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現役世代の収入と税・社会保険料負担はどれだけ増えたか

~2025年「家計調査」に基づく長期推移と最新動向~

谷口 智明

目次

1. はじめに

本稿では、総務省「家計調査」における「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」の時系列データに基づき、家計における税・社会保険料負担を分析する。拙稿・谷口(2025)に、2025年データを加えることで、分析結果を更新するものである。なお、ここでは、現役世代の家計の平均像として、同世帯の収支データを参照する。

2. 家計の収入額と税・社会保険料の負担額・負担率の推移

(1)実額の推移~社会保険料は逓増

2000年から2025年までの各年の勤め先収入および直接税、間接税(消費税)、社会保険料の負担額の推移を確認する(資料1)。なお、勤め先収入とは世帯員(世帯主やその配偶者等)が勤め先から報酬として受けた収入(≒所得)のことであり、直接税は所得税および住民税等の合計を指す。消費税は消費支出(非課税品目を除く)から税抜きの金額を逆算することで推計した。

図表
図表

まず、収入面である。勤め先収入は、この25年間で約633万円から約713万円へと増加(2000年比で約1.1倍、約79万円増)(注1)したものの、年平均0.5%増と伸びはわずかにとどまった。つまり、いわゆる「失われた30年」と言われるように、名目の給与はほとんど伸びなかったと言っても過言ではない。ただし、近年は物価上昇に伴う賃金引き上げの効果も出始めており、2024年(前年比+4.7%)、2025年(前年比+2.2%)と2年連続で増加している。一方で、伸び率は鈍化しており、賃金上昇の勢いには課題も残る。

次に、支出面である。直接税は、物価高対策として2024年に実施された所得税・住民税減税により減少したが、この減税措置の終了に加え、収入の増加も重なったことで、2025年には増加に転じた。この25年間で見ると、直接税は約48万円から約62万円(2000年比で約1.3倍、約14万円増)となり、年平均1.0%増であった。

消費税は、この間に5%から8%(2014年4月)、さらに8%から10%(食料品は軽減税率8%、2019年10月)へと2度引き上げられた。消費税の負担額は、同期間に約14万円から約30万円へとほぼ倍増し、増加額は直接税を上回る。高市総理は、2026年2月に行われた衆院選後の記者会見で、食料品の消費税を2年間ゼロとする公約について、超党派の「国民会議」で議論し、夏前には中間取りまとめを行いたいとの考えを示した。参考までに、2025年の食料品にかかる消費税額を試算すると、約6.4万円となる。消費税は幅広い商品やサービスに適用されるため、景気の変動に左右されにくい。さらに、基本的な生活必需品や日常的に利用されるサービスにも課税されることから、税率引き上げ後も税収は安定的に推移していることがわかる。なお、社会保障給付費は、主に社会保険料と公費(税や国債)で賄われており、消費税収の大半は社会保障財源に充てることとされている(注2)。

最後に、社会保険料である。同期間では、約58万円から約83万円(2000年比で約1.4倍、約26万円増)となり、年平均1.5%増と伸び率も最も高くなった。収入の伸びがわずかにとどまる中、増加額・増加率とも直接税を大きく上回る。

ちなみに、国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」および厚生労働省「社会保障の給付と負担の現状(2025年度予算ベース)」によると、2000年度から2025年度にかけて、わが国の社会保障給付費(年金・医療・介護等)は、78.4兆円から140.7兆円に膨張しており、それを賄うための社会保険料(被保険者負担)は、29.9兆円から43.5兆円と、約1.5倍に増加している。つまり、社会保障をめぐるマクロ的な動向からも、家計の社会保険料の増加ペースが概ね連動していることがうかがえる。

(2)負担率の推移~足元で変化の兆しも

次に、税・社会保険料の負担率(「勤め先収入」に対する各負担額の割合)の推移を確認し、家計収入における負担の大きさを明らかにする(資料2)。

図表
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2000年から2025年の25年間で、直接税の負担率は、2024年の減税効果の剥落や収入増の影響もあり、7.6%から8.8%と約1.1ポイント増加した。また、消費税の負担率は、2.3%から4.3%と約2ポイント増加した。この間、2度の消費税率の引き上げの都度、負担率が階段状に高まっていることがわかる。

一方で、社会保険料の負担率は、一貫して直接税を上回っており、この間、9.1%から11.7%へと、今回取り上げた項目の中で最も高い約2.6ポイントの増加となった。ただ、近年は高止まりからやや減少傾向を示すなど変化の兆しが見られ、その背景等については次章で考察する。

こうした税と社会保険料を合わせた負担率(合計)は、この25年間で見ると19.0%から24.7%へと上昇し、勤め先収入の4分の1に迫っている。特に社会保険料の負担率が高くなっており、家計の可処分所得(手取り収入)を押し下げる要因の一つになってきたと考えられる。

3. 賃上げと社会保険料負担率の変化~好循環の兆候と今後の課題

前章で確認したように、社会保険料の負担率は、近年わずかに低下しており、変化の兆しも見える。この負担率の低下は、分母・分子の関係から見ると、「(分母)収入の対前年増加率>(分子)社会保険料の同増加率」となっているためだ。実際、2025年の対前年増加率は「収入2.2%増>社会保険料0.8%増」となっており、収入の伸びが社会保険料の伸びを上回っている。

そこで、その背景について整理しておく。社会保険料は、所得に賦課される点では所得税に近い側面もあるが、「給付と負担」の関係に基づいて請求されるという性格を持つ。すなわち、今後見込まれる医療・介護等の社会保障給付に対して財源が不足するのであれば、社会保険料率を引き上げて、給付に見合うだけの社会保険料を確保することになる。これまで収入(所得)がほとんど増えない中で、増加する社会保障給付を賄うためには、保険料率を引き上げなければならなかった。しかし、賃上げや就業者数の増加によって、保険料率を大きく引き上げなくとも、社会保険料収入が増加するといった「賃上げ・雇用増(経済成長)と社会保障の好循環」の兆候が推察される。例えば、健保連が取りまとめる「健保組合決算の集計結果」によれば、2024年度の保険料収入の増加額のうち、およそ5割が賃金上昇による効果、2割弱が被保険者数増加の効果であったという(注3)。また、協会けんぽでは、賃上げによって保険料収入が増加し、財政が安定していることを踏まえ、2026年度の保険料率(全国平均)は前年度比0.1ポイント減の9.9%に引き下げられることとなった。

社会保障をめぐる財源については、「打ち出の小槌」のような都合のよい解決策があるわけではなく、様々な改革を組み合わせ、増え続ける社会保障給付の伸びをいかに抑制していくかが重要だ。政治の舞台では、2026年2月の衆院選において、与野党を問わず、物価高対策として食料品の消費税ゼロや社会保険料の引き下げを公約に掲げる政党が多くみられた。これらの公約を実現するうえでは、代替財源の確保等が論点であり、給付と負担のあり方に加え、成長戦略や労働政策との整合性も含めて多面的に検討する必要がある。今後は、こうした視点も踏まえつつ、社会保障と税の一体改革等について、新設される「国民会議」での議論の行方が注目される。

以 上

【注釈】

  1. 本稿では各値を四捨五入しているため、表示値同士の差が一致しない場合がある。

  2. 谷口智明(2026)「【1分解説】消費税の使い道とは?」参照。消費税は、地方消費税の一部を除き、年金、医療、介護、子ども・子育て支援の「社会保障4経費」に充てることとされている。

  3. 健保連「令和6年度健康保険組合決算(見込み)集計結果(概要)」によれば、保険料収入は、前年度比4,261億円増加。増加要因は、賃金上昇の影響(+2,277億円)、被保険者数増加の影響(+699億円)、保険料率引き上げの影響(+1,069 億円)。つまり、保険料収入の増加のうち、半分超は賃金上昇の効果といえる。

【参考文献】

谷口 智明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。