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2026.01.26
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育児休業をキャリアリスクとしないために
~女性の離職を防ぐための制度から、活躍を支援する制度へ~
福澤 涼子
- 目次
1.育児休業の取得がワーキングマザーのキャリアリスクになっている現状
子どもを産み育てながら働き続けるために、育児休業制度は欠かせない。実際、正社員として就業する女性のうち、第一子出生者の約7割が、育児休業を取得して就業を継続している(注1)。一方で、拙稿「ワーキングマザーがキャリアをあきらめるとき」では、育児休業を取得したために昇格が遅れたり、復帰時に職務内容を変更されるなど育児休業の取得がワーキングマザーのキャリア形成に大きく影響を及ぼす点に言及した。育児休業取得によるキャリア上のリスクを最小限に抑え、早期に活躍できる社会を実現するためには、どのような対策が必要だろうか。本稿では、このような問題意識の下、企業の制度・支援策を中心に、育児休業の望まない長期化を防ぐための自治体による支援や夫婦間での協力についても合わせて検討する。
2.育児休業者の原職復帰に「配慮」以上の対応を
育児休業をキャリア上のリスクとしないために、企業にはどのような制度や支援策が求められているだろうか。育児休業は、子どもが1歳になるまで(保育所に入所できない場合は2歳まで)取得できることが法律で定められているが、従業員1,001人以上の企業のうち36.4%は、2歳以降も育児休業を取得できるなど、法定水準を上回る制度を設けている(注2)。しかし、制度がいかに充実していても、復職後の配置や評価の在り方次第では、育児休業が依然としてキャリア上の不利として作用する可能性がある。そこで以下では、キャリア形成にとりわけ大きな影響を及ぼすと考えられる、①復職後の人事配置、②昇進・昇格に関わる人事評価の二つの視点から検討する。
現行の育児・介護休業法では、育児休業から復帰する労働者について、「原則として原職又は原職相当職に復帰させるよう配慮する」ことが企業に求められている。「原職相当職」とは、①休業後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと、②休業前後で職務内容が異なっていないこと、③勤務する事業所が同一であること、のすべてを満たす場合とされている(注3)。この点について、拙稿「ワーキングマザーがキャリアをあきらめるとき」では、育児休業復帰後に異なる職務内容や事業所に配属されるなど、原職復帰が叶わなかった複数のケースについて言及した。原職復帰が叶わなかった背景としては、復帰時に原職ポジションに空きがなかったことや、「管理職になるにあたり他部門を経験させる」という会社の慣習が優先されたことが挙げられる。
育児・介護休業法では、減給や降格など育児休業取得者にとって不利益となる扱いは禁止されているものの、職務内容についての原職復帰はあくまで企業側の「配慮」にとどまり、法的拘束力を有しない。そのため、ポジションの空きがないなどを理由に、原職復帰がかなわない事例は少なくないと考えられる。
一方で、保育所に入所したばかりの子どもは高い頻度で体調不良になりやすく、また子育てのために残業が難しいなど、復職直後の安定した就労は決して容易ではない。こうした状況下で新たな職場に配置され、早期に成果を求められることは、通常の人事異動と比べても、より大きな負担を伴うといえる。
原職復帰の利点として、育児休業前に築いてきた人間関係を生かし、円滑に職場復帰できる点が挙げられる。たとえば、数年ぶりの職場復帰となる場合、ビジネス上の会話スキルやパソコン操作スキルの回復に時間を要することもある。さらには社内システムや規定など職場環境が大きく変更されていることも少なくないが、よく知る人が身近にいることで気軽に質問でき、早期のキャッチアップが可能となる。
そのような育児休業復帰直後の状況を踏まえると、原職復帰には現行制度で「配慮」と位置付けられている範囲にとどまらず、きめ細やかな対応が求められる場合がある。育児休業復帰者のみを特別に優遇すべきではないものの、組織全体の生産性や人材活用の観点からみても、復帰後の円滑な業務遂行や早期の活躍を促すためには原職復帰が望ましい場合は多い。そのため、育児休業取得者の復帰後のキャリアを十分に見据えないままポジションを欠員補充することを避け、原職復帰を前提とした人員配置の工夫を行うことが重要である。ただし、育児休業取得者の欠員補充をしない場合には、カバーする同僚の業務負担が増してしまい、不公平感や両者の分断につながりかねない。それを防ぐため、業務の一部を外部へ委託したり、業務効率策を施したり、負担が増す同僚への手当なども合わせて検討していく必要があるだろう。
3.育児休業取得を昇進・昇格のリスクとしないために
次いで、育児休業が昇進・昇格に与える影響について検討する。育児休業の取得期間に応じて昇進・昇格が遅れる仕組みとなっている場合、キャリア形成に前向きな女性ほど、出産とキャリア形成との間で葛藤を抱えやすくなると考えられる。
では、企業は育児休業取得者に対して、どのような評価方針を有しているのだろうか。図表1は、昇進・昇格の条件として連続して一定水準以上の評価結果があることを条件としている場合で、当該査定期間中に育児休業期間が重なった者の評価方針を示したものである。
これによると、「特に評価の方針を示していない、定めていない」と回答した企業が27.9%と最も多い。評価方針が明確に定められていない場合、評価基準や判断プロセスが個別対応に委ねられやすく、評価の一貫性や透明性が確保されにくくなるおそれがある。また、「育児休業中は評価対象とせず、復職後の期間のみを評価する(直近EFは2期しかないため、次のGの評価を待つことになる)」とする企業も18.7%存在する。この場合、仮に図表1のAの期間において高い成果を上げていたとしても、その直後に育児休業を取得すると、その成果は昇進・昇格の判断に反映されない。結果として、育児休業の取得が昇進・昇格の時期を後ろ倒しにする構造が生じているといえる。

また、管理職登用の条件として必要在級年数を課す企業も多いが、この在級期間に育児休業期間を含めない制度設計の場合、いかに能力や実績の高い人材であっても、育児休業取得者は同期と比べて昇格が遅れることになる。
このような評価方針のもとでは、キャリア形成に前向きな人ほど、納得感やモチベーションが下がり、人材育成の観点からも非効率な結果を招くおそれがある。育児休業を昇進・昇格のリスクとしないためには、休業前後の人事評価を連続したものとして取り扱うことや、昇進・昇格に必要な在級年数に育児休業期間を算入することなどの人事評価制度を設けることが望まれる。
4.年度途中でも入園できる保育所を増やす
次いで、育児休業の望まない長期化を防ぎ、ブランク期間を短縮することで、女性のキャリア形成を促すための自治体に求められる支援について言及する。
子どもは年間を通じて出生するため、子どもが1歳になるまで育児休業を取得できる環境を整えるには、1歳になる時点で入所可能な保育所の確保が不可欠である。しかし、保育所の入所時期は4月に集中しており、地域によっては年度途中での入所が困難な状況が続いている。その結果、0歳児の4月入所に合わせて育児休業を早期に切り上げる人や、1歳までは自宅での保育を希望する場合には、1歳になった4月まで入所を待たざるを得ないケースが生じている。
厚生労働省「保育所入所時期の柔軟化に関する調査研究事業報告書(2020年)」によれば、年度後半に子どもが生まれた家庭ほど、希望する時期に入所できない、保育所に入れないために育児休業を延長せざるを得ないなど不利益を抱える傾向が指摘されている。対策として年度途中の入所を事前に予約ができる「入園予約制」を導入している自治体もあるが、特に待機児童の多い自治体では制度導入が難しく、2019年末時点で「入園予約制」を実施する自治体は全体の4分の1程度にとどまる。
もっとも、保育所の待機児童数は近年、大幅な改善が見られている。こうした状況を踏まえ、年度途中の入所が可能な保育所を拡充していくことは、育児休業の望まない長期化を防ぎ、就業する母親のキャリア形成を支援するうえで、重要な意味をもつと考えられる。
5.夫婦交代で育児休業を取得する
最後に、育児休業の望まない長期化を防ぐための方策として、父親と交代で育児休業を取得することについて検討する。たとえば、第一子を8月に出産し、子どもが1歳になった4月に保育所へ入所させる場合、母親は産前産後休業を含めて、合計21か月程度職場を離れることになる。しかし、母親と父親が交代で育児休業を取得すれば、母親の就業中断期間を大幅に短縮することが可能となる。
それにもかかわらず、実際に父母が交代で育児休業を取得し、母親の早期職場復帰につなげている事例は多くない。その背景として、男性の育児休業取得率が依然として低いこと、また取得した場合でも期間が極めて短く、交代取得のメリットを十分に享受しにくいことが挙げられる。厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」によれば、男性の育児休業取得率は40.5%であり、女性の86.6%と比べて依然として大きなジェンダーギャップが存在する。さらに、「令和5年度雇用均等基本調査」によると、育児休業を取得した女性の92.5%が半年以上取得し、45.6%が1年以上取得しているのに対し、男性で半年以上取得している者は6.4%、1年以上取得している者は1.6%にとどまっている。
男性の育児休業取得が進まない要因としては、収入面の問題が大きい。厚生労働省「令和4年度仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書」によると、正社員で働く男性が育児休業を取得しなかった理由として最も多いのは、「収入を減らしたくなかったから」(39.9%が回答)である。育児休業開始後6か月間は賃金の67%が給付される。家計への影響を最小限にするためには、夫婦のうち相対的に賃金の低い方(多くの場合、妻)が休業を取得するほうが合理的と判断されやすい。一方で、育児休業を半年以上取得すると給付率は50%に低下するため、夫婦の年収差が大きくない場合には、育児休業を交代で取得するほうが、給付率の高い期間を最大限活用でき、世帯年収の観点から有利となる可能性もある。
もっとも、育児休業の取得を「現時点の収入差」のみに基づいて判断すると、男女の賃金格差が大きい日本においては、妻が自身のキャリアよりも夫のキャリアを優先する選択となりやすい。その結果、夫婦間の賃金格差がさらに拡大し、家庭内でのキャリア優先順位が長期的に固定化するおそれがある。そのため、育児休業の取得については、短期的な収入のみならず、夫婦双方の長期的なキャリア形成という視点から検討することが重要である。
また、「収入の減少」に次いで、男性の育児休業取得を阻む要因となっているのが、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった、または会社や上司、職場の理解がなかったから」(22.5%)という点である。男性の育児休業取得に関する制度的認知は進んでいるものの、長期取得となると、上司や同僚からの心理的な抵抗が依然として存在すると考えられる。性別によって制度利用のしやすさが左右される状況を改善するためには、企業による職場研修や制度周知の強化に加え、私たち一人ひとりがジェンダーバイアスを自覚し、留意することが求められる。
さらに、女性の早期職場復帰を促すにあたり、男性の育児休業取得が十分に機能していない背景として、「日本の育児休業は女性が子育ての主たる担い手であることを前提に、男性『も』関わることが当然視されている」という課題が指摘されている(注4)。夫婦の同時取得を前提としたままでは、いくら男性の育児休業取得を促進しても、女性のキャリア形成支援としての効果は限定的である。一方、北欧や西欧諸国の一部では、母親の職場復帰を促す仕組みとして、男性のみが取得可能な育児休業期間が設けられている。このような夫の単独育児休業は、妻の育児休業期間の短縮に資するだけでなく、夫の家事・育児スキルの向上や家庭参加意識の定着を通じて、長期的に妻のキャリア形成を支える効果も期待できる。
男性が単独で育児休業を取得する事例がほとんど見られない日本においては、まずはそのような選択肢が存在することを広く周知し、その実践を後押ししていくことが重要であろう。
6.育児休業を次なるステージへ引き上げる
以上で見てきたように、育児休業の取得がキャリア上のリスクとならないようにするためには、「育児休業」を次なるステージへ引き上げていくことが求められている。これまでの育児休業は、どちらかといえば女性の離職を防止する制度として位置づけられてきた。しかし今後は、子育て期にある女性の活躍を積極的に支援する制度へ、さらに必要に応じて男性もある程度の期間を取得することが可能な制度へと進化させていくことが求められる。
そのために、企業に求められることは大きく三つある。一つ目は、育児休業が真に活躍促進の仕組みとして機能しているかを点検し、休業取得が昇進・昇格などのキャリア上の不利に働かないよう、復帰後の人員配置や評価制度も合わせて整備していくことである。二つ目は、制度が男女ともに利用しやすいものになっているかを確認し、社内研修などを通じて職場の理解を深めていくことである。三つ目は、育児休業取得者とそれをフォローする社員の公平性にも留意し、両者の分断を防止することである。近年では、取得者の同僚に一律で手当を与える企業も増えており(注5)、育児休業の取得が歓迎されるような職場風土を醸成していくことが重要である。
あわせて、育児休業の取得をめぐる価値観についても、一人ひとりがアップデートをしていくことが求められる。現状では、男女間で取得率や取得期間に大きな隔たりがある。「女性が育児休業を取るのが当たり前」との思い込みを見直して、夫婦それぞれのキャリアや家庭生活にとって望ましい選択は何かという視点で、丁寧に話し合っていくことが重要である。さらに、育児休業を取得する当事者だけでなく、その周囲にいる同僚や上司、家族を含めた環境の側にも意識の変化が求められる。男性が一定期間の育児休業を取得することや、女性が必ずしも主たる育児の担い手とならない選択に対して、否定的な評価や先入観を持っていないか、社会全体として改めて点検していく必要があるだろう。
【注釈】
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国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」2023年
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厚生労働省「仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業 仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書<企業調査> 令和2年度」2021年
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厚生労働省都道府県労働局雇用環境・均等部(室)「育児・介護休業法のあらまし」2025年3月
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中里英樹「持続可能な家族政策・労働政策としての育児休業」『フォーラム現代社会学 (24)』2025年
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日本経済新聞電子版(2025年10月17日記事)では、大手の金融機関を中心に最大で10万円の「同僚手当」を設ける企業が広がっていることが報道されている。また、国としても中小企業向けの育児休業者の業務を代替するための支援制度として、代替する周囲の労働者への手当支給などの取組、代替要員の新規雇用を行った場合に支給される助成金(両立支援等助成金)を設けている。/厚生労働省・都道府県労働局「両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)支給申請の手引き(2024年1月版)」)
【参考文献】
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所浩代「2021年改正育介法とワーク・ライフ・バランス支援法制の課題―原職復帰原則の検討」『ジュリスト』有斐閣2022年
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中里英樹『男性育休の社会学』さいはて社2023年
【関連レポート】
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福澤涼子「ワーキングマザーがキャリアをあきらめるとき~キャリア展望を持ち続ける人と、喪失する人の違いとは~」2025年12月
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福澤涼子「子育て期に必要なキャリア形成支援とは~およそ半数が子どもの誕生後、キャリアプランの変更・喪失を経験~」2025年5月
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福澤涼子「管理職につくことだけが、女性活躍か?~現代における女性活躍のあり方を考える~」2025年10月
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福澤涼子「ワーキングマザーの活躍支援~「両立」だけではなく、「活躍」もできる社会に向けて~」2022年12月
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福澤涼子「夫婦間の家事・子育て分担とキャリア形成~配偶者との分担の満足度が、女性のキャリア形成意識を高める~」2025年6月
福澤 涼子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

