8日の衆議院選挙では、自民党が316議席と圧勝した。しかも、総議席数の3分の2を超えたことで、参議院で否決されても、衆議院で再可決すれば法案を通せる。これは大きい。従来の少数与党を脱して、野党の協力なしに自主的に政策を推進できるところは、大きな評価点である。
また、この自民党大勝の理解は、長期政権による経済安定への期待があると考えられる。長期政権でなければ、実現できない政策は多い。大敗した中道改革連合に対しては、有権者はほとんど期待を示さなかった。一頃、語られていた二大政党制のシナリオは、これで目先消えた。
有権者は、日本が二大政党制になることを健全だとは考えず、むしろ、野党にはなるべく関与させないで、高市首相が自主的に判断して外交・経済政策運営を切り盛りする方が好ましいと判断したのであろう。
野党に足りなかったのはアイデアである。減税一本槍で有権者の気を引こうとしても、中身が薄いとみられるだけで、減税戦略は裏目に出た。むしろ、減税しか言っていない政党などに政策を任せることはできないという厳しい目が向けられたと思う。対する高市首相は、選挙戦のはじめ以外、消費税減税を言わなくなっていた。
野党は、政策の差別化が上手ではなった。このことは、自民党が急遽、食料品の消費税率を2年限定で8%からゼロにする方針を掲げたことで、浮き彫りになる。「野党の主張-減税=何が残るの?」と有権者はみて、野党には独自の主張がほとんどないことを見透かした。有権者が入れたくなる独自の政策が見当たらないというのは、野党の致命的な弱点であった。その「中身の薄さ」によって敗北したと筆者は理解している。
円安と長期金利上昇
さて、なぜ円安と長期金利上昇へとマーケットは動かなかったのだろうか。この部分は、筆者にとって完全な読み違いだった。だから、もう一度よく吟味をしておく必要がある。
為替は、米国側の要因が大きかった。米長期金利が下がって、ドル安・円高の圧力が生じた。それでも、もしも日本のインフレ予想が強まっていれば、ドル高・円安は進んでいたはずだ。しかし、高市首相が今まで表明している以上の積極財政は、具体的に材料がなかった。
一頃、日本の円安・長期金利上昇が進んだときは、潜在的な財政不安もあったと考えられる。これは、日本の国債の信用度を反映して動く、CDSプレミアムの推移をみていればわかることだった(図表2)。確かに、高市政権が発足して、プレミアムは拡大しているものの、衆院選前後には上昇していない。

今後の財政スケジュールをみても、すぐさま財政悪化が予想される訳ではないことがわる。6月に骨太の方針、8月に概算要求、秋頃に2026年度の補正予算、12月に2027年度予算案の予定となるだろう。むしろ、消費税減税について夏頃に向けて議論が進む。ここでは、野党を含めた国民会議が開かれる。今回、野党は著しく力を衰えさせたため、従来に比べて、発言力は格段に小さなものとなるだろう。
焦点は、2年間消費税率8%をゼロにする扱いがどこまで財源面で手当てされるかにある。わかっているのは、年▲5兆円×2年間=▲10兆円の穴が財源には空くことだ。筆者の見方では、過去(3年間)の消費税収の増加ペースを調べたとき、だいたい2年間で5~6%ペースで伸びていた。一般会計だけに限定して考えても、2年間で実額+2.7~+3.3兆円くらいの増収になる。つまり、高市政権がきちんと国民への約束を守って、2年後に税率を8%に戻せれば全体で26.7兆円(2026年度)の税収規模が、30兆円前後にまで増える公算になる。こうなれば、社会保障財源に継続的な穴が開くことにはならない。じっと我慢をして、約束を守れば3年程度での自然増収で財源の穴埋めができることになる。
日銀はどうなる?
日銀は円安リスクに対して何度か利上げすることになるだろう。こちらも今のところ、いずれは利上げをしていくという見方に変わりはない。
選挙期間中(1月31日)に高市首相は、外為特会について「円安でホクホク状態だ」と口をついつい滑らせた。うっかり本音が出たものだと理解できる。しかし、高市首相は、この発言を深く反省して、円安歓迎の意図はなかったと強調した。だから、今後、日銀の政策に過剰に介入してくることも慎むだろう。日銀の側でも、高市首相に忖度することが一時的にはあっても、追加利上げ自体を止めることはないだろう。
おそらく、次なる焦点は、日銀審議委員の人事である。2026年3月31日に野口委員の任期が切れる。6月29日には中川委員の任期切れになる。ここでリフレ色の濃い人物を入れてくれば、金融政策への介入意図が意識されるだろう。日銀にとっては、目先、3月18日に春闘集中回答日があり、3月18・19日が決定会合の日程になる。筆者は、ここで4月会合に向けた利上げのアナウンスをすると読んでいる。今のところは、高市首相が人事介入を行わず、日銀の自由度を尊重すると予想する。
経済界からの要望
おそらく、経済界からの要望は減税ではない。社会保険料負担の軽減でもない。経済的な安定、外交関係の安定、そしてそれを長く続けることである。
高市政権であれば、トランプ政権とあと3年間はしっかりと対峙できる。野党政権には難しいだろう。対中国外交は、誰がやっても難しい。11月の高市発言は軽率だったとしても、今のところレアアース問題などで最悪の事態にはなっていない。
国内的には、原発再稼働によってエネルギーの安定供給が徐々に進んでいる。この点は、自民党に政権を維持してもらう根拠の一つと言える。企業の研究開発支援については、高市政権は熱心である。ここも歓迎できる。
唯一、注文がつくとすれば、外国人労働力の問題であろう。排外主義は、インバウンド戦略を含めて全く日本経済のためにならない。現状、ベトナムからの労働力でさえ、日本が円安になっていることで、徐々に日本を敬遠しつつあると聞いている。もっと門戸を広げて、労働力不足を補える構えを採った方がよい。外国人の不動産取得が、一部地域の不動産価格の高騰を引き起こしている点については規制がもっとあって良い。ただ、それが一部のミニ政党が唱えるような排外主義にまで至ると困った主張になる。この不動産高騰も底流にあるのは、円安によって日本人の購買力が著しく低下しているという現実である。
高市首相は、円安が行き過ぎていて、海外と交易・交流している日本人が円の購買力低下に困惑していることに無関心であるように思う。通貨の安い国には、強い経済は成り立たない。日本と海外の相対関係については、もっと認識を深めてほしいものである。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

