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2025.12.09
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ワーキングマザーがキャリアをあきらめるとき
~キャリア展望を持ち続ける人と、喪失する人の違いとは~
福澤 涼子
- 目次
1. ワーキングマザーがキャリアプランを変更・喪失する背景を探る
小さな子どもを育てる親たちが、自らの職業キャリアをあきらめないために、どのような支援が求められるだろうか。拙稿「子育て期に必要なキャリア形成支援とは~およそ半数が子どもの誕生後、キャリアプランの変更・喪失を経験~」では、子どもをもつ前にキャリアプランを立てていた有職女性の約6割が、子どもの誕生後にプランの変更や喪失を経験していることを明らかにした。特に、子育てに積極的に関わる人ほど、キャリアの方向転換を迫られる傾向がある。一方で、上司やロールモデルの存在が、子どもの誕生後もキャリアプランを描くことに大きな役割を果たすことが示唆された。
本稿では、未就学児を育てながら一般企業で正社員として働く30代のワーキングマザー4名へのインタビュー調査をもとに、子育て期にキャリアプランの変更や喪失が起こる背景について定性的な分析を行った(注1)。ある女性は、「子どもを産む前は、早く管理職に就きたい、どんどん上に上がっていきたいという気持ちがあった」と述べるが、育児休業から復帰して2年ほどの現在は、管理職を目指すことをあきらめキャリアの方向性を見失っている。このようなキャリアプランの変更・喪失はいつ、どのような要因で起こるのか。本稿では、インタビュー調査を通じて、個人の選択を超えて存在するワーキングマザーたちのキャリアの壁を可視化し、キャリア形成を阻害する要因を明らかにする。
2. 未就学児を育てるワーキングマザー4名へのインタビュー調査結果
(1) Aさんのケース:短時間勤務制度と人事評価制度の歪みでマミートラックに
Aさんは、10年にわたり営業職として働いてきた、未就学児2人を育てるワーキングマザーである。出産前は、職場の数少ない女性リーダーとして、営業チームを率いており、管理職試験を受けるタイミングで3年間の産前産後休業ならびに育児休業に入った。休業期間が3年と長期化したのは、2人の子どもの育児休業を連続して取得したためである。「年齢的にも2人目を早めに産んだほうが良いと思った」「一度復帰してすぐに休むのは周囲に迷惑だと思った」との理由から、連続取得を選択した。
その間、就業先の一部の部署では在宅勤務が可能となり、Aさんの希望もあって、在宅勤務が可能な未経験の部署で、営業職として職場復帰することになった。復職後にAさんのキャリア形成にとって大きな課題となったのが、職位に期待される役割を、短時間勤務という働き方で実現する難しさである。チームリーダーとして活躍してきたAさんの職位は「主任級」であり、個人の営業目標の達成に加え、メンバー指導やチームの売上向上まで求められる。だが、実際にメンバーとリーダーのやり取りが集中するのは、商談対応が落ち着く夕方から夜間のため、16時までの短時間勤務で働くAさんには、リーダーとして十分な対応が難しい。上司からの「無理をしないほうが良い」との提案もあり、Aさんは主任級の職位のままメンバーとして復職することになったが、リーダー職に就かない主任級の人事評価について明確な方針は示されていなかった。職位の要件にチームリーダーとしての働きが期待される以上、個人の売上目標をいくら達成していてもAさんの人事評価は低いままとなり、その後、上司が交代したタイミングで降格の可能性を伝えられた。
つまり、Aさんは短時間勤務である限りキャリアアップが難しい、いわゆる「マミートラック」に陥ってしまったと捉えることができる。子どもをもつ前は、管理職を目指して成長志向が非常に高かったAさんだが、「あと一歩で手が届くと思っていた管理職が、今は果てしなく遠く感じる。それを乗り越えてまで管理職になりたいのかと問われると、正直わからなくなった」と語り、キャリア展望を描くことができなくなっている。
(2) Bさんのケース:長時間労働の職場で、キャリア展望を喪失
Bさんは、IT系の企画職としてキャリアを積んできた女性である。もともと「綿密にキャリアプランを立てるタイプ」であり、役職に就いてから子どもを出産する意向を持っていた。管理職登用のための筆記試験には合格したものの、ポジションに空きがなく、役職がつかないまま産前産後休業ならびに育児休業を取得することになった。BさんもAさんと同様に子どもを連続して出産したため、育児休業期間は2年半と長期化した。育児休業中に勤務先の事業状況が大きく変わり、復職後は営業職へと職種転換することになった。Bさんは、企画職でキャリアを築きたいという思いから、復職から約1年で転職する決断をした。
転職先では、希望する業務に携わることができた一方で、定時で遂行することが困難な業務量を任された。配属されたチームには、ワーキングマザーが1人もおらず、職場の雰囲気としても、残業することを当然とし、仕事と家庭の両立という観点は重視していないように感じられた。そのような環境で、Bさんだけが子育てと両立しながら働かなければならなかった。「今日は絶対に休めないという日に限って、発熱で子どもを保育園に預けられなくなり、心が折れそうだった」と当時を振り返る。さらに、Bさんの場合、転職直後で短時間勤務制度の適用を希望することもできない。業務をこなすために、子どもの寝かしつけ後に深夜まで働く日が続き、最終的に体調を崩し、数か月で退職することとなった。現在は体調こそ回復しているものの、「今はとにかく家庭が円満に回ればそれで良い。時間どおりに終わる仕事であれば、どんな仕事でも構わない」と語り、職業上のキャリアへの期待を持てなくなっている。
(3) Cさんのケース:ワーキングマザーにとって不利な昇格条件
Cさんは、未就学児1人と就学児1人を育てる女性である。現在は総務部門の管理職として部下育成などを担い、前向きに働いているが、これまでの就業については「あきらめの連続だった」と語る。
第一子出産当時、Cさんの勤務先は昇格に際して在籍年数が重視される制度であったため、育児休業期間の分だけ昇格が遅れることとなった。遅れを短くするために、保育園に子どもを預ける時期を0歳とするか1歳とするかで悩んだが、最短で管理職を目指すことをあきらめ、1年半の育児休業を取得した。1年半と長期化したのは、年度途中での保育所の入所が難しかったためである。Cさんの第一子は8月生まれのため、1歳の4月まで入所を待つことになり、休業期間が長期化し、昇格は2年遅れとなった。
第一子の育休復帰後、経験の長かった総務職に戻ることはできたものの、本来であれば短時間勤務制度を用いて働くはずが、出産前以上の業務量を任されるようになった。この背景として「役職に上がる直前だったため、一定の負荷をかけたいという職場の意向があった」とCさんは推測している。上司は、Cさんのキャリア形成を応援するために、負荷の高い仕事を任せたと考えられるが、子育てとの両立の観点では厳しい状況であった。結局、Cさんは短時間勤務を断念し、フルタイム勤務に切り替え、家族と調整しながら週1回は深夜まで残業する生活となった。その努力もあり、管理職試験には無事合格した。
しかし、第二子の出産が間近に迫っていたため、管理職に就いたのは育児休業復帰後となった。さらに会社には「管理職に就任する際は他部門を経験させる」との方針があり、復職先は長年経験を積んできた総務部ではなく、まったく未経験の部署であった。高い専門性が求められる部門のため、「子どもがいなければMBAなどで学び直したと思う」と話すが、幼い子ども2人の育児で学習時間を確保することはできなかった。結果として、部下の担当する業務を正確に理解したり、高い専門性をもつ彼らと良好なコミュニケーションを取ることも難しいまま、管理職として働き続けることになった。Cさんは当時を振り返り、「経験の長い総務であれば、子どものことで迷惑をかけても日常業務で挽回できるため、『こういうことに挑戦したい』とも言えたはず。だけど、未経験の領域で子どもも小さい状況では、それも難しかった」と述べる。成果の上がらない日々によりキャリアへの意欲を失いかけたものの、就業先からは「あくまで異動の目的は他部門経験であり、長きにわたって配置するつもりはない」とも伝えられていた。そのため、Cさんはその部門で活躍することはあきらめて、このつらい時期を耐えることにした。
その数年後、再び総務の部署に戻ることができた。短時間勤務で管理職を務める現在も、子どもの送迎中に会議へ参加し、食事作りの合間にメールを確認してフォローするなど、「綱渡りの日々」だという。しかし、これまで経験を積んできた職務に戻れたことで、キャリアの展望を描きやすくなり、「いつか制度設計の業務に管理職として挑戦したい」と語っている。
(4) Dさんのケース:両立に対する理解の深い上司のもと、段階的にステップアップ
Dさんは、IT系の企画職として働く一児の母である。20代後半で現職へ転職し、約4年勤務した後に産前産後休業および育児休業を取得した。子どもを0歳から保育園に預けたため、休業期間はおよそ1年間である。復職から約2年が経過した現在、Dさんは「昇格のために頑張りたい」と語り、キャリア形成に対して前向きな姿勢を示している。
この意欲の背景には、復帰後に段階的にキャリア形成が可能となる仕組みと、上司および職場メンバーからの、仕事と育児の両立に対する理解がある。まず、育児休業から復帰した際には、原職かつ同一の職場チームに戻ることができた。なお、復職後1年間は「リハビリ期間」として出産前と同様の業務が割り当てられた。これにより培ってきた経験やスキルを生かしつつ、まずは仕事と育児の両立に慣れ、2年目以降に新しい業務へ挑戦するという段階的なステップアップが可能となった。
加えて、復職後の1年間には、週1回の頻度で、同じくワーキングマザーである上司との個人面談が設定された。そこでは、業務上の困りごと、育児との調整、キャリアの目標について対話を重ねる機会が継続的に確保された。上司は、仕事と育児の両立に対する理解が深く、「大変だよね。そのなかでよく頑張っているよ」と声をかけるなど、心理的な支援も行っている。今期、Dさんは昇格を見据えて、業務負荷の高いプロジェクトを担当しており、月に1回程度は子どもの就寝後に残業する日もあるが、上司からの声かけやフォローもあり、前向きに取り組むことができている。
また、現在所属するチームの大半はワーキングマザーで構成されており、フォローし合いながら働くことができる。実際、復帰して半年間は子どもの体調不良が頻発し、稼働できない日が月に1回以上あったが、当日の業務はチーム内で快く代替してもらえた。また、多くのメンバーが子育て中であることから定時退勤が一般的であり、在宅勤務を含めた柔軟な働き方をしている。このような環境により、Dさんは子育てと両立しながらフルタイムで働くことが可能となっている。
3. ワーキングマザーがキャリアをあきらめる構造的な4つの要因
上記ワーキングマザーに対するインタビュー調査からは、キャリア形成の壁となりえる複数の構造的要因が浮かび上がってくる。そのなかでも、調査対象のワーキングマザーが共通して直面した課題は、次の4点に整理できる。
(1) 育児休業の課題
第1に、育児休業にまつわる課題である。休業期間分の昇格の遅れや、原職復帰ではない人事配置がキャリア形成上の課題となっている。一方で、そうせざるを得ない企業の事情として、在籍期間などの管理職登用の条件をワーキングマザーだけ免除するのは難しいという見方もある。そのため、育児休業をキャリア形成上のリスクとしないためには、企業だけではなく、夫の育児休業を妻の休業期間の短縮につなげるような夫婦間の協力や、保育所の拡充など自治体などによる支援策も合わせて検討していくことも重要である。
(2) 短時間勤務制度の課題
第2に、短時間勤務制度の運用上の問題である。Aさんの場合、短時間勤務制度を利用できたものの、短時間勤務ではキャリアアップが難しい状況に置かれた。Cさんの場合は、制度を利用する前提であったにもかかわらず、実質的に短時間勤務では処理困難な業務量が割り当てられた。Bさんの場合は、転職直後で制度を利用できず、残業前提の業務量を任され、体調を崩して退職に至った。もちろん、従業員の両立支援のために短時間勤務制度を整備することは非常に重要である。一方で、適切に制度が利用されるためには、評価制度・業務設計・制度適用範囲などの視点から、短時間勤務制度との整合性を注意深く見ていく必要があるといえるだろう。
(3) 上司からの理解と支援の課題
第3に、上司の理解と適切な支援である。Dさんの上司は子育てと仕事の両立への理解が深く、適切な声かけやフォロー、業務調整によって部下を支援してきた。一方、他の事例では、育児との両立への理解が十分とは言い切れず、業務調整などの面で適切な配慮が乏しい状況も見受けられた。また、キャリア形成につながらないような負荷の少ない業務だけを任せる「マミートラック」も課題であることから、適正な業務量・難易度の見極めは決して容易ではない。特に育児休業復帰から1年間は上司とワーキングマザーの間で、ていねいに意思疎通を図っていく必要がある。
(4) 職場の長時間労働の課題
第4に、職場の長時間労働である。AさんやBさんの職場では残業が常態化していた。Aさんは「在宅勤務なので、フルタイム就業も可能ではあった」と述べる一方で、チームが遅くまで働く環境では自らもそれに合わせざるを得ず、あえて短時間勤務を選びチームリーダー職から退く選択をした。Bさんも、定時に業務が終了できれば子育てとの両立は問題なかったはずだが、長時間労働前提の業務量を抱え、結果として体調を崩した。他方、子育て中の女性が多く在籍するDさんの職場では、定時退社が一般的であり、Dさん自身もフルタイムで働くことができている。ただし、長時間労働は、個別の職場風土だけではなく、業界特性や即応性を求められる業務特性が要因となって生じることも多い。そのため、日本社会全体で長時間労働を当然としない社会をつくっていくことが重要である。
以上のように現代の日本には、依然として母親たちがキャリアから脱落するきっかけとなる環境的要因が残存している。一方で、人材不足のなか労働時間を確保して生産性を上げざるを得ない企業側の立場や、他従業員との公平性の問題など、複合的な事情も絡みあっている。子育て期の就業者がキャリアをあきらめることなく働き続けるための対策をさらに検討し、実現させていくことが必要である。
【注釈】
- インタビューについては、正社員・総合職として一般企業で働き、未就学児を育てている女性に絞り、知人を介して取材協力を得た。その方法は、オンライン会議システムを活用した1対1の半構造化インタビュー調査である。各調査時間は60~90分で、協力者に許可を得たうえで音声を録音し、全文の文字おこしを行った。なお、個人が特定されるのを避ける目的で、レポートの主旨が変わらない範囲で一部の職種名を変更したり、職種や業種の明記を避けている。
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