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Well-being LDの視点『「タイパ」意識でキャリア形成する時代』

的場 康子

目次

コロナ下で広がった「タイパ」意識

コロナ下で社会のデジタル化が進み、効率性を重視する意識が広まっている。このことを示すものの一つが「タイパ」意識である。「タイパ」とは、費用対効果をあらわす「コスパ」(コストパフォーマンス)の考え方にならい、時間に対する効果(タイムパフォーマンス)を示し、短い時間でより大きな成果や満足度を得ようとする考え方である。若者を中心に広がったと言われ、三省堂の「今年の新語2022」の大賞にも選ばれた。

こうした中、本稿では働く人々のタイパ意識の実態と、その背景にある意識を探り、キャリア形成にどのような影響をもたらすのかを考える。

どのような人がタイパを意識しているのか

当研究所が2023年3月に実施したアンケート調査によると、「タイパを意識している」と回答した人は有職者の33.4%である。無職者は19.0%であるので、働いている人の方が自分の時間を意識して生活している人が多いようだ。

これについて、有職者を対象に性・年代別にみたものが資料1である。女性より男性の方が「タイパを意識している」割合が全年代にわたって高い。これは、就労形態や労働時間に関連するものと考えられる。パート・アルバイトよりも、正社員や公務員として働いている人の方が、また1日の労働時間が長い人ほど、「タイパを意識している」割合が高い(資料省略)。女性より男性の方が正社員や公務員が多く、労働時間も長い人が多い。こうした働き方の違いがタイパ意識にも関連していると思われる。

また、年代別にみると、男女ともに若い年代ほど「タイパを意識している」割合が高いものの、50代でも3割前後を占めており、若い年代に比べて大きな差は見られない。今やタイパ意識は、幅広い年代に広がりを見せているといえよう。

図表1
図表1

若者だけでない「時短視聴」「時短読書」

タイパを意識している人の行動の例として、「時短視聴」や「時短読書」が挙げられる。「時短視聴」とは、映画や授業などの動画を倍速で見る「倍速視聴」や、興味のないシーンを10秒単位で飛ばす「飛ばし見」などの視聴方法である。

「時短読書」とは、書籍を要約するサイトなどを活用する「読書」である。こうした「時短視聴」や「時短読書」をしている人の割合をみると、タイパを意識している有職者の7割近くが「時短視聴」をしており、半数以上が「時短読書」をしている(資料2)。年代別にみると、若い年代の方が高いものの、50代でも半数以上が回答している。コロナ下で加速したデジタル化とともに若者の間で広がった「タイパ」意識・行動は、今や幅広い年代に広がり、生産性や効率性を求める価値観が社会にさらに浸透しつつあるようだ。

図表2
図表2

タイパの背景にある意識は?

実際、有職者の生活意識をたずねた結果をみると、「効率的に多くの情報を得たい」(効率性重視)、「いつも時間に追われている感じがする」(忙しさ)、「早く成長したい」「社会のトレンドに乗り遅れたくない」(焦燥感)といった意識への回答割合が、特にタイパを意識している人は高い(資料3)。先に、労働時間が長い働き方をしている人ほどタイパを意識している人が多いことを示したが、それは、忙しいために、効率性を高めて、自分の自由になる時間を何とか捻出したいという意識が関連していると思われる。

キャリア形成にも影響を与えるタイパ意識

さらにここで注目したいのは、「早く成長したい」である。これは自分のキャリアに対する「焦燥感」の表れであり、特にタイパを意識している人に多い。しかも、年代別にみると20代の回答割合が最も高い。若い人のタイパ意識は、成長志向の強いキャリア観と関連していると思われる。

その背景として一つには、若者世代が受けたキャリア教育の影響もあるだろう。自分のキャリアを早期に考え、効率的なキャリア形成を求められて育ってきた。また、ジョブ型雇用が注目され、専門性を重視する働き方への関心の高まりもある。新卒採用時に職種別採用をする企業も増えている。早期に必要なスキルが明確になり、望むキャリアに早く到達できる利点が指摘されている。また、女性の「キャリア形成の早回し」を導入する企業もある。出産のタイミングまでに前倒して中核業務の経験を積ませることで、女性のキャリア意識を高め、活躍推進を図るのが狙いである。このように、早く、効率的にキャリア形成が求められていることを若者は敏感に察しているのではないだろうか。

自分のやりたいことや強み、自分に合った働き方を模索しながら生きることはwell-beingにつながる。デジタル化の進展などにより、タイパのためのサービスやツールが広がり、よりタイパを意識しやすくなった。タイパによって生み出された時間にはぜひ、しばし立ち止まり、自分の生き方、働き方を見つめ直し、自らのキャリアの軸を確認することも、自身の成長のためには必要と思われる。

図表3
図表3

的場 康子


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