ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

食生活の自己点検で、より健康に、より豊かに

~ライフステージの変化に応じた栄養がもたらす健康~

後藤 博

目次

生活のエネルギー源となりバランスが求められる栄養の摂取は、健康な心身の維持に不可欠であり、その積み重ねは、生活習慣病の予防・重症化防止など健康面や生活の質に影響する。適切な栄養の摂取は生活様式やライフステージの変化に応じて変わるとの見方も一般的になってきた。そこで本稿では、こうした側面を踏まえ、食生活面で留意することについて考察する。

1. 見直しが続く栄養に関する基準・政策

厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」は、健康の保持・増進を図るうえで、摂取することが望ましいエネルギー及び栄養素の量の基準を示すもので、食生活の変化や研究成果に基づき、5年毎に改定される。最新の基準は、2020(令和2)年度から5年間を対象とする2020年度版となっている。

直近の改定においては、活力ある健康長寿社会の実現に向けて、きめ細かな栄養施策を推進する、高齢者のフレイルを予防する、若年から生活習慣病の予防を推進するという3つの観点から基準が見直された。

また、2024(令和6)年度に開始となる「次期国民健康づくり運動プラン」の策定においても、栄養・食生活は重要な要素の一つとされ、検討が進められている(注1)。

さらに、成長を妨げる栄養不足と、生活習慣病を引き起こす栄養過多の両面への対応は、世界共通の課題でもある。東京栄養サミット2021やアジア栄養士会議2022など国際的な会合で、各国政府・国際機関が今後の栄養に関する課題の解決に向けたコミットメントを発表し、栄養状態の改善に向けた取り組みを促している(注2)。

2. 適切な食事による栄養・健康面での効果

適切な食事を通じた栄養素の摂取は、心身機能の維持、病気の予防と回復に重要である。栄養素とは、食物の中に含まれているさまざまな物質のうち、生命活動を営むため人間の身体に必要な成分であり、体をつくるタンパク質、体を動かすエネルギー源となる脂質・糖質、体の調子を整えるビタミン・ミネラルなどに分類される(注3)(図表1)。

図表1
図表1

栄養素の過不足は、さまざまな健康問題を引き起こす。たとえば、ビタミンDの不足は骨粗鬆症、ミネラルのカルシウム過剰は泌尿器系結石の発症リスクを高めるという(注4)。また、適切な栄養摂取は免疫細胞のはたらきを強める。具体的には、粘膜を強化し腸内環境の調整、生まれながらに備わる自然免疫や生後に獲得する獲得免疫、抗酸化作用に関係するビタミン各種が必要となり、これらを多く含む食品をバランスよく摂ることが大切となる。特に腸には、免疫をつかさどっている免疫細胞全体の約7割が集中していることもあり、腸内環境をより良い状態にするために食事や運動に気を遣う「腸活」という言葉もある。

また、傷病の回復においても、適切な栄養摂取は免疫力の確保とリハビリテーション(以下 リハビリ)の観点から重要となる。「免疫力の確保」については、たとえば、病原体が侵入したり異常細胞が出現した場合、病原体や傷ついた細胞から放出される物質などを免疫細胞が異物として認識し、異物を攻撃・排除するはたらきをする。このはたらきのためには、ビタミンや正常な細胞をつくるためのタンパク質が必要となる。

一方、リハビリにおいても、効果的に実施するため、十分なエネルギー量を確保するための栄養摂取が重視されるようになっている。不適切な栄養管理の中でリハビリを行うと、不足するエネルギーを補充するため、筋肉に蓄積された必要な成分を分解してエネルギーに転換されてしまう。このため、リハビリ内容に見合う栄養素の補給が必要となる。こうしたことからも適切な栄養管理が大切であり、栄養ケアの管理を行うことで、回復効果を促している(注5)。管理栄養士や栄養士(以下 栄養士等)などの専門職による診断や相談機会を通じて自身の栄養状態を確認したり、栄養に関する理解を深めたりして適正な栄養状態に保つことが望ましい。

3. 日常に取り込みたい栄養状態の自己点検

栄養状態を適切に保つためには、利用できる支援サービスに目を向け、自身に適合するものを活用することが望ましい。具体的には、①医師・栄養士等への相談、②身近な相談拠点での相談・指導、③信頼ある情報サイトの活用などが考えられる。

①については、栄養状態に不安を感じる場合には、まず担当医やかかりつけ医に相談することが望ましい。医師の紹介から、栄養士等による栄養相談・指導につながることもある。今は健康であっても、食生活の改善や栄養バランスの見直しが必要な場合はあるし、スポーツをしている人や妊婦、高齢者など、年齢やライフスタイルによっては、食事摂取量や栄養バランスに特別な注意が必要なこともある。

栄養相談では、自分に合った食事や栄養バランスに関する専門家からの指導・助言を通じて、自分の食生活や健康状態を客観的に見直すことができる。現時点で健康や栄養状態に不安がなくても、健康維持・向上のために、栄養相談を利用することは有用である。

②の身近な相談拠点での相談については、市区町村の保健所や保健センター、あるいは栄養ケア・ステーションで受けられる。栄養ケア・ステーションは、栄養士等が所属する地域密着型の拠点で、地域住民をはじめ、医療機関、自治体、健康保険組合、民間企業、保険薬局などに栄養士等を紹介する機能をもつ。地域住民も栄養相談や特定保健指導等に関する幅広い栄養ケアの支援・指導を受けることができる(図表2)。

2021年4月現在、全国に356拠点が展開されており、その事業主体はWebサイトでも確認できるようになっている(注6)。栄養ケア・ステーションには、各都道府県の栄養士会のほかに、日本栄養士会が認定する認定栄養ケア・ステーションもある。主に一定の要件を満たす薬局や個人事業主が認定されており、その数は増えつつある(注7)。

栄養ケア・ステーションのサービスとして、個人宅訪問を含む相談対応、健診後の食事指導、レシピや献立の考案、スポーツ栄養に関する相談、セミナーや研修会への講師の紹介などが受けられる。調剤を行う保険薬局では、栄養士等と薬剤師の連携により、薬と食品の食べ合わせやサプリメントの飲み合わせなどの相談も可能となっている(注8)。ただし、事業主体毎に特性があり、当ステーションがすべての支援事業を展開しているとは限らないので、その点には留意する必要がある。

図表2
図表2

③の情報サイトの活用については、自身で栄養のバランスの見直しや食生活の改善に取り組みたい場合、たとえば「食事バランスガイド」を食生活の自己点検に役立てることもできる(注8)。「食事バランスガイド」は、望ましい食生活について1日に「何をどれだけ食べたらよいか」の目安を分かりやすくコマのイラストで表示している(図表3)。

その特徴は、「何をどれだけ食べたらいいか」を、食べる時に食卓で目にする状態である「料理」で示していることで、一日に食べると良い目安の多い順に上から「主食」「副菜」「主菜」「牛乳」「乳製品」「果物」と5つの料理区分で示している。これらの組み合せによって一日の目安となる食事量を検討するガイドとなっている。

食事は毎日のことであり、健康の基本となることから、日々の食事の量とバランスに関心をもって、より健康的な生活につなげたい。

図表3
図表3

4. より健康で豊かな人生のデザインに

健康は、体質や環境だけでなく、当然ながら食生活の影響も受けるため、これからの食事摂取は将来の健康に影響する。

適切な栄養の摂取は、バランスのとれた食事によって成り立つもので、免疫力を高め、病気に対する耐性を強化する。同時に糖尿病、高血圧など生活習慣病の発症リスクを低減する。

また特定のビタミンやミネラルの欠乏は、うつ病、認知機能障害などを引き起こす可能性があるが、食事摂取が適切であれば、認知機能を向上させ、ストレスや不安を軽減させることができる。職場でのパフォーマンスの向上や学習能力の維持・向上も期待できるだろう。

適切な食事は、将来にわたり生活の質の維持・向上をもたらす。そして、健康的で楽しい食事は、家族や友人との交流を促し、社会的なつながりを深めることにもつながる。必要に応じて専門職による客観的な指導を受けながら、食事に関する自己点検を実践し、より健康で豊かな人生のデザインに役立ててみてはいかがだろうか。

【注釈】

  1. 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会及び専門委員会において検討が進み。2023年春を目途に次期プランが公表される予定。
  2. 東京栄養サミット2021は2021年12月に日本政府が主催した国際的な首脳会議。2030年までに飢餓を終わらせ、食料安全保障と栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進するというSDGsの目標に沿った、誰一人取り残さない日本の栄養政策を推進し、進捗状況と成果を毎年公表する旨、表明された。
  3. 厚生労働省 実践的指導実施者研修教材
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/info03k.html
  4. 国立循環器病研究センター病院「栄養に関する基礎知識」
    https//www.maff.go.jp/j/balance_guide/kakudaizu.html
  5. 森脇久隆、大村健二、若林秀隆「治療を支える疾患別リハビリテーション栄養」南江堂
    2016年3月
  6. 公益社団法人日本栄養士会ホームページ 全国の栄養ケア・ステーション
    https://www.dietitian.or.jp/carestation/
  7. 栄養ケア・ステーションは厚生労働省の委託事業として2008年9月より日本栄養士会によって開設され、各都道府県に普及した。その後2018年度より日本栄養士会以外の事業所等の設置を日本栄養士会が認定する「認定栄養ケア・ステーション制度」が開始された。
  8. 「栄養ガイド」は厚生労働省と農林水産省の共同で2005(平成17)年6月に策定された。 コマの形で示すことにより 食事のバランスが悪くなると倒れてしまうこと、コマが回転することによりはじめてバランスが確保できることから、食事と運動の両方が大切であるというメッセージが込められている。また水お茶などの水分も一日の食事の中で欠かせない身体の主要な構成要素という意味から、コマの軸として菓子・嗜好飲料は楽しく適度にというメッセージを添えてコマの紐として表現されている。

【参考文献】

  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」2020年1月
  • 森脇久隆、大村健二、若林秀隆「治療を支える疾患別リハビリテーション栄養」南江堂
    2016年3月

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 シニア研究員
専⾨分野: 保健・介護福祉、障害者アドボカシー

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