ワーケーションによって生み出されるメリットと普及のための課題

~企業、従業員、地域が三方良しとなる新たな旅の形の在り方~

小池 理人

要旨
  • ワーケーションは、有給休暇を活用してリゾートや観光地等でテレワークを行う休暇型と、仕事をメインにする業務型とに分類されており、業務型は更に、地域課題解決型、合宿型、サテライトオフィス型の3つに分類される。
  • 企業は、仕事の品質と効率の向上や多様な働き方の提供といったワーケーションのメリットを理解するも、ほとんどの企業が就業規則等にワーケーションを規定するまでには至っていない。- 従業員のワーケーションへの認知度は約7割と高いが、テレワークができないことや仕事面での不安等から、実施率は4.3%に止まっている。
  • 地域は、企業や従業員が懸念する通信環境やセキュリティ等の課題を整備することでワーケーション需要を呼び込み、関係人口や観光消費を増加させることが求められる。
  • ワーケーション利用者である企業や従業員は仕事面での不安が大きく、このことがワーケーション普及の壁となっている。企業は就業規則の策定を進め、受け入れ先である地域においては通信環境やセキュリティなどの執務環境を整え、まずは仕事面での不安を解消することがワーケーション普及のために必要となる。
目次

テレワークの普及によって注目が高まるワーケーション

新型コロナウイルスの影響により、テレワークが急速に普及したことを受けて、2020年7月の観光戦略実行推進会議で新たな旅のスタイルとしてワーケーションを推進することが政府方針として示されたことから、ワーケーションが大きく注目を集めている。ワーケーションとは、WorkとVacationを組み合わせた造語であり、テレワーク等を活用して普段の職場とは異なる場所で余暇を楽しみながら仕事を行うことを指している。本稿では、企業、従業員、地域の3つの視点から、ワーケーションがもたらすメリットとその課題について論じていく。

ワーケーションは、大きく休暇型と業務型とに分類される。休暇型とは、有給休暇を活用してリゾートや観光地等でテレワークを行うタイプを指し、Vacationの色合いが強いワーケーションと言うことができる。休暇型は企業が有給休暇の取得促進など、福利厚生を目的に行っている場合が多く、日本におけるワーケーション導入のきっかけとなった類型となっている。一方で、業務型は仕事をメインにするものであり、その前後に休暇を楽しむタイプで、Workの色合いが強いワーケーションと言える。業務型は更に、地域課題解決型、合宿型、サテライトオフィス型の3つに分類される。地域課題解決型は地域関係者との交流を通じて地域課題の解決策を共に考える形態、合宿型は通常の業務環境とは異なる所で会議や研修等を行う形態、サテライトオフィス型は会社が設置しているサテライトオフィスやシェアオフィス等を利用してテレワークを行う形態となっている。観光庁が公表した「「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書」(以下、実態調査報告書)によると、ワーケーションとしてイメージする形態は企業・従業員共に休暇型が最も高い割合となっており、休暇型がワーケーションの代表格として認識されていることがうかがえる。

多様な働き方の提供などメリットは理解されているものの、制度面などが普及のネックに

企業がワーケーションを導入する目的としては、実態調査報告書の中で「心身のリフレッシュによる仕事の品質と効率の向上」や「多様な働き環境の提供」などが挙げられており、観光庁が2020年に実施したワーケーションの効果検証においても、ワーケーションが生産性の向上にポジティブな効果を示すことが示されるなど、企業にとってもメリットのある施策であることが明らかになってきている。しかし、実態報告書によると、就業規則等の中でワーケーションについて定めている企業はわずか0.4%に止まっており、制度としてのワーケーションの導入は進んでいない。

企業がワーケーション導入にあたって必要と思われる情報や支援として最も多く挙げられている項目が「労災、通勤災害、企業の安全配慮義務等に関する解釈の明確化またはガイドラインの策定」となっており、次いで「導入の際に整備が必要な社内規定やガイドラインのひな型」が挙げられていることから、企業がワーケーションに関する規定の策定に苦慮している様子が伺える。

また、テレワークの普及もワーケーション実施のために必要な要素となる。実態調査によると、ワーケーション導入に関する課題として、「業種としてワーケーションが向いていない」や「適用できる部署が限定的になるため、社内で不公平感が生じる」など、会社全体もしくは部署としてワーケーションに不向きなことが挙げられている。これらの回答は、直接顧客と対峙する仕事や工場のラインなどの職種を中心に、テレワークができないことに起因するものであると推察される。もちろん、全ての人がワーケーションを行うことは困難であるが、できるところから始めていくこと、また仕事を切り分けることによってワーケーションできるものとできないものを峻別し、ワーケーションをすることができる人を増やすことは可能であると考えられる。

企業がワーケーションによる従業員の生産性向上や多様な働き方の提供による優秀な人材の確保といったメリットを享受するためには、規定の策定やテレワークの推進を進め、ワーケーションを実施しやすい環境を整える必要があるだろう。

従業員のワーケーション認知度は約7割と高いが、仕事面での不安等から実施率は4.3%に止まる

実態調査によると、従業員のワーケーションへの認知度は約7割と高い一方で、実施率は4.3%に止まっている。認知度と実施率のギャップを生じさせている要因として、ワーケーションへの興味・関心を持てていないことが挙げられる。興味がない理由としては、「仕事をする場所が決まっているから(テレワークができない仕事だから)」や「休暇中や旅行中には仕事をしたくないから」、「経費と自分で負担する費用の区別が難しいから」が多く挙げられている。このうち、テレワークと費用の区別に関しては、前述のように、企業による規定の策定やテレワークの推進が求められる。

また、ワーケーションへの興味は年代が上がるごとに低下していく傾向がみられる。40代や50代は20代や30代と比較して、ワーケーションに興味を持っている人の割合が低いが、ネガティブな印象を持っている人の割合も低くなってる。業務型についての情報も含めて、40代や50代といった上の年代に対してワーケーションの有効性を訴求することは、従業員の興味・関心を高める上で有用である考えられる。

地域は、執務環境の整備等を進め、ワーケーション利用者を誘致することが求められる

地域にとってワーケーションは、関係人口の増加と観光需要の増加というメリットをもたらす。少子高齢化により日本全国の人口が減少していることに加え、都市部への人口の集中により、地方の人口減少は急激に進んでいる。関係人口とは、「地縁・血縁先の訪問(帰省含む)を主な目的としている人を除く、日常生活圏、通勤圏、業務上の支社・営業所訪問等以外に定期的・継続的に関りがある地域があり、かつ、訪問している人」を指す。関係人口の増加は、人口減少によって衰退が進む地方経済の底上げが見込まれると共に、地域コミュニティの維持や将来の移住に繋がる可能性も期待されている。また、ワーケーション利用者を受け入れることで、観光需要の創出や需要平準化の効果も見込まれる(注1)。長野県および和歌山県が全国の地方自治体に参加を呼びかけ、ワーケーションの普及促進を目的として2019年11月に65自治体により設立された団体であるワーケーション自治体協議会の会員自治体数が2021年7月には195自治体になるなど、地方自治体におけるワーケーションへの関心は高まっているが、前述の通りワーケーション実施率の水準は低い。企業や従業員といったワーケーション実施者の要望に応えることで、多くのワーケーション利用者を受け入れることが、地域を支える上で重要な要素となるだろう。

実態調査によると、企業がワーケーション導入において、受け入れ地域や施設に整備してほしいこととして、「セキュリティやスピード面が確保されたWi-Fi等の通信環境」や「入退室管理やシュレッダーなどのセキュリティ対策」といったビジネス面における環境整備が主に求められている。従業員がワーケーション実施時の懸念点として挙げているのも、「快適なワーク環境が確保できるか不安や「トラブルの発生時に対応できるか不安」、「情報セキュリティが確保できるか不安」といったビジネス面での懸念が中心となっているため、受け入れ側においても、業務実施に耐えうる執務環境を整えることがワーケーション誘致を進める上で必要になるだろう。また、「家族が楽しめるアクティビティや体験コンテンツ」や「地域の魅力を体験できるアクティビティや体験コンテンツ」といった観光面での整備も求められているが、仕事関連での項目と比較すると観光関連の項目の回答率は低い。もちろん、観光面でのコンテンツが充実することはワーケーションの質を高める上で重要な要素ではあるが、現時点ではワーケーションの受け入れ地域に対する要求は仕事関連のものが中心となっていることが示されている。

ワーケーションを普及させるために、まずはWorkへの対応が求められる

ワーケーションに関して、企業・従業員・地域のいずれもがメリットを認識しているにも関わらず、現時点でのワーケーション実施率は4.3%と極めて低い水準に止まっている。ワーケーションの普及が進まない理由は、主に仕事面での不安にあることが示されている。企業は労災適用の判断や勤怠管理、給与計算などに課題を感じ、従業員は通信環境やセキュリティなどの不安からワーケーションを敬遠する結果となっている。企業においては就業規則等におけるワーケーションの位置づけを明確化することが求められる。特に、始業・就業時刻の規定や時間外労働・休日労働を行うことの可否などについて、具体的に定めておく必要があるだろう。地域では、企業や従業員が受け入れ先に求める通信環境やセキュリティ面での整備を進めることで、安心して仕事をできる環境を整える必要があるだろう。企業における規則の策定や地域における施設の整備が進むことで、ワーケーションの実施者である従業員のワーケーション実施率を高めることができるだろう。また、テレワークの推進も継続していく必要がある。ワーケーションを行うためには、職場や自宅以外の場所で仕事を行うことが前提となるため、テレワークの実施率を高める必要がある。もちろん、全ての業種がテレワークを行えるわけではないが、仕事の切り分けを明確化するなどして、テレワーク実施率を今後も高めていく必要があるだろう。WorkとVacationを組み合わせたワーケーションであるが、普及のために、まずはWorkへの対応を強化することでワーケーションの実施率を向上させることが急務であると考えられる。


小池 理人

小池 理人

こいけ まさと

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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