ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

Withコロナに向けた働き方へ

的場 康子

目次

1.Withコロナへの新たな段階

2022年9月、国は患者の全数届出の見直しや、陽性者の自宅療養期間の短縮化などを盛り込んだ「Withコロナに向けた政策の考え方」を発表した。それは、2022年の夏、大規模な第7波の感染拡大に見舞われたものの、新たな行動制限を行うことなく感染者が減少したことなどを受けて、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図るべく、新型コロナウイルス対策が新たな段階に移行することを示している。

このような政策移行期に、当研究所では5回目の「新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」を実施した。本調査をもとに本稿では、2020年に感染拡大後に普及したテレワークの定着状況を確認するとともに、今後のWithコロナ時代の働き方を展望する。

2.テレワーク実施者は減少傾向

2020年4月、初めて緊急事態宣言が発令された中で、就業者にはテレワークが要請され、全国でテレワークが広がった。その当時、「ほぼ毎日、テレワークをしている」(以下「フルタイム型テレワーク」)人は18.5%、「週の中で出勤とテレワークをする日がある」(以下「ハイブリッド型勤務」)人は14.6%であり、合計すると3割を超す人がテレワークを活用していた(図表1)。

2021年9月調査も、第5波の感染拡大により、大都市圏を中心に緊急事態宣言が発令された中で実施されたものであったが、フルタイム型テレワークも、ハイブリッド型勤務も減少し、「ほぼ毎日、出勤している」(以下「出社勤務」)人の割合が65.4%と増加した。2020年5月調査では約4人に1人に上った「休業」を余儀なくされている人の割合も、1割台に減少したので、コロナ前の働き方に徐々に戻った人が多いことがうかがえる。

今回の2022年9月調査では、テレワークを活用して働いている人はさらに減少し、フルタイム型テレワークとハイブリッド型勤務を合わせても17.0%である。2020年の感染拡大直後は、感染対策としてテレワークが広まったが、働き方の選択肢の一つとしてテレワークが定着するためには、テレワークに対する理解や環境整備などの面で、まだ課題が残されているようだ。

図表1
図表1

3.テレワークに慣れてきた?

ただ、テレワーク実施者に注目すると、テレワークという働き方に適応しつつある様子もうかがえる。例えば、感染拡大により多くの人がテレワークを経験する中で、テレワークは職場の人とのコミュニケーションに課題があることが浮き彫りになった。こうした中、テレワーク実施者のコミュニケーション面での意識の変化をみると、今回調査では前回調査よりも「職場の人とのコミュニケーションが減った」と回答した人が減り、「職場の人とのコミュニケーションが増えた」と回答した人が増えている(図表2)。これは、感染拡大が始まって以来、オンライン環境の整備が進み、チャットやWEB会議、通話、ファイル共有などができる様々なオンラインコミュニケーションツールが広く利用されるようになったことなどが背景にあると思われる。こうしたツールを徐々に使いこなせるようになり、オンラインでのコミュニケーションに慣れてきた人が増えたのではないか。ただし、今回調査でも約4割の人が「コミュニケーションが減った」と回答しており、職場のコミュニケーションの課題については、引き続き対応が求められる。

また、テレワークという働き方の選択肢が増えたことで、時間や場所を自ら選んで仕事ができるようになった一方で、テレワークでは仕事ぶりが見えないということで組織管理体制の見直しも余儀なくされた。こうした中、今回調査では、業務遂行にあたり「自律的に働けるようになった」と感じているテレワーク実施者が前回調査よりも増えている。その背景には、テレワーク下においてもコミュニケーションを重視し、組織と個人の信頼関係の構築をベースに組織目標の共有化を図り、その達成のために個人に裁量を与え、力を発揮してもらうことで、組織と個人双方の成長を目指すという組織管理体制の再構築を図る企業が増えたことがあるのではないだろうか。

働いている人全体ではテレワークをしている人は限定的であるものの、テレワーク実施者に注目すると、コミュニケーション面や業務遂行面で、テレワークに適応して生き生きと働いている人が増えているのではないかと思われる。

図表2
図表2

4.今後の働き方の展望

今後の働き方についての希望をたずねた結果を性・年代別にみたものが図表3である。

多様な働き方の一つ、「ワーケーション(観光地や帰省先などでの休暇先でテレワーク)をしてみたい」という人は、男女ともに20代、30代に多い。また、「キャリア形成のために学ぶ時間を増やしたい」も同様である。男女ともに20代、30代の学びへの意欲の高さがうかがえる。

感染拡大やウクライナ情勢など様々な環境変化により、既存事業の改革や新しい事業への対応が求められている。人材確保・採用のためにも、また社員の力を最大限に引き出すためにも、今後は柔軟な働き方を可能にし、働き方の選択肢を複数用意することは重要な視点である。

他方、「仕事以外の趣味・ライフワークの時間を増やしたい」「家族と過ごす時間を増やしたい」という人は、男女ともにどの年代も半数以上に上る。大きな社会変化を経験し、自分の生活を見つめ直して、自分なりにワークライフバランスを大切にしつつ暮らしていきたいと思った人も多いことと思われる。

さらに、「家族(配偶者など)のキャリアを重視して働きたい」かをたずねたところ、女性のみでなく、男性も20代、30代の4割以上が肯定的な回答をしている。これまでは、夫の転勤などのために女性のキャリアが犠牲になることが多く、女性のキャリア形成における課題とされてきた。男性側も、こうした状況を問題視していたようで、今後は妻のキャリアも重視して働きたいという男性が一定程度おり、20代男性では半数近くに上る。共働きがほぼ当たり前となっている20代、30代の多くは、夫婦でキャリア形成を考えて働きたいと思っているようだ。

図表3
図表3

5.Withコロナの働き方

コロナの感染拡大からもうすぐ3年が経とうとしている今、テレワークの普及は限定的ながらも、テレワーク実施者の間では、着実にテレワークに対応して成果を上げる働き方を目指そうとしている。こうした人々の働き方の事例を社会に広めて、テレワークをさらに普及させる取り組みにつなげることが重要である。これからのWithコロナ時代は、多くの人が自分なりのワークライフバランスを保ちながら働くことを望んでいるし、そのことを可能にするには、誰にとっても働き方の選択肢が複数用意されていることが必要であるからだ。

わが国は今、感染拡大防止と社会経済活動の両立を図るWithコロナへの政策移行を進めている。Withコロナに向けた働き方として重要な視点として、最後にもう一つ、「健康重視の働き方」を挙げておきたい。今回、社会経済活動の活性化などの側面から、コロナ陽性者の自宅療養期間が短縮されたが、コロナ療養からの回復には個人差がある。十分に回復していない状態で無理に働くことを強要しないように注意が必要である。今回のコロナ感染拡大によって、健康の大切さを改めて感じた人や企業は多い。その「遺産」を忘れることなく健康重視の政策・経営が維持、拡大されることが望まれる。それが、結果的には社会経済活動の活性化につながると思われるからである。

的場 康子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

的場 康子

まとば やすこ

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: 子育て支援策、労働政策

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