実質賃金に下げ止まりの兆し (2025年12月毎月勤労統計)

~物価鈍化を主因に、26年1月に実質賃金プラス転化の可能性が高い~

新家 義貴

要旨
  • 25年12月の毎月勤労統計では名目賃金の上昇率が拡大、実質賃金は減少が続いたものの減少幅が縮小。11月の賃金を一時的に押し下げていた特別給与が、ボーナス増によってプラスに転じたことが主因。

  • 所定内給与(共通事業所ベース)は前年比+2.1%(11月:同+2.0%)とほぼ変わらず。所定内給与は春闘で決まる賃上げが1年間続く傾向がある。また、名目賃金は、ボーナスの支給月以外の月については所定内給与の動きに概ね連動することが多い。名目賃金は当面、所定内給与の足元のトレンドである前年比+2%台前半程度で推移することが予想される。

  • 実質賃金は、26年1月のプラス転化を予想。食料品価格で前年の高い伸びの裏が出ることで、物価が押し下げられることが主因。また、2,3月には電気・ガス代補助金による物価押し下げ等も加わる。少なくとも3月までは実質賃金プラスになる可能性が高い。一方、懸念されるのが円安による物価上振れリスク。円安を理由として企業の値上げ意欲が再び積極化し、物価上昇率が高止まる可能性は相応にある。この場合、4月以降の実質賃金が再びマイナス圏に沈むリスクがある。

実質賃金は減少持続も、ボーナス増によりマイナス幅は縮小

本日厚生労働省から公表された25年12月の毎月勤労統計では、現金給与総額が前年比+2.4%と、前月の同+1.7%から上昇率が高まった。名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金をみると、一般的に用いられる消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化したもので前年比▲0.1%(25年11月:同▲1.6%)と僅かながら12ヵ月連続で減少、「総合」で実質化した値は同+0.3%と小幅プラスに転じている1

なお、報道等で言及されることが多いこの数字(本系列)は、調査対象事業所の部分入れ替えやベンチマーク更新等の影響により攪乱されることが多く、月次の賃金変化の動向を把握することには適さない。そのため、1年前と当月の両方で回答している調査対象のみに限定して集計された「共通事業所」の前年比データを見る方が望ましい。この共通事業所ベースの値をみると、25年12月は前年比+2.0%と11月の同+1.1%から上昇率が拡大、実質賃金は前年比▲0.4%(11月:同▲2.2%)と12ヶ月連続で減少したものの、落ち込み幅は前月から縮小している(消費者物価指数の「総合」で実質化した実質賃金は前年比▲0.1%)。

このように、本系列でも共通事業所でも名目賃金の伸びが拡大、実質賃金の減少幅が縮小している。11月は、特別給与が一時的に大幅な下振れ(本系列:前年比▲1.5%、共通事業所:同▲10.2%)をみせたことで下押しされていたが、12月にはボーナス支給による押し上げで特別給与がプラスに転じた(本系列:前年比+2.6%、共通事業所:同+1.8%)ことで、下振れが解消された格好だ。こうした特別給与による攪乱を除けば、名目賃金は概ね前年比+2%台前半程度で推移しており、基調に変化はみられない。こうしたなか、物価上昇率がピークアウトしていることで、実質賃金の減少幅が縮小に向かっているという構図である。

なお、冬のボーナスについてはまずまずの結果といったところだろう。12月の特別給与(共通事業所ベース)は前年比+1.8%と増加している。大幅増とまではいかなかったが、昨年12月に同+7.5%と急増し裏が出やすい状況だったにしては健闘したと言って良い。価格転嫁を積極的に進めたこともあって企業業績は底堅く推移しており、利益の水準も高い。従業員への還元余力は十分あるため、企業は賞与の引き上げに踏み切ったとみられる。また、物価高により、家計に賃上げの恩恵が感じられないことへの問題意識は高まっており、企業も物価高への配慮を行わざるを得ないことに加え、人手不足感が強まっていることも人材確保の面から賃上げに繋がったとみられる。

図表
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所定内給与はほぼ変わらず

所定内給与(共通事業所ベース、以下同じ)は前年比+2.1%(11月:同+2.0%)と前月からほぼ変化なし。一般労働者(同+2.1%、11月:同+2.2%)、パート労働者(同+2.3%、11月:同+2.4%)とも大きな変化はなかった。なお、最低賃金大幅引上げによるパート労働者の賃金上振れは今月も確認できていない。

所定内給与は春闘で決まる賃上げが1年間続く傾向があり、賃上げの影響が反映される月以外で大きく変動することは基本的にはない。また、名目賃金は、ボーナスの支給時期である6、7、12月にボーナス動向の影響を大きく受けるが、その他の月については所定内給与の動きに概ね連動することが多い。そう考えると、名目賃金は当面、所定内給与の足元のトレンドである前年比+2%台前半程度で推移することが予想される。

図表
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実質賃金は26年1~3月期にプラス圏浮上の公算大も、物価上振れリスクに注意

12月の実質賃金は減少が続いたものの、減少幅は縮小している。実質賃金が下げ止まるタイミングが近づいており、26年1月のプラス転化の可能性は十分ある。その主因となるのは物価の鈍化だ。

前述のとおり、当面の名目賃金は前年比+2%台前半程度で推移する可能性が高いと思われる。また、26年春闘では25年並みの高い伸びが実現するとの見方が強まっており、26年度の名目賃金も前年比で+2%台前半程度の伸びは期待できそうだ。こうした点を踏まえると、実質賃金がいつプラスに転じるか、そしてその状態が持続するかどうかは、物価(CPIの持家の帰属家賃を除く総合)の伸びがいつ前年比+2%程度まで鈍化するか、そしてそれを維持できるかどうかという点にかかっている。

その物価について、消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」は直近12月分で前年比+2.4%となっているが、先に公表されている東京都区部の結果を踏まえると、26年1月には前年比+2%を割り込む可能性が高い。1月の実質賃金は24年12月以来のプラス転化になると予想する。

その先も物価は鈍化が見込まれる。食料品において昨年の上昇率が高かったことの裏が出ることが今後も下押し要因となることに加え、政府による電気・ガス代補助金の実施が物価の押し下げ要因となる。今回の補助額はかなり大きく、これによりCPIコアは2、3月に▲0.6~▲0.7%Pt、4月に▲0.2%Pt程度押し下げられるとみられる。「持家の帰属家賃を除く総合」も少なくとも3月までは+2%割れで推移するだろう。こうした物価の鈍化を主因として26年1-3月期の実質賃金はプラスとなる可能性が高い。

一方、懸念されるのが円安による物価上振れリスクだ。今後の為替レートの動向次第では、企業が価格転嫁を積極化させ、値上げが再び加速する可能性も十分ある。その場合、食料品価格の鈍化ペースが想定よりも緩やかなものにとどまり、CPIが思うように鈍化しないという展開も十分ありうる。電気・ガス代補助の額が大きいこともあり、26年1-3月の実質賃金はプラスになる可能性が高いが、補助が縮小・終了に向かう4月以降については不透明感が残る状況である。年度替わりである4月に値上げが前年以上に積極化する場合、4月以降の実質賃金が再びマイナス圏に沈む展開も否定できない。


新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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