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日銀審議委員人事の影響、リフレ人脈から

~4月利上げは覆るのか?~

熊野 英生

要旨

国会に提出した資料によって、3月と6月に任期満了の日銀審議委員の後任として、リフレ派から2人を送り込むことが明らかになった。これで、4月の追加利上げは延期されるという観測が出てきた。しかし、それを許すと、かえって円安が進んでしまうから、日銀自身が自縄自縛になると考えられる。4月の利上げは十分にあると予想する。

目次

2人ともリフレ人脈から

政府は、任期満了が予定される2人の日銀審議委員の人事案を国会に提出した。3月31日に任期が来る野口旭委員の後任には、浅田統一郎氏(中央大学名誉教授)、6月29日に任期が来る中川順子氏の後任には、佐藤綾野氏(青山学院大学教授)という人選である。2人とも同じ学会に所属する。今回もそのリフレ人脈からの登用になる。一度に2人もリフレ人脈を送り込んで、金融政策に影響力を及ぼそうという姿勢は、トランプ政権にもよく似ている。奇しくも、日米で中央銀行の独立性が脅かされている図式になっている。先日、植田総裁が高市首相と面会したときに、高市首相は追加利上げに難色を示したと報じられている。それよりも、今回の人事案は、高市政権からのメッセージ性を感じさせる対応になる。

株式市場では、このリフレ礼賛の高市政権の対応をみて、株価上昇が加速した。2月25日の日経平均株価は、前日比+1,262.03円と急伸した。ドル円レートも、1ドル156円台後半へと一時的に円安方向に振れた。金融緩和状態の継続が強く意識された格好である。2月8日の衆院選後に一旦は様子見だった為替マーケットも、今は金融緩和予想に傾いて、方向感を見せたように思う(図表1)。

図表
図表

4月の追加利上げを巡って

筆者は、3・4月での追加利上げの可能性を見てきた。本命は、4月27・28日の決定会合である。3月の日程は、18・19日になるが、浅田統一郎氏の人事が順当に行けば4月1日からの就任になり、その手前での先行利上げになる。それでは、いかにもリフレ人事を意識した利上げになるので、さすがに日銀は選択しないだろう。だから、焦点は4月利上げの可能性ということになる。

市場観測では、この4月利上げは遠のいたとされている。しかし、筆者は4月利上げの可能性は十分にあると予想する。なぜならば、4月利上げを見送れば円安はさらに進むだろう。日銀は、財務省と協力しながら円安を牽制している。そうした経緯を踏まえると、敢えて利上げを延期して円安が進むことを選択することは考えにくい。季節的に4月は、各種商品・サービスの価格改定が行われやすく、家計・企業のインフレ・マインドが強まりやすい。そのタイミングで、円安進行を容認すると、とても為替介入観測だけでは1ドル160円ラインの防戦ができなくなる。その次の6月15・16日の会合のタイミングまで待つと、円安進行に手がつけられなくなるだろう。わざわざ後手に回って、自分の自由度を下げるような対応はしないと予想している。

植田総裁の選択

植田総裁は、読売新聞のインタビューに応じて、「3月にも4月にも決定会合があり、そこまでに、これから得られる情報を丹念に点検した上で、意思決定をしていきたい」と意向を述べている。筆者は、この発言は質問に応じたものとは言え、3・4月の追加利上げ観測をわざわざ意識させるものだと理解している。ここで、人事案に反応したようにマーケットに感じさせると、円安進行を許すことになり、かえって火中の栗を拾うかたちになってしまうだろう。むしろ、3月18日の春闘集中回答日の結果と4月1日に発表される日銀短観を確認して、4月の展望レポート発表と併せて、追加利上げを実施する方が、順当な印象を与えて、政府に対しても説得力をアピールできるはずだ。

日銀審議委員の人事案に反応して、為替が円安に振れたことに対しても、日銀がそうした政府の対応によって、金利正常化を遅らせることはないというメッセージを送ることになる。各種の思惑に対して、植田総裁は中央銀行の独立性を強調することで、円安方向に向かいやすい流れに歯止めをかけたいと考えるだろう。

高市政権との関係

しかし、4月利上げを実行すると、日銀と政府の間での関係が悪化するのではないかという懸念は残る。その先の審議委員の任期満了は、高田創委員・田村直樹委員の2027年7月23日となる。これは、その先の審議委員人事は目先の課題ではないという見方ができる反面、高市政権が長期政権になったときには、この2027年7月に近づくとやはり露骨な人事圧力を見合いに緩和継続の圧力が働くだろうという両方の見方ができる。しかし、筆者は、2027年7月の人事圧力を恐れて、それまでの金利正常化を消極化してインフレ加速を許すという対応を植田総裁はしないとみる。高市政権にとっても、物価上昇は、積極財政の失敗という批判を受けないためにも日銀の利上げに無用な圧力をかけない方が賢明であろう。ひとまずは、今のタイミングでリフレ人脈からの刺客を日銀に送り込んでおいて、日銀との駆け引きを有利に運びたいという考えなのかもしれない。高市首相自身も、衆院選の大勝利で、自由自在に政策を動かすようなつもりはないと発信している。今回のリフレ人脈からの登用は、日銀への暗黙のパワーを見せておくという意図であり、金利正常化自体を強引に修正させるものではないというのが筆者の理解である。

熊野 英生


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熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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