悩みの相談相手から見た夫婦関係

~夫・妻は悩みの相談相手であり続けるか~

福澤 涼子

目次

1.悩みを打ち明けることが難しい時代における「夫婦」の価値

あなたには個人的な悩みを打ち明ける相手がいるだろうか。相談相手として、親や配偶者、もしくは友人や恋人などを思い浮かべる人もいるだろう。一方、いくつかの既存研究(注1)では、現代の人間関係はあまり深入りしない関係が広がっていることが指摘されている。その背景には、人間関係が多様化したために、特定の人と深い関係を築きにくくなっていることや、プライバシー保護に気を配るあまり、お互いに深く突っ込んだ会話が控えられるようになったことが考えられる。加えて、現代の友人関係はより「選択的」になっている。例えば、SNSを活用して共通の趣味の友人を容易に見つけることができる一方で、この人とは付き合わなくてよいと判断したら、連絡手段を簡単にブロックできるようになった。自分自身で友人を選ぶことができるということは、相手からも選ばれ続けなければならないということの裏返しであり、良い面を見せようと努めるあまり、自分の欠点や弱みなどが吐き出しにくくなっていると考えられる。

そのような人間関係が広がる一方で、夫婦関係は、1対1の特別な存在として長期的に関係を築くことが前提となっていることから、関係を切られるリスクが少なく、悩みを吐き出しやすいと考えられる。その反面、夫婦ゆえに相手の心情への気遣いが欠けてしまい、悩みを相談した夫・妻から「そんなことで悩まなくてもよい」「今忙しいからあとにして」などと否定的な対応をされ、傷ついた経験を持つ人も少なくないだろう。

本稿では、当研究所が2025年3月に実施した1万人の男女を対象にしたアンケート調査をもとに、悩みを相談できる相手という視点から、現代の夫婦関係について考えていきたい。

2.既婚者と未婚者の間で、相談相手の有無に大きな差

本調査で、「悩みを打ち明けたり、相談できる相手」をたずねたところ、全体のおよそ3人に1人(31.9%)は、そのような存在がいないと回答した(図表省略)。

図表1は、その結果を未既婚別、そして性年代別に示したものである。性差に着目すると、配偶者の有無にかかわらず、男性は女性と比較して悩みを打ち明ける相手がいないとする割合が高い。この背景の1つとして、性別役割期待により、男性は悩みを吐露してはならないと考えがちであることが影響していると考えられる。

年代別では、全体的に40~50代くらいのミドルエイジ層に相談相手がいない割合が高くなっており、20代までの若年層は比較的、相談相手を有している。

未既婚別に見ると、悩みを打ち明ける人がいないとする割合は、どの年代でも未婚者が既婚者より2倍以上高くなっている。

図表
図表

3.誰に悩みを打ち明けているか

図表2は、悩みを打ち明けたり、相談できる相手について配偶者や親、友人などの項目から複数回答で選択してもらった結果である。既婚者は、配偶者を相談相手とする割合が男女ともに高く、夫・妻は悩みを相談しやすい相手であることがわかる。

図表
図表

(1)結婚後も親に相談する若年女性

まず、20代までの若い既婚者に着目すると、先述したように男女共に配偶者に悩みを打ち明けるとする割合が高く、特に20代の女性は男性よりも高い割合で夫を相談相手として認識している。30代以降になると夫の方が妻を相談相手とする割合が高いため、妻の方が夫に相談しているという点は、20代の夫婦関係の特徴といえる。

また、20代の既婚男性は、親友や友人などに悩みを相談する割合が他の年代や、未婚の男性よりも少なく、妻以外の関係性に対しては悩みを打ち明けることができないと考えている割合が高い。それに対し、20代の女性は結婚後も夫のみならず、友人や親友も相談相手として認識している。

さらに近年、相談相手としての母親の存在感が男女ともに増しているとされるが、親を相談相手とする女性の割合を未既婚別に見ると、既婚女性の方が未婚女性よりも高い傾向があるものの大差はない。女性にとっては結婚の有無にかかわらず、相談相手としての親の存在感が大きいことがわかる。一方、既婚男性の場合は、未婚男性よりも親の存在感は大きくなく、結婚を機に相談相手としての親の役割が妻に移り変わっているともとらえることができる。

(2)妻に相談し続ける夫と、夫に相談しなくなる妻?

さらに、夫婦間の関係について考察するため、配偶者を相談相手として認識する割合の年代ごとの変化に着目する。男性の場合、年代を問わず一貫して妻に相談する割合が高くなっており、年代による差はほとんど見られない。それに対して、女性は20代をピークに年齢が上がるとともに夫に相談できるとする割合は減っていき、60代では半数程度にとどまっている。

なぜ、年代が上がるにつれて、夫を相談相手として認識する女性の割合が減っていくのだろうか。その要因の一つとして、男女のコミュニケーション様式の相違が挙げられる。例えば、男性は悩みごとを相談する際に解決策などを求めるのに対して、女性は悩みをただ聞いてもらうことや、共感してもらうことを期待しているということはよく知られている。だが、日本家族社会学会「第4回全国家族調査(NFRI)」によると、「配偶者は、わたしの心配ごとや悩みを聞いてくれる」と感じている女性の割合は、年齢とともに減少傾向となり、40代以降は一貫して男性より女性の方が悩みを聞いてくれないと感じている。この点について、20年前に中年期の夫婦間のコミュニケーションを調査した研究(注2)によると、夫は妻からの悩み相談に対して、「親身になっていっしょに考える」といった共感的なコミュニケーションをしていると思っているが、妻側は、夫が思っているほど共感的な態度で接してもらっていないと認知しており、夫婦間の認識のズレが報告されている。このようなコミュニケーションの積み重ねによって、現代の60代の妻の半数は、夫を相談相手として見なさなくなっている可能性がある。

また、こうしたコミュニケーション様式の相違の他にも、若い世代は子どもの教育や住宅購入など、夫婦で相談すべき話題が比較的豊富であるが、ライフステージの変化によって徐々に夫婦の間で相談すべき事項が減っていくということも影響しているだろう。

(3)多様な相談相手がいる妻と、妻のみに相談相手が限られる夫

配偶者以外の相談相手に注目すると、女性は夫以外にも様々な相談相手がいることがわかる。例えば、女性の場合、年代が上がるにつれて、親に相談する割合は減少するものの、反対に子どもに相談する割合が増加していく。また、女性は友人を相談相手とする割合も年代を問わず一貫して4割前後であり、男性よりも高い。つまり、女性の場合、年代に関わらず、友人や親、子どもなど、夫以外の相談相手が多様であり、夫に相談しなくても相手が他にいるということになる。

一方、男性の場合、子どもが成長しても子どもを相談相手ととらえる人はかなり少数で、友人との関係も30代を除くと25%程度にとどまる。妻との間に多少のコミュニケーションの齟齬があったとしても、他の相談相手がおらず、最終的には妻に相談せざるを得ない状況にある人が少なくないととらえることができる。

4.悩みを相談することで、夫婦の信頼関係が築かれる

ここまで、夫婦関係に注目し、悩みを打ち明けたり相談できる相手の実態を見てきたが、性別や年代によって配偶者に対する相談相手としての認識や、相談先の広がりに違いがあることがわかった。しかし、当然ながら、悩みを相談しあうことだけが良好な夫婦関係というわけではない。共通の趣味の話題など、楽しい話題を提供しあい笑顔で時間を共有することも十分に有意義な夫婦の在り方である。

では、悩みを相談するということは、夫婦関係においてどのような意味を持つのだろうか。悩みや不安を相談することは、その解決策を得る手段であると同時に、相手に自分を理解してもらうための有効な方法である。言い出しにくい自己を開示し、それが相手から受け入れられることで関係性が深まることは、心理学的に示されている(注3)。確かに、かつて友人や恋人に悩みを打ち明けた瞬間を思い返してみると、勇気を出して悩みを相談し、相手に受け入れられたとき、相手との関係がより深まったと感じた経験はなかっただろうか。悩みを相談することをきっかけに、親密な関係性が形成され、親密な関係性だからこそ、さらに悩みを相談できるようになる――この繰り返しによってより深い夫婦関係が築かれていくと考えられる。したがって、楽しい話題だけでなく、時にネガティブな気持ちや悩みを打ち明けること、そして打ち明けられた側がそれを受け入れるという相互行為が、年代を問わず夫婦の信頼形成において重要な意味を持つのである。

一方、最近では、生成AIに悩みや感情を吐露する人が若い年代を中心に増えていることが指摘されている(注4)。確かに、生成AIに悩みを打ち明けることで、解決に向けた有効な情報を即座に得ることができる。何より、生成AIは自分の悩みを否定することもないため、その返答により傷いたり、苛立つリスクが最小限で自分の悩みを吐き出すことができる。これからの傾向として、「辛い感情はAIに吐き出す」「悩んだ際にはまずAIに相談する」という人びとは急速に増えていくだろう。そうなれば、悩みを相談しあう夫婦の在り方は、今よりも珍しいものとなっていくかもしれない。

しかし、このような時代においても、相談行為を通じて夫婦の信頼を育む意義は失われないはずである。だからこそ、悩みを分かち合える相手を大切にし、打ち明けられた言葉に丁寧に耳を傾ける姿勢が、これからの夫婦関係、そしてすべての人間関係においていっそう求められていくのではないだろうか。


【注釈】

  1. 福重清「若者の友人関係はどうなっているのか」浅野智彦編『検証・若者の変貌 失われた10年の後に』2006年/浅野智彦「若者の友人関係とそのゆくえ」『現代思想 特集<友情>の現在』2024年など

  2. 平山順子,柏木恵子「中年期夫婦のコミュニケーション態度:夫と妻は異なるのか?」『発達心理学研究』第12巻 2001年

  3. 心理学の研究者である榎本博明は自己開示の意義として、①自己への洞察を深める②胸の中にたまった情動を発散する③親密な人間関係を促進する④不安を軽減すると整理している/榎本博明『自己開示の心理学的研究』1997年

  4. 『「対話型 AI」に感情を共有できる人は 64.9%「親友」「母」に並ぶ“第3の仲間”に』株式会社電通ニュースリリース 2025年7月(2025年10月最終閲覧)

【参考文献】

  • 日本家族社会学会全国家族調査委員会「第4回全国家族調査(NFRI)」2023年

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

政策調査部 副主任研究員
専⾨分野: (2026年4月~)資産運用

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