ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

ライフデザイン30年史(3) 経済的ゆとり感の変遷

~女性を中心にみられる低下傾向とライフデザインの重要性~

鄭 美沙

目次

1.経済的ゆとり感の推移

当研究所では、人々の生活実態と意識の現状や変化を把握するため、1995年から2025年の間に「ライフデザインに関する調査」を計13回実施し、書籍「ライフデザイン白書」やレポートなどを通じ情報発信・提言を行ってきた。本稿は、それらを振り返るシリーズ「ライフデザイン30年史」の第3弾として、「経済的ゆとり感」の変遷を概観するとともに、経済的ゆとり感を高めるためには何が必要かを探る。

ライフデザインにおいて、「経済的な資金計画」は重要な要素の一つである(注1)。そのため、当研究所の調査では、「あなたの暮らし向きは、好きなことをしたり、ほしいものを買う経済的ゆとりがありますか」という設問を用いて、「経済的ゆとり感」を1995~2021年まで計11回にわたり定点調査を行ってきた。図表1はその結果である。

図表
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「かなりゆとりがある」「ある程度ゆとりがある」と回答した人を「ゆとり感がある」と捉えると、経済的ゆとり感がある人の割合は、1995年は54.9%と半数を超えていた。そこから低下が続き、2010年の44.3%を底に上昇に転じる。2021年は49.2%まで上がったが、1995年の水準には戻っていない。

2021~2025年は、経済的ゆとり感に代わり、家計と資産の満足度を10点満点で尋ねている。その平均値は、2021年4.31点→2023年4.56点→2025年4.26点であり、直近2025年は2021年より低下している(図表省略)。満足度が高いほど、経済的ゆとり感があると回答する傾向がみられているため、2025年時点で経済的ゆとり感がある人は、2021年度より少ない、あるいは同程度と推測される。

このように、経済的ゆとり感がある人は1995年より減少している。一方で、2021年は「かなりゆとりがある(6.4%)」と「ほとんどゆとりがない(18.2%)」の割合が、どちらも過去最高となっている。水野(2022)でも指摘されているとおり、経済的ゆとり感の二極化が広がっているといえる。2025年においても、家計と資産の満足度が8-10点の高得点層が12.6%である一方で、全く満足していない(0点)も14.1%と少なくない。

2.性別・年代別の経済的ゆとり感

ゆとり感がある人の割合を、性別に示したものが図表2である。性別では、女性の方が男性より割合が高い傾向が続いている。一方で、ゆとり感がある人の減少幅は女性の方が大きく、男女差は縮小しつつある。男性は、1995年から2010年にかけて10ポイント程度低下し、39.9%まで下がったものの、その後は上昇に転じ、2021年には1995年と同水準に達しつつある。女性では、2010年および2015年を底に回復傾向はみられるものの、その回復幅は男性ほど大きくなく、1995年から2021年の間に8ポイント低下している。

図表
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性別・年代別でより詳細にみると、経済的ゆとり感がある人の割合は、1995年から2021年の間に男性の60代では上昇し、女性60代と男性20代以下・30代はわずかの低下にとどまる(図表3、図表4)。また、基本的には男女ともに、どの時点でも30-40代が低い傾向がみられる。これは、子供の教育費や住宅資金等で家計の負担が重くなるためと考えられる。ただ、特に1990年代では、50代にはそうした負担が軽減されるとみられ、経済的ゆとり感のある人の割合が上昇していたが、2021年では男女ともに、50代は30-40代と同程度のままである。

図表
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1995年と2021年の比較で、変化が最も大きかったのは、20代以下の女性である。経済的ゆとり感がある人は、18.6ポイント減少した。1995年の20代以下では、経済的ゆとり感のある女性の割合は66.4%であり、男性より10ポイント以上高かった。一方で、2021年では女性の方が約3ポイント低くなっている。また、30代でも、男性45.8%、女性44.7%と、男女でほぼ同水準となる。図表2で示したとおり、経済的ゆとり感がある人は女性の方が多いが、そうした傾向は40代以降に生じているようだ。また、その次に変化が大きかったのは、50代の男女であり、1995年から2021年の間にともに10ポイント程度低下した。

2021~2025年の家計と経済/資産の満足度の推移をみても、50代男女と20代女性は、2021年から2025年に若干上昇しているものの、大きな変化はない(図表5)。先述のとおり、満足度が高いほど、経済的ゆとり感があると回答する傾向がみられているため、どちらの属性も、経済的ゆとり感はあまり回復していないと推測される。

図表
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3.相対的評価から考える経済的ゆとり感

では、経済的ゆとり感はどういった要因によって形成されるのだろうか。一つは、所得や金融資産の影響がある。2021年の結果を世帯年収別にみると、世帯年収が1,500万円以上の世帯では、27.9%が「かなりゆとりがある」と回答している。一方で、400万円未満では29.5%が「ほとんどゆとりがない」という状況だ(図表6)。

図表
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ただ、経済的ゆとり感は、年収が同水準でも違いがあるように、絶対水準だけで決まるものではない。一般的に、幸福度や満足度など主観的な価値評価は、相対的な比較にも左右されるといわれている。たとえば、Michalos(1985)の「多次元不一致理論」(Multiple Discrepancy Theory)では、幸福度や満足度は、個人が認識する現在の状態と、複数の参照点との比較によって決まると指摘されている。具体的には、現在保有しているものと、欲しているものや他者が保有しているものとの乖離、過去最もよかった状態との乖離、過去に期待していた状態あるいは将来期待している状態との乖離等である。この乖離が小さいほど、幸福度や満足度は高まるとされる。つまり、周りとの比較、過去の自分との比較、そして将来に対する期待との比較が、経済面での満足度ともいえる経済的ゆとり感にも影響を与える可能性がある。

1995年から経済的ゆとり感がある人の割合が大きく低下した50代と20代女性に当てはめてみよう。まず、1995年当時の50代は、定年や老後の生活が視野に入ってくる時期であり、年金制度等への信頼感から将来の資金計画は比較的見通しやすかった。一方で、現在の50代は、老後の資金不足に対する不安が強まっている。60歳定年後の再雇用も一般的であるほか、女性の就業率も伸びており、「50代=定年準備期」ではなくなっている。こうした将来に対する、特に経済面での不確実性の高まりや、まだまだ現役で働かないと暮らしていけないという当初想定していた50代のイメージとの乖離が、経済的ゆとり感の低下につながっている可能性がある。

次に、20代女性について考えてみる。1995年当時は、男女の役割分担意識が強く、女性は結婚・出産を機に退職することが一般的であった。その結果、長期的なキャリア形成を強く意識する女性は多くなく、自身の所得を同世代の他者と比較することも、相対的に少なかっただろう。一方、現在では、女性の就業継続が一般的となっている。ライフコースや働き方の選択肢は多様化し、描ける将来像の幅が広がった反面、参照点の複数化・高度化により、期待との乖離も生じやすい面がある。加えて、SNSの普及により、他者の生活水準や消費行動を日常的に目にするようになっている。図表1で示した「かなりゆとりがある」人々の生活を、SNSを通じて自分の生活と比較できてしまう。

こうした環境変化は、女性がお金やキャリアに関する自己決定権を獲得してきた結果でもあり、一概に否定的に評価すべきものではない。一方で、男女の賃金格差など構造的課題が依然として残る中で、周囲や期待との乖離が生じやすくなり、結果として経済的満足度が低く、ゆとりも感じづらい状況となっていることも示唆される。

以上、50代と20代女性について考察したように、経済社会環境の変化が、経済的ゆとり感を判断する際の参照点と本人の現状との乖離を拡大させた可能性がある。

4.ライフデザインとファイナンシャル・ウェルビーイング

経済的ゆとり感を高めるには、まずは経済の活性化や賃上げなどにより、所得の絶対水準を高める必要があるだろう。次に、有効となるのがライフデザインの設計である。ライフデザインの設計状況別に、経済的ゆとり感がある人の割合をみると、設計ができている人ほど割合が多い(図表7)。特に、「現在考えているところである」と「ある程度設計ができている」の差が大きく、設計しているかどうかがポイントになっているようだ。

図表
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この理由の一つとして、ライフデザインを通じて、将来への期待や資金計画と、そこに至るまでの道筋が明確になることが考えられる。目指す将来像が漠然としている場合、いつどのような資金が必要になるのか、また、そのための資産形成が十分に進んでいるのか把握しにくい。その結果、自身の経済状況を楽観的に捉えるケースもある一方で、将来に対する漠然とした経済的不安を抱きやすくもなる。また、経済的ゆとり感を評価する参照点が、自ら設定した目標ではなく、他者の状況に置かれやすくなり、相対的な比較を通じて、経済的ゆとり感を感じにくくなる可能性もある。

これに対し、ライフデザインがあると、自分にとって「経済的にゆとりを感じる状態」と、その実現に向けた道筋が明確になり、現実的な参照点を持つことが可能となる。結果として、曖昧な将来像や他者との単純な比較に左右されにくくなったり、将来不安を適切に把握し、コントロールできるようになることから、経済的ゆとり感の形成につながると考えられる。

現在、経済産業省やこども家庭庁において、ライフデザイン支援が進められている(注2)。こども家庭庁では、「若い世代が自らのライフデザインを行うことに企業等が積極的に関わり、支援することが当たり前に行われるようになり、ライフデザイン支援が社会全体に広がることを目指す」とし、今後企業の取組みに関する情報が発信される予定である。

近年は、人的資本経営の一環として、従業員のファイナンシャル・ウェルビーイング向上への関心も高まっている。ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、「現在および将来の金銭的な債務を十分に支払うことができ、将来の自身の経済面に安心感を持ち、人生を楽しむための選択ができる状態」を指し、国内外で注目が集まっている概念である(村上,2023a)。村上(2023b)は、日本のファイナンシャル・ウェルビーイングは、世帯年収や世帯金融資産のような客観的な要因よりも、主観的な経済的ゆとり感の影響が大きく、その引き上げが効果的とあきらかにしている。すなわち、ライフデザインは経済的ゆとり感の醸成を介してファイナンシャル・ウェルビーイングの向上に寄与するということであり、企業にとっても取り組む意義は大きい。

今後、賃金上昇を上回るインフレや物価高が継続した場合、経済的ゆとり感はさらに低下する懸念がある。実際に、1節で示したとおり、経済的ゆとり感と連動している「家計と資産の満足度」は、2025年には低水準となっている。経済的ゆとり感を持てない状況は、消費の停滞を通じて経済の低迷につながるおそれがある。ファイナンシャル・ウェルビーイング向上の観点からも、その改善は重要となる。

したがって、賃上げなどによる所得の絶対水準の引き上げに加えて、ゆとり感のような主観的な評価をいかに高めるかについても引き続き目を向けていく必要がある。とりわけ、政府や企業においては、経済的ゆとり感が1995年の水準に戻っていない現状を踏まえ、生活者のライフデザインに寄り添った支援や施策の在り方を検討することが求められる。


【注釈】

  1. 当研究所では、ライフデザインを、経済的な資金計画だけではなく、仕事や学業、家庭、余暇など、生活にかかわる様々な面を含む総合的な人生設計と定義している。

  2. 経済産業省では、2025年にライフデザイン経営を掲げ、企業による従業員のライフデザインの実現支援を推奨している。こども家庭庁でも「若い世代視点からのライフデザインに関する検討会」を設け、若い世代のライフデザイン支援について検討を進めている。(鄭美沙「【1分解説】ライフデザインとは?」2026年)

【参考文献】

鄭 美沙


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

鄭 美沙

てい みさ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: ライフデザイン・ライフコース、金融リテラシー

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