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2026.02.13
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「こども誰でも通園制度」とは?課題と展望(2)
~制度の基盤となる保育士にとっての意義と課題は何か~
小林 菜
- 目次
1. 2026年4月から本格実施「こども誰でも通園制度」
2026年4月から「こども誰でも通園制度」が本格実施予定である。「こども誰でも通園制度」とは、親の就労要件を問わず0歳6か月から満3歳未満の未就園児が月一定時間、保育所等の施設を利用できる新たな給付制度である。
本格実施へ向けて、全2回のレポートにわたり、公表されている資料を基に本制度の概要を整理し、その課題と展望について考察する。
第1回目のレポートでは、利用者となる保護者やこどもの観点から制度の意義と課題を整理した(詳しくは、拙稿「「こども誰でも通園制度」とは?課題と展望(1) ~共同養育の意識を社会全体で育む契機に~」)。本稿では、制度の基盤となる保育士の観点から、本制度の意義と現時点での評価、そして本格実施へ向けた課題について考察する。
2. 本制度の目的と概要
前述のとおり、「こども誰でも通園制度」とは、0歳6か月から満3歳未満の保育所等に通っていないこどもが、市町村の利用認定を受けたうえで、月一定時間までの利用可能枠のなかで保育所等に通園できる仕組みである。2025年度に続き2026年度の利用可能枠は月10時間の予定となっている(注1)。
こども家庭庁「こども誰でも通園制度の実施に関する手引き」(以下、「手引き」)によれば、本制度の目的は、こどもの成長の観点から、「全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備する」ことだという。
また、就労の有無にかかわらず保護者の孤立感・不安感の解消や育児負担の軽減などを図ることで、全てのこどもの良質な成育環境を支援することも、本制度の目的とされている。特に本制度は自治体が利用認定を行うため、申請・利用状況を一定程度把握でき、支援を必要としている家庭・こどもの発見や適切な支援につなげやすい点にも特徴があるという。
本制度の利用形態には、こどもが特定の事業所を定期的に利用する「定期利用」と、事業所・月・曜日や時間を固定しない「柔軟利用」があり、どの形態を可能とするかは各自治体と事業者の判断によって異なる。また本制度を利用するこどもの受入方法として、保育所等の空き定員を活用する「余裕活用型」と、定員を別に設ける「一般型」がある。
なお、就労要件にかかわらず一時的に保育所等を利用できる仕組みとしては、既に「一時預かり事業」があるが、本制度とは目的や権利性に違いがあるとされている(図表1)。

3. 本制度における「本格実施」とは
本制度における「本格実施」とは、対象年齢・上限時間・給付単価・利用者負担などの基本的枠組みが全国的に整理され、新たな給付制度として全国の自治体で実施される段階を意味する。
ここで重要なのは、本格実施により全国の自治体が実施の義務を負う一方、保育所等の全ての事業者が実施義務を負うわけではない点である(注2)。実施するか否かは事業者の任意であり、保育現場の負担や受入体制を踏まえた判断が前提となっている。以下ではこの前提を踏まえたうえで、本制度を導入する場合の保育関係者にとっての意義と課題を検討する。
4. 保育関係者にとっての意義と現時点での評価
2026年度からの本格実施へ向け、2024年度には試行的事業が全国100自治体以上で実施され、同年度中にこの試行的事業に従事する保育士等へのアンケート調査も行われている(注3)。同調査結果をもとに、試行的事業を通じた「こども誰でも通園制度」の評価について、保育関係者(保育士、保育事業者)の視点から考察する。
1) 保育士から見た、こどもにとっての意義 ―― 人間関係・経験の広がり
保育士にとって第一に重要となるのは、本制度が保育的な観点から「こどもにとって真に意義あるものであるのか」という点である。前述の「手引き」では、「こども誰でも通園制度」のこどもの成長の観点からの意義として、家庭とは異なる経験をしたり、家族以外の人と関わる機会が得られたりすることが挙げられている。また、年齢の近いこどもと関わることで、ものや人への興味や関心が広がり、成長していくことができるとされている。
この点について、試行的事業の利用実績のある保育士等に対し「こどもの育ちにとっての試行的事業の意義」を尋ねた結果をみると、「同年齢・異年齢のこども同士で関わり合う機会を得ることができる」87.3%、「保護者や家族以外の大人(職員)と関わる機会を得ることができる」84.4%、「家庭内だけではできないさまざまな遊びを経験できる」80.9%など、実際に制度(試行的事業)を利用した保育士等からは、こどもの人間関係や経験の広がりに対して肯定的な評価がなされている(図表2)。他方で、「特に意義は感じない」と回答した割合は3.2%に留まっている。

2) 保育士自身にとっての意義 ―― 専門性を発揮する場の広がり
前述の「手引き」では、保育士等にとっての「こども誰でも通園制度」の意義として、これまで接する機会の少なかったこどもや家庭と関わることで、専門性をより広く発揮できることが挙げられている。
試行的事業の利用実績がある保育士等に対し、「試行的事業に従事することで感じること」を尋ねた調査結果をみると、「試行的事業を利用するこどもたちの成長・発達を感じることができる」「ふだん利用している家庭以外にも、地域の子育て支援に関わることができる」「地域のさまざまな家庭・こどもとかかわることで、自分自身の成長を感じることができる」について「そう思う」と「ややそう思う」を合計した割合は、それぞれ88.3%、82.4%、77.3%となっている(図表3)。試行的事業においては、専門性を発揮する場の広がりや自身の成長を感じている保育士等が多い結果となっている。

3) 保育事業者にとっての意義 ―― 少子化時代の保育所等の維持・発展
なお、前述の「手引き」では、事業者である保育所等にとっての本制度の意義についても述べられている。具体的には、定員を満たすことが難しくなりつつある保育所等において、キャリアを重ね、高い専門性を有する保育士などの人材を手放すことなく、事業を継続したり、発展させていく可能性が広がったりするという点が挙げられている。
今後は少子化の進行により、一部過疎地域だけでなく日本全体で保育所等の利用者数が減っていくことが見込まれる。本制度を通して地域のこどもと子育て家庭を支援する中心的な存在として、保育所等が新しい役割を担っていくことが期待される。
5. 本制度が広く実施されるためには
以上より、試行的事業の利用実績のある保育士からは、制度について一定程度評価されているといえる。また本制度には、少子化の進行等を見据えて、将来的な保育所等や専門職の維持・発展としての意義も含まれていることも確認した。他方で、本制度が今後理念に沿って広く実施され、恒常的に運用されるためには、依然として多くの課題が残る。本稿では以下、制度の基盤となる保育士の観点から、3点の課題を提示したい。
1) 制度導入が可能となる環境作り ―― 保育人材をいかに確保するか
1点目の課題は、保育現場における保育人材の確保をいかに実現するか、という点である。本制度導入以前に、既に多くの保育現場が、保育人材不足の問題を抱えている(注4)。そのような状況では、保育所等が本制度のために必要な保育士を確保し本制度を実施することは難しい。実際に、前述のこども家庭庁の調査から、自治体に対して試行的事業に関する課題を尋ねたものをみると、「保育者(保育士以外も含む)の確保」が第1位で81.6%となっている。
今後より広く本制度が実施されるためには、保育現場の負担軽減や専門性に見合った処遇改善、保育の魅力発信などによる保育人材確保のための施策を、並行して積極的に進める必要がある(注5)。
2) 保育士の不安と懸念を取り除く ―― 「こどもまんなか」をいかに実現するか
2点目の課題は、制度の理念の中心である「こどもまんなか」(注6)をどのように実現するか、という点である。
前述の試行的事業に関する調査では、試行的事業を利用した保護者・保育士等ともに、「こどもにとっての意義」を肯定的に評価している。一方、新しい環境や人間関係は、こどもに一定のストレスを与えるものでもある。
特に現時点では制度上、利用可能枠は月10時間となっており、通常保育と比べて短時間の断続的な保育利用になることから、こどもによっては環境や人間関係に慣れるのに時間がかかることが見込まれる。さらに利用する事業所・曜日・時間を固定しない「柔軟利用」においては、新しい出会いや経験の機会が増える一方で、その都度新しい環境や人間関係の中で過ごすことになるため、こどもにとって一定の負荷がかかる側面もあると考えられる。
加えて、試行的事業に関する調査で「こどもにとっての意義」を保護者や保育士が回答せざるを得ないことが示しているように、「こども誰でも通園制度」の対象となる0歳6か月から満3歳未満のこどもは、自身の気持ちや考えを言語化して表明することは難しい。
「本制度は真にこどものためになるのか」という不安は、こどもの育ちに寄り添う専門職である保育関係者にとって、広く本制度を実施する際の心理的障壁となりうる。理念の中心である「こどもにとっての視点」を忘れず、制度設計者・自治体・現場の保育関係者、そして社会全体で、こどもに対する本制度の意義の検証と、こどもにとって望ましい制度の在り方について工夫を重ねていくことが、本格実施後も重要である。
3) 高度な専門性に対する理解と支援が必須 ―― 短時間・断続的な保育の難しさ
3点目の課題は、「こども誰でも通園制度」のような短時間、あるいは一時的・断続的な保育には固有の難しさがあり、通常保育と異なる専門性が必要となる点である。
「こども誰でも通園制度」は現時点では制度上、利用可能枠が月10時間となっており、通常保育と比べて保育士がこどもと関わる時間が短く、断続的になる。また「柔軟利用」の場合には、その都度、新しいこどもを受け入れることになる。
そのような一時的あるいは断続的な保育では、個々のこどもや保護者に対する深い理解につながる情報が限られる中、保育士はこどもの情緒の安定や安全確保、集団の中での関係調整、保護者との関係構築等を行う必要があり、通常保育とは異なる専門性が求められることがこれまでに指摘されている(注7)。実際に、試行的事業の利用実績がある保育士等に試行的事業の課題や難しさを尋ねた調査結果では、こどもが環境に慣れにくいこと、情報量が少ない中での特徴把握が難しいこと、在園児を含めた際の関わりが難しいこと等が挙げられている(図表4)

またこのような、一時的あるいは断続的な利用における保育においては、専門性の高い保育を実践しようとしている保育士等ほど困難さを感じやすく、疲労やストレスを感じる傾向があることも指摘されている(注8)。本制度が現場の保育士に高度な専門性の発揮を求めている制度であるという点、そして現場の保育士に一定のストレスを与えうるという点を念頭におき、それに見合う処遇改善や制度設計の工夫を積み重ねていくことが、担い手の確保と保育士のバーンアウト予防の観点からも重要である。
6. 理念の丁寧な共有・実現と、保育士の処遇改善を両輪で
OECD(経済協力開発機構)が日本の幼児教育・保育の従事者(幼稚園教諭、保育士、保育教諭等)を対象に行った国際調査によれば、「現在の園での仕事を楽しんでいる」という項目には80.3%、「全体としてみれば、この仕事に満足している」という項目には75.9%の幼児教育・保育従事者が「当てはまる/非常によく当てはまる」と回答している(注9)。このことから、こどもたちの育ちに寄り添う自らの仕事に、やりがいや満足を感じている保育士が多いことがうかがえる。
そうであるからこそ、こどもの育ちを第一に考える専門家として現場の保育士も安心・納得して本制度を支えることのできるよう、制度設計者・自治体・保育関係者、そして社会全体で制度理念や意義を丁寧に共有し、「こどもまんなか」を真に実現するための工夫を重ねることが不可欠である。
他方、OECDの同調査では、職務そのものに対する満足感の高さとは対照的に、「職務に対して支払われる給与に満足している」という項目において「当てはまる/非常によく当てはまる」と回答した日本の幼児教育・保育従事者の割合は35.4%にとどまる。「保育者は社会的に高く評価されていると思う」という項目についても「当てはまる/非常によく当てはまる」と回答した従事者の割合は28.4%である。これは、現在の保育現場や保育政策が、給与や専門性に対する評価が十分ではないなか、保育士の職務そのものに対するやりがいや思い入れに頼って成立している部分が大きい可能性を示唆している。
しかし保育士も生活者のひとりであり、経済的な保障や社会的評価が不十分ななか、やりがいや仕事への思い入れだけで頑張り続けることは難しい。実際に保育人材不足の要因には、給与等の処遇面や社会的評価の問題が指摘されている(注10)。
前述のとおり、本制度は現場の保育士に高度な専門性の発揮を求める制度である。本制度を持続可能な形で広げるには、「こどもまんなか」の理念の共有及び実現へ向けた工夫とともに、高度な専門性に見合うだけの処遇改善や保育士の専門性への再評価などを両輪として進め、保育現場で働く人々のやりがい頼みとならない環境作りを進めていくことも大切である。
【注釈】
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2025年内閣府令第94号による改正後の2026年4月1日施行の「子ども・子育て支援法施行規則」第28条の32。
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「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第47号)により「子ども・子育て支援法」に新たに追加された「第6節 乳児等のための支援給付」の第30条の20第1項(2026年4月1日施行)と、同法律の第3条(市町村等の責務)、こども家庭庁「令和7年度こども誰でも通園制度に関するQ&A【第15版】」の Q85・Q86 など。
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こども家庭庁「こども誰でも通園制度の本格実施を見据えた試行的事業の実施に関する調査研究報告書」2025年。
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こども家庭庁「保育人材確保に向けた効果的な取組手法等に関する調査研究報告書」2025年
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詳しくは、拙稿「量から質へ、保育政策の転換(1) ~質向上の最重要課題は保育人材の確保~」や「量から質へ、保育政策の転換(2) ~保育士の社会的評価の向上につながる情報発信の促進を~」など。
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こども家庭庁「こども誰でも通園制度の実施に関する手引き」によれば、本制度は、「一時預かり事業のように、いわば『保護者の立場からの必要性』に対応するものとは異なり、こどもを中心に考え、こどもの成長の観点から、『全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備する』ことを目的としており、まさに『こどもまんなか』の政策」だという。
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加藤望「一時預かり担当保育者はどのように子どもの情緒を安定に導くのか?」『質的心理学研究』20,2021年/加藤望「一時預かり事業において保育者に生起する葛藤とその背景」『保育学研究』57(3),2019年
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井上清美「保育者が抱える一時預かりの困難さと関連要因」『東京家政学院大学紀要』62,2022年
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国立教育政策研究所「OECD国際幼児教育・保育従事者調査(TALIS Starting Strong)2024結果のポイント」2025年/OECD(2025)“Results from TALIS Starting Strong 2024”/調査対象園は認可を受けた幼稚園や保育所などから無作為に抽出されている。また、調査対象の保育者は対象園から無作為抽出されており、回答者数は1,283人。/2022年度「東京都保育士実態調査」でも、職場選択時に重視した項目(複数回答)として「保育理念への共感」(35.9%)や「やりがい」(34.7%)が、「給与が高いこと」(38.5%)とあまり変わらない割合となっており、このことからも職務そのものに思い入れがあることが伺える。
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こども家庭庁「保育人材確保に向けた効果的な取組手法等に関する調査研究報告書」2025年/こども家庭庁「保育政策の新たな方向性(参考資料)」2024年
小林 菜
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